12 / 48
第二章 不穏な夕食会
#7 ジョン
しおりを挟む翌週、ディキンソン卿が招待に応じて、クロンプトンに訪れる前日になった。どうやら彼は、道中汽車を使わず、車で来たらしい。
オルヴィス侯爵の領地、クロンプトンは、首都キャティリィから汽車に乗って半日かかる。それを、まだ市民層に広がっていない、貴族や富豪の持ち物とされた車で移動するのは、かなり無理があったようだ。
妹のウィレミナに対して、姉のセラフィーヌは少し口を尖らせていう。
セラフィーヌは今、クロンプトン手前の街、オークターコイドから出されたディキンソン卿の手紙を広げている。
そこは朝の間で、家族はいつも通り、そこで朝食をとっていた。
「車で来るんですって。汽車でさえ大変なのに、車でよ?きっと新しい車は違う色になっているわ」
正面の席でそれを聞いていたウィレミナは苦笑して、紅茶をすすった。
「心配ないよ。ジョンに洗車を頼めば良い」
「良い迷惑だわ」
侯爵に聞こえないようにセラフィーヌが顔を背けて言うが、侯爵には聞こえていたらしい。
「セラフィーヌ、彼の仕事だよ」
***
その日の日が高くのぼり、使用人たちが階上での仕事を終えて、階下での仕事に切り替えた頃、ジョンは自分で作った手持ち付きの木箱に、洗車用の道具を綺麗に詰め込んで、裏口から外に出た。
「やぁ、ジョン坊や。洗車かい?真面目だね」
車庫に向かうまでに、ジョンは村にひとつしかない、村一番の食料品店『ケラー食料品店』のジャック・ケラーとすれ違った。ジャックは彼の兄、ネッド共に食料品店を経営している。
「はい、そうです。ジャックさん」
「俺はシンガーさんに届け物だよ。今日客が来るんだって?」
「そうみたいですね」
ジョンは相槌を打つ。
「またいつでも良いから、うちに来な。首都にいる甥っ子から、また新しい雑誌が届いたんだ」
新聞でもいい、とりあえず文字を読むのが好きなジョンにジャック・ケラーの話は毎度魅力的だった。
ジョンはジャックとわかれて、車庫をあけて車を出した。車から降りようと、ドアを開けると、そこにはさっきまでいなかったウィレミナが両手を後ろにして、にこにこと立っていた。
「お嬢様!すみません。気づかなかった」
慌てて車を降りてジョンはウィレミナに向き直った。ボンネットをかぶっていないウィレミナを初めてみたジョンは、小さな動機を胸の中で感じた。
ウィレミナは金色の彼女のかみを後ろに流していた。
「久しぶりね」
「えぇ、そうですね」
ジョンの声は浮ついていた。
「こんな所になんの御用ですか?車を使いますか?」
ジョンが問うと、ウィレミナはそのまま首を横に振った。
「ディキンソン卿が来たら、車を洗うことになりそうよ。そうしたら、この時間にここで洗うの?」
「あぁ、お客人は車でいらっしゃるんですね。そうしたら、いらっしゃったあとすぐに洗いますよ。
僕の仕事ですから」
ジョンが言うと、ウィレミナがクスリと笑った。
ジョンは何か変なことを言ってしまったかと、顔を赤くした。
「今朝、お父様も同じことを言っていたわ」
0
あなたにおすすめの小説
二年間の花嫁
柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。
公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。
二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。
それでも構わなかった。
たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。
けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。
この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。
彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。
やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。
期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。
――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる