独り立ちしたい姉は、令嬢ながらにお金を稼いでた

子猫文学

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第二章 不穏な夕食会

#1 準備

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 ウィレミナがフィナデレ・カテドラルに帰ってきて4日が経った。
 その4日間のウィレミナの生活は、彼女の母が呆れてしまうほど、無意味な時間になってしまっていた。

 「ウィレミナ、来週からダンスの先生がいらっしゃるわ。デビュタントのためにしっかりと準備しないと」

 母のケイトが、ライブラリ(書斎)のゆったりとしたソファに背中を深く埋もれさせて紅茶を飲む娘に言った。

 「どうして?デビュタントのマナーとお辞儀の仕方は寄宿学校で充分やったわ」

 「そう。それなら、学校で学んだことが発揮できるチャンスね。練習も含めて頑張りなさい。
 それに、お父様が一番楽しみにしているのよ。あなたの、白いデビュタントドレス姿をね」

 母の返答にウィレミナは眉を思い切り寄せた。

 「白いサマードレスを明日着るわ」
 顔を逸らしてため息をつくように、ウィレミナは言った。

 寄宿学校では、幅広い種のダンスから、作法などを学び、加えて、自国の歴史を片っ端から学んだ。
 賢くて、男性と対等に話ができる女性を育成するために、100年ほど前から『寄宿学校』という制度が定着してきたのだ。
 この制度が定着した要因として真っ先に挙げられるのは、自国を代表する女王が戴冠したことだ。
 女王は、女性でありながら、男性の中で政治を司ることに、かなり苦労したらしい。
 
 「ミナ、サラはどこにいるの?」

 ケイトは娘たちをいさめたり、教えを施す以外は愛称を呼んでいた。
 サラはセラフィーヌの愛称だ。

 「知らないわ。今朝、セーラー型の紺のスーツを来て、流行りの帽子を被っているのは見たけれど…」

 「そう。それなら、この時期にぴったりの服装ね。きっとドリーなら、サラがどこに行ったのか知ってるはずだわ。彼はフィナデレ・カテドラルの玄関主だから」

 母と娘の会話は周りの人からしてみれば、少し奇妙な会話だった。

 「執事が玄関に張り付くのは、どの家も一緒なのかしら?」

 「うちだけよ。たぶんね。でもそのお陰で娘たちの行き先が分かる」 

 ケイトはウィレミナに向かってにこりとして、主人の物書き机の反対に位置している自分の物書き机に腰掛けた。
 その物書き机はちょうどウィレミナが座っているソファの並行にあって、顔を右か左にしなければ、互いが見えなくなる。

 母が物書き机に座って、何かを取り出したところで、侯爵が現れた。

 「ケイト、手紙が来ないんだ。ディキンソン卿はお忙しい方だったのかな?」

 そこまで言って、侯爵はやっとソファに体を埋めるウィレミナの存在に気づいた。

 「あぁ、こりゃ驚いた。今日はライブラリでお過ごしかな?ミナ」

 「えぇ、お父様」

 恐らく家族の中で父が一番ミナに対して甘かった。やっと寄宿学校生活を終えて帰ってきたこの次女と毎日顔を合わせられるのだ。可愛くて仕方ない、と全神経を集中させているようだった。

 「お父様、ディキンソン卿は社交界でとても目立つ存在と聞いたわ」

 ミナが言うと、ヒューは目尻を下げた。

 「わたしはお前の、社交界デビューがとても楽しみだよ」

 返答に困ってミナが無意識に母の方を向くと、母は『ほらね?』と言うような顔でミナを見ていた。

 するとそこに今度は執事のドリーが姿を表した。玄関側の扉からだ。

 「旦那様。お手紙が届きました」

 「あぁ、ありがとう、ドリー。ディキンソン卿から、招待の返事であることを願おう」

 ドリーから手紙を手渡された侯爵は両手に手紙を持って妻と娘の顔を見たが、あいにくふたりはドリーを見ていた。

 「ドリー、サラはどこに行ったのかしら?」

 ケイトが訊ねると、ドリーは素早く答える。

 「はい、奥様。今朝、セラフィーヌお嬢様はキャティリィに行くと言ってお出かけになりました。12時の汽車に乗るともおっしゃっていました」

 今度はウィレミナが問う。

 「ドリー、わたし付きのメイドを変えて欲しいの。ルアには重荷みたいだわ」

 ウィレミナの突然のその言葉に、ドリーは頭をぐるっと向けて、ウィレミナに向き直った。

 「と、言いますと?」

 ドリーは基本顔色を変えることはないが、動きからその時その時の感情の起伏が分かる執事だった。

 「朝、支度をするたびにあの子はアクセサリーをつけることを強く勧めるの。でもわたしはあまりそう言うのは好みじゃないし、合わないわ」

 ウィレミナが言い、ドリーはかすかに唇を噛んでいた。

 「それでは、家政婦長のカーライルと相談して、新しいメイドを配属しましょう」

 そこで、侯爵が声を上げた。ついでに両手もあげている。

 「やぁやぁ、ディキンソン卿は来週クランプトンに来る予定があるらしい。その時にフィナデレ・カテドラルに来るそうだ!」
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