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第十三章
霊媒師の涙
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悪霊祓いが開始された。
多幸は白紙と蝋燭の台皿を持ち、塩盛りの枡を持った妻が後ろに続いた。
最初はリビングの南側の窓辺に行き、多幸はお経を唱え始めた。
妻も多幸の後ろで宗派浄土宗の南無阿弥陀を唱えた。
そして、多幸はお経を唱えながら、一枚一枚、白紙に蝋燭の火を着けた。
やがて、リビングの中に煙が立ち込めて行った。
多幸は、煙の流れを見極めながら、「塩を撒いてください。」と妻に指示を出した。
妻が塩を撒き終えると、多幸は次に南側の寝室に向かった。
多幸は寝室に一歩入ると、振り返り、妻にこう問うた。
「この部屋はご主人が使っているんですか?」
「はい、そうです。」
「この部屋には入ってないみたいですね。」
「霊がですか?」
「そうです。悪霊は、どうもご主人を怖がっているみたいです。
この部屋は大丈夫です。」
多幸はそう言うと、寝室を後にし、風呂場へと向かった。
多幸は風呂場の引戸をそっと開き、例の四隅の一角を睨んだ。
そして、お経を強い声で唱え始めた。
すると、10分程すると、急に外の風が風呂場の窓ガラスを「ガタガタ」と吹き鳴らし始めた。
妻は驚き、お経を唱えるのを止め、窓ガラスを怖々と見遣った。
「強く唱え続けて!今、悪霊が逃げ出そうとしているから!」と多幸が叱咤した。
多幸と妻は声を張り上げ、お経を唱えた。
それに伴い外の風は一層強く吹き荒み、窓ガラスは割れんばかりの音を立てた。
多幸はお経を唱えながら、窓ガラスに近寄り、その鍵をしっかりと締め直した。
そして、白紙を燃やし始めた。
狭い風呂場の中に湯気のように煙が充満して行った。
多幸は煙の中に指を差し、妻にこう言った。
「見えますか?あの筋が」と
妻がその指す先を見ると、
煙の中に一筋の線がくっきりと浮かび上がっていた。
多幸はその線に向かって、「ふぅー」と息を飛ばした。
すると一筋の煙は、四隅の一角に吸い込まれるように消えて行き、同時に外の風が吹き止んだ。
「今です。塩を撒いてください。」
多幸が妻に指示した。
妻が塩を撒き終えると、多幸は妻にこう言った。
「決して隙を見せてはなりません。
いいですか!
お経を唱えながら、あの四隅から目を離さず、後ろ向きに出てください。」
妻は言われた通り、一歩一歩、後ろ歩きで風呂場を出た。
多幸は風呂場から出ると、しっかりと引戸を閉じた。
そして、ここで、大きく深呼吸をし、額の汗を拭い、北部屋を見遣った。
そして、妻にこう言った。
「ここからが正念場です。
絶対に私から離れないように!」と改めて念を押した。
多幸はゆっくりと北部屋に近づき、そっと障子の引戸を開けた。
その時
多幸には聞こえた。
幾多もの静寂の叫びが…
「泣いている…」と多幸は呟いた。
多幸には見えた。
不幸という言葉以外には何も当てはまらなかった現世
それも蜻蛉の如く、一瞬のうちに死界に突き落とされた。
さらに、そこで成仏されることもなく、悔恨の残り香に誘われるが如く、
現世の暗闇と死界の淵を漂い続けている幾多の霊が…
そして、その幾多の無下な者達の泣き声が多幸の心に響き渡った。
多幸の砂漠のような皺だらけの目尻に、久方ぶりの涙が溢れ、頬を伝い、顎から一雫、零れ落ちた。
「助けてあげるよ…、私が助けてあげるからね。」
多幸は何度もそう囁きながら、北部屋の窓ガラスに向かって微笑んだ。
多幸は白紙と蝋燭の台皿を持ち、塩盛りの枡を持った妻が後ろに続いた。
最初はリビングの南側の窓辺に行き、多幸はお経を唱え始めた。
妻も多幸の後ろで宗派浄土宗の南無阿弥陀を唱えた。
そして、多幸はお経を唱えながら、一枚一枚、白紙に蝋燭の火を着けた。
やがて、リビングの中に煙が立ち込めて行った。
多幸は、煙の流れを見極めながら、「塩を撒いてください。」と妻に指示を出した。
妻が塩を撒き終えると、多幸は次に南側の寝室に向かった。
多幸は寝室に一歩入ると、振り返り、妻にこう問うた。
「この部屋はご主人が使っているんですか?」
「はい、そうです。」
「この部屋には入ってないみたいですね。」
「霊がですか?」
「そうです。悪霊は、どうもご主人を怖がっているみたいです。
この部屋は大丈夫です。」
多幸はそう言うと、寝室を後にし、風呂場へと向かった。
多幸は風呂場の引戸をそっと開き、例の四隅の一角を睨んだ。
そして、お経を強い声で唱え始めた。
すると、10分程すると、急に外の風が風呂場の窓ガラスを「ガタガタ」と吹き鳴らし始めた。
妻は驚き、お経を唱えるのを止め、窓ガラスを怖々と見遣った。
「強く唱え続けて!今、悪霊が逃げ出そうとしているから!」と多幸が叱咤した。
多幸と妻は声を張り上げ、お経を唱えた。
それに伴い外の風は一層強く吹き荒み、窓ガラスは割れんばかりの音を立てた。
多幸はお経を唱えながら、窓ガラスに近寄り、その鍵をしっかりと締め直した。
そして、白紙を燃やし始めた。
狭い風呂場の中に湯気のように煙が充満して行った。
多幸は煙の中に指を差し、妻にこう言った。
「見えますか?あの筋が」と
妻がその指す先を見ると、
煙の中に一筋の線がくっきりと浮かび上がっていた。
多幸はその線に向かって、「ふぅー」と息を飛ばした。
すると一筋の煙は、四隅の一角に吸い込まれるように消えて行き、同時に外の風が吹き止んだ。
「今です。塩を撒いてください。」
多幸が妻に指示した。
妻が塩を撒き終えると、多幸は妻にこう言った。
「決して隙を見せてはなりません。
いいですか!
お経を唱えながら、あの四隅から目を離さず、後ろ向きに出てください。」
妻は言われた通り、一歩一歩、後ろ歩きで風呂場を出た。
多幸は風呂場から出ると、しっかりと引戸を閉じた。
そして、ここで、大きく深呼吸をし、額の汗を拭い、北部屋を見遣った。
そして、妻にこう言った。
「ここからが正念場です。
絶対に私から離れないように!」と改めて念を押した。
多幸はゆっくりと北部屋に近づき、そっと障子の引戸を開けた。
その時
多幸には聞こえた。
幾多もの静寂の叫びが…
「泣いている…」と多幸は呟いた。
多幸には見えた。
不幸という言葉以外には何も当てはまらなかった現世
それも蜻蛉の如く、一瞬のうちに死界に突き落とされた。
さらに、そこで成仏されることもなく、悔恨の残り香に誘われるが如く、
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そして、その幾多の無下な者達の泣き声が多幸の心に響き渡った。
多幸の砂漠のような皺だらけの目尻に、久方ぶりの涙が溢れ、頬を伝い、顎から一雫、零れ落ちた。
「助けてあげるよ…、私が助けてあげるからね。」
多幸は何度もそう囁きながら、北部屋の窓ガラスに向かって微笑んだ。
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