“イチバン”好きな人とは結婚できない

ジョン・グレイディー

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第十章

2人は同じ人間なのだ!

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 「美咲、また、来てるよ、3年生の工藤さん、美咲ばかり見てるね。」

 「ラグビー部の主将でしょう。1年の時からマネージャーに成れ成れとしつこかったのよ…、私、野球派だからね、断ってたの。」

 「早々と県大会初戦大敗、頭悪いし、女に向いて来たわけね。」

 「あの、餓鬼みたいな顔、悍ましい!」

 「でも、美咲、どうすんのよ?
あれ、完全に待ち構えてるスタンスだよねー」

 「うーむ、まぁ、流石に乙女に手を出さないしょっ、ね!」

 「そりゃ、殴ったりはしないと思うけど、ありゃ、デビルマンに輪をかけて、しつこそうだよねぇー。」

 「デビルマン、顔は怖いけど、男気なさそうだもんね…」

 「あっ、ホームルーム終わっちゃった、ありゃ、入ってきたよ~、美咲ぃ~」

 「藤田、ちょっといいかい?」

 「いやぁー、今日、学級当番で、ちょっと…」

 「学級当番なんて、しなくていいよ。すぐ終わるからさ!」

 「何処に行くんですか?」

 「うん、ついて来て。」

 「嫌です。」

 「なんでだよぉ~、良いんじゃんか? ちょっとだけだよ。」

 「本当に本当、ちょっとだけですよ。」

 「うん、こっち、こっち」

 美咲は工藤の後をトボトボ、肩を落とし着いて行った。

 「え、工藤先輩、ここ、ラグビーの部室じゃないですか?
 嫌ですよ、私、入りませんから!」

 「心配するなって、話すだけだよ。」

 工藤はそう言うと、部室のドアを開け、美咲の背中を押すように、部室に押し込んだ。

(…うっわぁ~、カビ臭い~、嫌だよ~、茂樹君、助けてよ~…)

 「あのさ、お前、彼氏いないって聞いたんだ。俺も彼女、いないんだ。付き合わないか!」

 工藤はそう言いながら煙草に火をつけた。

 美咲は「嫌です」と言い、部室のドアを開けて出ようとしたが、ノブを回してもドアは開かなかった。
 外で工藤の仲間がドアを押さえていた。

 「いいじゃんか?付き合おうぜ!どうせ、俺が目を付けたんだ。他のやつは、お前に近寄って来ねえよ。」

 「私、好きな人がいるんです。」

 「誰だよそいつは?」

 「なんで、貴方に言わないといけないんですか?」

 「お前に近寄らねえように、してやろうと思ってな。男は強い方が、いざという時、頼りになるぜ。」

 その時、突然、部室のドアが開いた。

 「お前、2年の堀内か?」

 「そうだよ。」

 「何しに来たんだ、お前には関係ないだろうが!」

 「いやね、お前が卒業するまで、半殺しにしてやろうと思っていたんだよ。
 あれ、藤田、お前、何してるの?マネージャーかい?ちょっと、邪魔だから、出ていきな。」

 「うん!」

(…テレパシーで繋がってるのよ、私のボディーガードとね…)

