社宅

ジョン・グレイディー

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第十一章

満月赤口の日

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 俺は一通り妻から霊媒師『多幸』の話を聞いた。

 やはり俺がここに来て真っ先に感じ取った北部屋が諸悪の根源であった。

 俺は改めて問題の風呂場と北部屋を見に行った。

「風呂場の四隅か?」

 この社宅の風呂場はタイル張りの壁の古い造りであり、所々、タイルが欠けていた。

 多幸の指摘した四隅

 ここもタイルが欠落ち、確かに窪みのような穴があった。

「あそこよ!あの穴から見てるって…」と妻が恐々と指差した。

 俺はその穴を「ぎゅっ」と睨んだ。 

 が、何も感じなかった。

 問題は北部屋だ。

 北部屋の窓ガラスと押入れ…

 いち早く違和感が伝わって来た場所だ。

 俺は北部屋に行き、窓ガラスを凝視した。

「ここにね。びっしりと子供の霊、地縛霊が張り付いているって…」と妻が囁く。

「地縛霊か…」と俺は呟きながら、頭の中には、あの電車四両目の屍が張り付いた窓ガラスの光景が浮かんでいた。

 悔恨の想い…

 不遇の者達の悔しさが、誰かに知って欲しく、見て欲しく、その無惨な願いが張り付いている。

 俺はこの窓ガラスを初めて見た時の黒のビニールシートを思い出した。

 闇に葬られ、悔恨の想いが決して陽に当たることなく閉ざされていたように…

「遊びたがってるって?」

「うん。寂しがってるって言っていたわ。」

「そっか…」

 俺は何か切ない想いが胸の中に広がった。

 そして、最後に押入れの四隅を見ようとした。

 日当たりの悪い北部屋の押入れの四隅

 陽光が窓ガラスを通じて、薄らと押入れの中を照らしていた。

 妻は何も説明しない。

 完全に怖がっていた。

 俺は問題の四隅の一角を睨んだ。

 何も見えなかった。

 何も感じなかった。

 虚無感だけが漂う暗闇だけしか眼前には無かった。

 俺は横で下向いてる妻に言った。

「お前、引っ越すまで、リビングを使ったら?」と

「いいの。私はこの部屋を使う。」

「怖くないのか?」

「怖いけど…、私が逃げたら…、子供達に向かいそうで…」

 妻は自身が犠牲になる気でいた。

 悪霊祓いの日は12月17日と決まった。

 月齢は満月、暦は赤口

 何でも多幸が言うには、暗闇の深淵から悪霊が這い出す日が満月・赤口の日であり、この日に儀式を行うのが、最も効果があるとのことであった。

 当日は全身白装束で般若心経を唱えながら、白紙を燃やし、塩を振る。

 今まで妻が行っていた素人手法とそう違いわなかった。

 だが、専門家の多幸が現地に居るというのが信頼感を増していた。

 儀式の準備は妻に任せた。

 俺は不動産屋と新居の賃貸契約を交わす直前まで話を詰めていた。

 琵琶湖東側の栗東市の駅前にある10階建の賃貸マンションの最上階の部屋

 間取りは3LDK、家賃は駐車場代込みで月10万円

 初期費用は引越し代を含み、約70万円の出費となった。

 仕方がない。

 入居日は住居者が12月中旬に引越し、その後、メンテナンスが入り、正月休みを挟んで、最短でも年明け1月中旬頃であった。

 俺は不動産屋と契約締結後、妻に物件を下見に行こうと誘ったが、

「私は行かない方が良いと思うの…」と妻は乗り気でない。

 その理由を聞くと、

「何かね。最近、何処に行っても見られているような気がするの…」

「何に?」

「分かんないけど、誰かに…」

「お前、考えすぎだよ。」

「いいの。兎に角、12月17日の儀式が終わったら、落ち着くと思う。」

「分かった。」

 妻は覚悟を決めていた。

 

 

 
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