“イチバン”好きな人とは結婚できない

ジョン・グレイディー

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第二十章

人格変化

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 次の日、脳梗塞の血栓を取り除くカテーテル手術が行われた。
 手術室前には茂樹の母親と美咲の姿があった。
 手術開始2時間後に医者が手術室から出て来て、母親は診断室に呼ばれた。

 医者は母親に言った。

「血栓の除去は上手く行きました。
 術後の脳内の血流状態も異常なく身体異常や言語障害といった後遺症もおそらく大丈夫でしょう。」

 母親はホッとしたように医者にお礼を言った。

「それでですねぇ…、問題が一つ…」と医者が言葉を選び出した。
 
 母親の安堵感は一瞬にして消え、医者の顔を覚悟を決めたように見つめた。

「お母さん、前にも言ったように、茂樹君の場合、うつ病が根底にあります。
 脳梗塞の血栓の位置がですね…、右脳の前頭葉部分でしたので…、所謂、血栓うつ病状を引き起こす、いや、従前のうつ病を更に悪化させる可能性が極めて高いかと…」

 母親は医者に問うた。

「どんなふうに酷くなるですか?」と

 医者は母親に言った。

「精神障害による『せん妄』を引き起こし、錯乱状態等が発症することが考えられます。
 例えば、せん妄の症状には、睡眠障害、幻覚・妄想、情動・気分の 不安定... 不眠、と多種多様なんですが…
 茂樹君の場合は、既に睡眠障害、不眠、記憶喪失といった状態が生じており、この状態が強まると…」

「先生、どうなるんですか?言ってください!」

「幻覚や妄想に駆られて、人格障害、分かりやすく言いますと、特に重要な事実、茂樹君の自我、心のキーポイントを思い出せなくなり、急に人が変わったような『人格の変化』が発生します。」

 母親は何がなんだか分からないように医者を見つめ続けた。

「お母さん、これからは、『あれ?、茂樹君じゃないみたい?』と思われる事が多々現出して来ると思います。
 しかし、それも精神病状の一種です。治療すれば必ず治ります。」と医者は力強く母親を励ました。

「先生、どんなことに気をつければ良いのでしょうか?」と母親は医者に不安そうに聞いた。

「茂樹君がどんな事を言っても、これは病気だ!と対処してください。
 真に受けるとお母さんや身近な人達がびっくりします、そして、傷付きます。
 良いですか、決して真に受けない事です。これが肝要となります。
 治療的には脳内ホルモンのセロトニン等の排出量を調整する為、点滴による投薬治療を行います。」

 母親は少し落ち着いたように溜息を一つ付いた。

 医者が母親に念押しをした。

「今、脳梗塞の手術が上手く終わりました、自殺未遂による記憶喪失はこの手術で治癒されたと思ってください。
 そして、改めて、うつ病の悪化、人格障害、人格の変化が表出されて来ます。
 その時に、先に言った通り、それは病気だと!それを承知して対応してください。
 茂樹君の言動に周りがあたふたすると、本人も混乱してしまい、完治が遅れますから、いいですね!」と

 母親は「分かりました。」と言い、診断室を後にしようとした時、医者がもう一言念を押した。

「お母さん、要は茂樹君の自殺未遂するほどの原因を特定すること、これが一番重要ですよ」と

 母親は部屋に戻り、唯一の相談相手である美咲に医者からの説明を詳しく話した。

「人格障害、人格の変化ですか?」と

「そうなの、だからね、もし、茂樹が美咲ちゃんに変な事を言っても、気にしちゃ駄目だからね!」

「分かりました…」

 美咲はまた怖くなった。

 美咲ほど、この何か月の間に、茂樹の意識の急転を目の当たりにした人間はいない。
 これ以上、どんなふうに茂樹が変化するのか?、どう考えても美咲にとって良い方向に変化するとは思えなかった。

 カテーテル手術の次の日、茂樹は麻酔から覚め、医師の術後の面談、触診も受け、身体障害、言語障害等は見受けられなかった。

「母さん、俺、どのくらい寝てたの?」と茂樹が母親に問うた。

「そんなに長くはないよ。2、3日くらいかな?」と母親は嘘を言った。

「母さん、今、5月だよね、俺、何月から入院してるの?」

「2月の中旬からだよ。それから、茂樹、記憶を無くしていたのよ。」

「そっか」

「母さん、学校はどうなってるのかな?」

「学校は休んでることになってるから、良くなったら復帰すれば良いよ」と母親はまた嘘をついた。

「そっか、全く思い出せないんだよ。学校のことがね…」

「他のことは覚えてるの?」

「うん、覚えてるよ。自殺未遂したこともね。」

「えっ、茂樹、それは覚えてるの?」

「ああ、忘れたいけど、覚えているよ。」

「何でお前、死のうと思ったの?」

「美咲に何回も裏切られたからだ」

「美咲ちゃんに?」

「そうさ、あいつは、俺を騙したんだ。俺がアイツのことを好きなのを良いことに、俺を何回も何回も騙したんだ。
 本当はデビルマンが好きなくせ、デビルマンと上手く行かなくなると、俺を利用するんだ。
 そして、また、俺を捨てるんだ。
 何回も何回も…」

「茂樹…」

 母親は人格障害、人格変化を早々と体感した。
 母親は、美咲に連絡しないと大変なことになる、美咲を傷つけてしまうことになると思い、美咲に急いで電話しようと部屋から出る時であった。

 美咲が部屋に入って来た。

 母親は美咲の腕を掴み、部屋から追い出そうとした。が、間に合わなかった。

「よう!腐れ女!また、俺を騙しに来たのか!
 デビルマンと毎晩、セックスしてんだろ!
 俺のより、デビルマンのチ○ポが欲しいんだろうー
    そうだろう、顔にそう書いてるよ!
 淫乱女、裏切り者めが、帰れー!」と
 茂樹が悪魔のような目付きで美咲を罵った。

 母親は「美咲ちゃん駄目よ、聞いたら駄目、部屋から出て、早く!」と言い、美咲を部屋から連れ出した。

 美咲は口に手を当てたまま、呆然と立ちすくんでしまった。

「美咲ちゃん、もう茂樹、人が変わってしまったの…、美咲ちゃんにそれを連絡しようと思ったけど、遅かったわ…、美咲ちゃん、ごめんね…」と母親が美咲の肩を抱いて謝った。

 美咲は一言も言葉を出すことができなかった。
 そして、美咲が一番危惧していたことが現実になった。

(… お母さん、今は私…、説明する勇気がない…、ごめんなさい…、私のせいなの…)と美咲は心で茂樹の母親に謝った。

 母親はそれが分かったかのように、美咲に言った。

「美咲ちゃん、あれは本当の茂樹じゃないから、分かってあげてね。
 当分、来ない方が良いと思うわ。
 私が茂樹の様子は美咲ちゃんに伝えるから、心配しないでね!」と

 美咲はこくりと頷き、病院をあとにした。

(…人格の変化なんかじゃない、茂樹君、ずっと、私のこと、そう思ってたんだ…、私が裏切ったから…、ずっと、私を憎んでいたんだ…、もう、無理だよ…、私には茂樹君を愛すことなんかできないよ…)

 美咲の心からは、茂樹への愛、労り、と言った感情は消え失せ、恐怖だけが残った。
 二度とここには来まいと強く思った…

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