 「あれ、この人達がドア押さえていたのか。こりゃ、監禁ですよ。先生に言いますからね!」

 部室のドアの前には、顔面血だらけの部員2人がのびていた。

 「分かった、堀内、お前が強いの分かったから、やめよう、な!」

 茂樹は何も言わず、工藤の顔面を左手で鷲掴みすると、片手で吊り上げ、赤子を捻るみたいに、工藤の首を捻り、その激痛で工藤は気を失ってしまった。

 茂樹は伸びた工藤の頬を叩き、気を戻させると、工藤にこう言った。

 「あんたが、2年の女に手を出すのは勝手だが、藤田に手を出したら、お前、俺が殺す。」と

 「お前、藤田が気に入ってるのか?」と工藤が言った瞬間、

 工藤の溝内に茂樹の足が食い込んだ。

 「う、う、う、」と、声が出せず工藤はのたうち回った。

 その工藤の耳ともで茂樹がそっと囁いた。

 「藤田と俺は中学同じなんだよ。そう覚えとけ。つまらないこと言ったら、本当に殺すよ。」と

 工藤は、小学生のように、シクシクと泣き、何度も何度も頷いた。

 茂樹は自分を止められなかった。美咲を連れ込むことが許せないのと、抑うつ状態の反動として、激しい怒りが込み上げていた。

 「ゴンー」と茂樹の拳が工藤の顔面に食い込んだ。

 工藤の鼻は潰れ、前歯は全て折れ落ちた。

 茂樹が部室を出ようとすると、美咲が立っていた。
 そして、美咲は茂樹の埃の付いた学生服をハンカチで叩いてくれた。

 そして、美咲はウグゥウグゥ踠いている工藤を一瞥し、茂樹の後ろを着いて行った。

 茂樹が振り返らずに美咲に行った。

 「俺、許せなかった。」と

 美咲は茂樹に小声で、

 「し、げ、き、く、ん、た、す、け、て、!
 ってね、念じたの」と笑いを堪えながら言った。

 「美咲ぃ~、大丈夫~」

 「紫穂、うん、堀内君が…」

 「俺ね、ちょうど、3年のボス狩りに行ったら、藤田が居たんだ。
 藤田、運が良いなあ、お前は。」

 「うん!」

 次の日から学食の3年のボス席には茂樹が座っていた。
 他の3年も包帯だらけの工藤の顔を見ると、茂樹には何も言えなかった。

 「凄いねぇ~、茂樹君!
 カッコいい、美咲、助けられたんでしょ、茂樹君に!」

 「中野さん、どうして知ってるの?」

(…まぁ、紫穂たんしかいないが、一応、ね…、演技、演技と…)

 「紫穂から聞いたよ。たまたま、茂樹君、ボス狩りに行ったんだってね、良かったね美咲~」

 「うん!運が良かったよ~」

 「私さ、茂樹君、好きなんだぁ~」

 「えっ、中野さん、彼氏、いるんじゃないの?」

 「彼氏じゃないのよ、男友達!
茂樹君、大好き~、カッコいい~」

 「でも、茂樹君、女嫌いだから…」

 「だから好きなの。私だけを大事にしてくれそうなの!」

(…気が早いな、この女…)

 「あっ、茂樹君~、ちょっとだけ、お話しても良いかな?」

 「消えろ!」

(…凄いわ、一殺だよ、茂樹君…、安心したぁ~、私の茂樹君だ、やっぱり…)

 「美咲、見てたんでしょ、美幸、あの中野美幸、茂樹君に全く相手にされなかったんだってぇ、トイレで泣いてたよ。」

 「紫穂たん、嬉しそうだね」

 「うん!」

(…やっぱり、こんな時の返事は飼い犬並みだわ…)

 「茂樹君、昨日、助けてくれてありがと!」

 「うん!廊下見たら、工藤が居たから、必ず美咲に言い寄るって思ってたから…」

 「うん、どうしたの?」

 「俺、本当に殺しかけたよ。美咲に手を出すやつは、俺が殺す!」

 「うん!やっつけて!」

 「えっ、殺しても良いのか?」

 「うん、茂樹君以外に変なことされるぐらいなら、私、自殺するから、そんな奴、殺して!」

 「やっぱり、俺と美咲、同じ人間だよね。性別が違うだけみたいだよね。」

 「うん!私もそう思ってたの!
中野美幸、殺したろうかって、思ったくらいだわ!」

 「あの、尻軽女ね、調子の良い女だよ!」

 「茂樹君、大好き~」

 「俺は美咲、一筋だからな!」

 「もうすぐ、クリスマスだねぇ~」

 「うん、ここも寒くなっただろう?」

 「うんにゃ、茂樹君に抱きつけばあったかいのだ…」

 「今度、クリスマスイブ、夜、出れるかい?」

 「うん!大丈夫!何とかするよ!ありがとう、茂樹君!」

 「もう一つ、誰も来ない場所があるんだ、そこに連れてってやるからね。」

 「うん!」

 美咲は、嬉しかった。
 やっぱり、心の願いが、茂樹に通じることが…
 必ず助けに来てくれると信じていたこと、必ず他の女の言い寄りを一蹴すること、クリスマスイブのデート、何もかも…

 そして、茂樹が言ってくれた。

 「俺たちは同じ人間」と

     美咲は、とっても嬉しかった。

 そして、茂樹の胸に顔を埋めながら、「ずっと同じ人間、これからもずっと同じ人間」と何度も呟いた。
 






 
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