独り立ちしたい姉は、令嬢ながらにお金を稼いでた

子猫文学

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第一章 妹の帰宅

#3 セラフィーヌ

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 朝、セラフィーヌは薄暗い部屋の中でぱっちりと琥珀色の瞳を開いて、目を覚ました。
 分厚いカーテンで窓が覆われているので、室内の空気がやたら重く感じられる。それから彼女はいつも通りに、呼び鈴を引っ張った。
 しばらくしてノックの音と共に、ホリーの声がした。

 「おはようございます。お嬢様」

 「入って、ホリー」

 ホリーはセラフィーヌより2つ歳が離れた17歳のメイドで、セラフィーヌが寄宿学校から帰ってきた3年前から、セラフィーヌの朝の身支度を手伝っている。優秀なメイドで、セラフィーヌが嫁ぐ際には必ずセラフィーヌ付きの侍女に昇格するだろう。まぁそれは、セラフィーヌが嫁ぐならの話であるが。

 「お嬢様、今日はいかがいたしますか?」
 「今日は、慈善活動でクロンプトンまで出るの。だから、動きやすい格好がいいわね。帽子は、あれを被るわ。紺と白のストライプの飾り紐が付いたボンネットを」
 
 事前活動は寄宿生活を終えた令嬢にとって嫁ぐまでの主な『仕事』である。上流社会の夫人というのは、社交界や組合、慈善活動などで、多くの人脈を故郷から首都に至るまで保持している。新たに夫人になる予定の、セラフィーヌのような令嬢は、そういった慈善活動やデビューしたての社交界の中で、年相応のグループをつくって人脈を作るとともに、アピールをして将来の夫も同時に探さなければならない。

 「今日はクロンプトン病院の院長との打ち合わせ。その後に新しくなった病院の中を案内してくれるそうよ。お母様に聞いたら、これが『慈善活動』なんですって。この国の『令嬢のするべきこと』に未だ疑問を多く感じるわ」

 セラフィーヌの赤茶と金髪が織り混ざった豊かな髪を結うホリーに向かって、ホリーの若主人は愚痴のようにあれこれと並べた。

 「お嬢様。『メイドのするべきこと』を話してもよろしいでしょうか」

 そのホリーの一言に、鏡台の鏡越しにセラフィーヌはホリーの目を見つめた。

 「えぇ、話して」

 「今日、ウィレミナお嬢様がご帰宅されます。奥様の話によると、ウィレミナ様はこの隣の部屋をお使いになるとのことです。わたしはそのお部屋のお支度に向かわなければなりません」

 ホリーの話し方はこの調子になると少し独特になる。そして、右の眉が山形に震えるのだ。セラフィーヌは、彼女のその癖が始め気に入って、自分付きのメイドに選んだ。ホリーは一見控えめな女の子に見えるが、一言ホリーの意見を聞くと、セラフィーヌは見えていなかったものが見えてくる気がして、さらにホリーを頼るようになっていた。信頼しているのだ。
 鏡の方に向けていた体を、ホリーの方に向ける。髪は結い上がっていた。

 「そうだわ。昨夜お母様がウィレミナが帰ってくると言っていたわ。いつ頃クロンプトン駅に着くのかしら」

 「朝8時だそうです。ジョン・カーライルが駅に向かいました」

 「そう。では、朝ごはんを食べて、再びジョン・カーライルに車を出してもらいましょう」

 セラフィーヌは支度を終えて、ホリーと共に扉の外に出る。セラフィーヌとホリーは背をお互いに見せて、ホリーは左に、セラフィーヌは右に向かった。


 妹が帰ってくる。
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