社宅

ジョン・グレイディー

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第五章

悔恨と憎悪の地

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 比叡山の麓に位置する狭隘な地

 東からは間近に琵琶湖が迫り、西からは鬱蒼と茂った比叡の山裾が伸びている。

 猫の額程の僅少の地に、無駄に広い社宅敷地が悠然とのさばり続ける。

 何を力に!

 何を理由に、この令和の世においても他者から侵蝕されることなく存在し得るのか!

 愚かな人間は、琵琶湖リゾートに過大な期待を寄せ、湖岸沿いを競うように、狭い底地に上へ上へと伸びる高層マンションを乱立させている。

 それを傍目に、無用な広さを今尚、保持し続ける社宅

 この社宅には、血生臭い因果な歴史があった。

 後になって聞き及んだことではあるが…

 社宅隣地の自治会の老人から聞いたことである。

 この周辺は、第二次世界大戦中、捕虜にした連合軍兵士を収監する施設があった。

 終戦間際、敗戦色濃くなった頃合、米軍の本土上陸が危惧され始め、乱気に満ちた日本軍は、多くの捕虜を斬首した。

 首無し死体は容赦なく琵琶湖に放り捨てられ、京都へ流れる疏水の水は、いつまで経っても赤い血の色に染まっていた。

 戦後、その捕虜施設はGHQの監視下となり、米軍駐留地としての保養施設として改良された。

 これが社宅の出生である。

 保養施設は、この広大な敷地に3連列に伸びる10棟の建物が建設され、総部屋数120戸であった。

 敷地内には公園も設置され、軍車両が通行できるよう道幅も広く整備された。

 その後、GHQが去り、一時、空き家状態とはなったが、昭和30年代後半からの高度経済成長期を迎え、多くの企業がこの敷地利用に興味を示し、結果、複数企業が共同で出資する形で社員用の社宅と変身した。

 最も住居者が多い時は500人を超える人々がこの社宅で暮らしていた。

 そのため、周辺地域もその恩恵に預かり、社宅の経済効果として、今はシャッター商店街となっている近傍の商店街も活気に溢れ非常に賑わった。

 しかし、時が平成に移ると、湖岸沿いに高層マンションが立ち並び、社宅内の住民も近代設備が完備されたマンションへ徐々に移るようになって行った。

 更にバブルが崩壊し、経済悪化に伴い、社宅を管理していた各社は、社宅の維持費の捻出に苦慮するようになり、結果、3列の内2列は封鎖することが決定された。

 これが社宅の現在までの経緯である。

 不思議である。

 時代の移り変わりにより旧態物は取り壊されるのが世の常のところ、尚も古びながらも存立している。

 誰も手を出さないのか?

 立地条件も決して悪くない。

 県庁所在地の最寄駅である大津駅までは車で10分、京都への利便性の高い大津京駅には徒歩10分である。

 どうして…

 こんなにも利便の良い、狭隘地の中に広々と存在する敷地が活用されないのか…

 地元自治会の老人は言った。

「いつもいつも人が死ぬ場所やさかい、皆、怖がって、壊さんのや!

 祟られるさかいな。」と

 理由は分からないが、社宅住民の自殺者が後を絶たなかったとのことである。

 最盛期の賑わいの中でも月に1回はパトカーと救急車が停まっていたそうである。

 老人はこうも言った。

「日本中探しても、この土地ほど血を吸った土地はないでぇ!」

「都の結界の外れの地や!

 怨霊が野放しに、うじゃうじゃおるさかい…」

 歴史が物語る。

 南北朝時代、戦国時代、都を巡り、多くの人々が戦で血を流した土地

 そう、何百年もの間、正に無法地帯の戦場であり、殺戮の場であったのだ。

 知らぬが仏か!

 何も知らない俺達家族は、この後、想像を絶する恐怖を体験することとなる。

 血が染み込み、血の匂いが漂うこの地で…

 
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