社宅

ジョン・グレイディー

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第二十六章

いつも隣にお前が居た

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 真夏の夜、俺は小綺麗で洒落た新築建物の庭の隅に潜んでいる。

 俺が見る先は、2階の部屋の灯りだ。

 熱帯夜に時折、夜風がそそぎ、その部屋のカーテンがゆらゆらと靡いている。

 俺はその灯りが暗くなるのを待っている。

 部屋明かりがゆっくりと小さく萎んだ。

 俺はこれから始まる儀式の段取りを把握しているかのように両耳を両手で塞ぐ。

 しかし、俺は次第に耳から手を離し、儀式の絶頂を聞き逃さないよう耳を澄ます。

 やがて、虫の鳴き声に混じり、2階の部屋から啜り泣きが聞こえ出す。

 俺は立ち上がり、軒下に行き、2階へと続くベランダポール柱の上段を掴み、体を引き上げ、ポール柱中段凹みに足を掛けて、ベランダへとよじ登った。

 そして息を潜め、カーテンと啜り泣きが淫靡に靡く、その部屋の中を覗き込んだ。

 部屋の中はベットサイドのライトがピンク色に薄く灯り、

 ベットの上からは、体液と汗が擦り合い、擦れ合うクチュクチュとした音がリズム良く鳴っており、

 そのリズム音の合間、合間に、歓喜の啜り泣きが迎合していた。

 今、俺の目の前で、恋人が脚を大きく広げ、他男の物を俺の許可無く、容易く受け挿れていやがる!

 俺は気配なく立ち上がり、淫靡に靡くカーテンが大きく梵いだ瞬間、

 そっと網戸を開き、中に入り込む。

 愚かな盛りのついた淫獣共は、俺の気配に全く気付く様子もなく、無我夢中で快感を貪り続けていやがる!

「愚か者!裏切り者!」と

 俺は冷たく呟くと、腰脇に差し込んだ柳刃包丁を握りしめ、軋むベットに忍び寄り、女に跨る男の首を突き刺した。

 そして、魚を活〆するよう突き刺した包丁で頸動脈を押し切った。

 すると他男の身体は「カタカタ」と痙攣をし、女の裸体に倒れ込んだ。

 女は未だによがっていやがる!

 愚かな裏切り女は、他男が昇天したと思っていやがる!

 他男の痙攣が止まり、絶命したにも拘らず、物を咥え込んだまま、よがり声を出し、腰をくねらし、振り続けていやがる!

 俺は他男の首から包丁を引き抜き、血飛沫が迸る中、死体を追いやり、よがっていやがる女の喉元に包丁を突き刺した。

「うぐっ」と一つ声を漏らした女は目を見開き、鬼神の表情の俺を見つめた。

 俺は先と同じよう魚を活〆するかのように、包丁を深く深く突き刺し、頸動脈をぶった斬った。

 裏切り女は目を見開いたまま、痙攣を始め、やがて瞳孔を開いたまま、息を引き取った。

 俺は女の喉元から包丁を抜き取ると、裏切り女の顔面を何十回、いや、何百回と突き刺しまくった。

 何も考えない。何も感じない。

 ただ、ただ、突き刺した。

 我に返る。

 そこは夢の中で見た森の中であった。

 俺は夢と同じよう、当てもなく森の中を彷徨い続ける。

 やがて、光が見え出す。

 俺は光に誘われる。

 そして、光の中を覗き込むと、

 サークルエリアのベンチに『白い服を着た女』が腰掛けていた。

 俺は咄嗟に叫んだ!殺した恋人の名を!

 そして、こう吠えた。

「俺を裏切るからだ!」と

 すると、サークルエリアの光がベンチにスポットライトのように集中した。

 そして、女がこっちをゆっくりと見遣る。

 その女は恋人ではなかった。

 女はゆっくりと立ち上がると俺に向かってこう囁いた。

「私は貴方を決して裏切りません。」と

 次の瞬間、俺はワープしたように女の前に立っていた。

 綺麗な女であった。

 黒髪は潤い、瞳は茶色掛かったブラウン色、鼻筋は通り、西洋の美少女のようであった。

 俺は女に問う。

「何故、そう言える!」と

 女は言う。

「私は愛を裏切らない。」と

 そして、女は俺の手を握ると、

「行きましょう!2人だけの世界へ」と言い、俺の手を引っ張って行く。

 サークルエリアの暗闇の外に一歩踏み入れると、その眼前には
水瓶のような、聖水のような水面が現れた。

 女が躊躇なくゆっくりと水面に片足を踏み入れると、

 水面の中に道が現れた。

 万華鏡の中の光景のように、道脇は7色の色彩が朧げに輝いていた。

 2人はゆっくりと道を歩む。

 すると、道脇がはっきりと描画されたかのように祭りの露店が現れた。

 さらに、静寂にとって代わり、囃子太鼓の音色が響いて来た。

 どこまでも続く縁日の風景

 女は俺の中指にそっと薬指を絡ませながら歩いている。

 俺は女を見遣る。

 女の顔は下向き加減ではあるが、美しい笑みを浮かべていた。

 俺は女に聞く。

「何処まで続くんだ…、この道は…、この先に2人だけの世界があるのかい?」と

 女はそっと頷き、こう言った。

「もう誰にも邪魔されない2人だけの愛に満ち溢れた世界に行くのよ。」と


 俺は思わず女の掌を強く握りしめた。

 女も俺の掌を強く握り返した。

 俺は女に言った。

「俺もお前を決して裏切らない。」と

 その瞬間、

 俺は夢から覚めた。

 愕然とした。

 そして、俺は全てを了知した。

「見ていたんだ…、そうだ…、俺は見続けていた。

 何十年間も、見続けていたんだ。

 俺の隣には、いつもあの女が居た…」と
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