社宅

ジョン・グレイディー

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第十二章

悪霊祓いの朝

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 12月17日、師走の慌ただしさを消し去るかのよう晴天の予感の漂う綺麗な曙光が産まれた。

 その日の早朝、俺は大阪への出張のため、薄暗い社宅内の道路を始発電車に乗るため大津京駅へと向かっていた。

 多幸という霊媒師には結局会えず終いであった。

 妻はと言うと、この日、俺より先に起き、白装束の衣を纏い、白足袋を履き、儀式の準備のため、各部屋を掃除し回っていた。

 娘は丁度、友人宅に泊まりに行っていたことから、儀式が無事に終わるまで帰宅しないよう告げていた。

 多幸が、社宅前の最寄駅、京阪三井寺前駅に降り立ったのは午前9時過ぎ頃であった。

 妻は迎えに行くよう言ったが、多幸は、一人で社宅に向かうとそれを断っていた。

 三井寺前の道路脇に疏水が見える。

 多幸は疏水を目指し、道路を右に曲がった。

 左側向こうに3階建の古びたコンクリート造りの建物が見えた。

 そこで多幸は用心した。

 一歩一歩、まるで山を登るような足取りで社宅に向かって行った。

 多幸は京阪電車の踏切を渡切り、左手に見えた両脇石膏の開かれた門を潜った。

 潜った瞬間、多幸は立ち止まった。

 いや、正確には立ち止まされたのだ。

 多幸は燻しげに眼前に立ちはだかる比叡の山裾を見遣った。

「山々が怒っているか…」

 多幸は一言呟いた。

 眼前に見えた比叡本山の下僕達

 その上には、嫌らしい橙色の陽光を放つ太陽が浮かんでおり、其れ等一体は、恰も片眼の妖怪山のようにも見えた。

 多幸は何か一つ唱えると、スッと片足を踏み出し、摺り足で歩くように5号棟を目指した。

 5号棟の前に着き、多幸は社宅の階段を登って行った。

 すると、いきなり、203号室の電灯が「パチパチ」と音を立てて点滅を始めた。

 多幸は玄関前で立ち止まり、今から始まる出来事が壮絶なものになるかのよう、大きく深呼吸をし、また、何かをぶつぶつと唱えながら、呼鈴を押した。

 妻が玄関を開けると、多幸は直ぐには中に入らず、ちらっと左側の北部屋を見遣り、

「その部屋は最後にしますか…」と独り言を呟き、

 そして妻に対し、

「草履のまま上がります。」と言い、妻の答えを待つ事なく、中に上がって行った。

 多幸は初めて訪れた部屋ではないかのように、玄関から右に進み、リビングに入って行った。

 多幸はそこで、換気扇の下に用意された、蝋燭、白紙、台皿を確認すると、こう妻に言った。

「いいですか。部屋のあらゆる窓を閉めてください。邪気が外に逃げないように。」と

 妻は各部屋の窓を確認し、多幸に全て閉まっている旨を告げた。

 すると、多幸はリビングの椅子にゆっくりと腰を下ろし、妻にも座るように言い、そして、今から行う儀式についての注意を説明し始めた。

「今から各部屋毎に白紙を燃やし、邪気を払った後、塩を撒き、邪気を埋没させます。」

「埋没?」

「そうです。浮遊している邪気を下に追い遣り、葬るのです。

 地縛霊が本来棲むべき下方にね。」

 多幸は説明を続けた。

「小野さんは必ず私の後ろに居てください。

 決して、私から離れてはいけません。」

「はい…」

「儀式が終わっても部屋に外気を通してはなりません。

 儀式の効果は満月が天頂に達した時から始まります。」

「満月が天頂に…」

「今から12時間後です。」

 妻は時計を見た。時計は午前10時前を指していた。

 多幸は説明を続ける。

「この儀式は結界を創設します。」

「結界?」

「邪悪な霊が浮遊しないよう、生き人々の安静なる空間を創り、死する人々との境界を隔てるのです。」

 妻は取り敢えず頷くだけとなった。

 多幸はゆっくり立ち上がり、

「それでは始めましょう。小野さんは、私の後ろから絶対に離れないように!」と妻に念を押した。

 妻は大きく頷いた。

 多幸は緊張している妻の顔色を窺い、暫し、思案した後、ゆっくりとこう言った。

「万が一、私から離れた場合は、目を閉じ、声を出さずに般若心経を心で唱えてください。」

 それを聞いた瞬間、妻は身震いをしながら、多幸にこう問うた。

「離れてしまう…、事も起きるのですか?」

 多幸は妻を厳しく見遣り、こう言った。

「必ず邪魔が入ります。

 いいですか!

 私の忠告は必ず守ってください!

 いいですか!」

 妻はゆっくり頷いた。

 多幸はそれを見て、囁いた。

「貴女は狙われていますから…」と
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