独り立ちしたい姉は、令嬢ながらにお金を稼いでた

子猫文学

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第二章 不穏な夕食会

#9 不穏な夕食会

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 屋敷の中で夕食の時間が近づく気配がするなか、階下のキッチンでは、シンガーとデボラがさまざまなメニューを相手に苦心していた。

 「マリネは!?」

 とシンガーが叫び、

 「今ソースができました!
  あぁメリエス、これを盛り付けて!」

 とデボラが負けずに声を張り上げる。

 皆忙しなく歩いて複数の下僕はできあがったメニューを次々と階上へと運んだ。

 「シンガーさん、お客人が到着し始めた。順調かね?」

 執事ドリーがキッチンに顔を出して、急かすように聞くと、シンガーはイライラした表情と大声で言った。

 「余計な人がここから出ていけば、順調だよ!」


 ***


 階上では隣町の領主、ウーダンのアンドリュー伯爵に次いで、オルヴィス侯爵領の中に自邸を構えている男爵が到着していた。

 伯爵や男爵は夕食会だけの招待である。
 侯爵が、或いは夫人が隣人を招待するのは、ディキンソン卿がただひとりの貴賓となってしまって、ディキンソン卿が気を遣わないためである。これは貴族としてのマナーだった。

 夕食のためのドレスコードで、ディキンソン卿が居間に降りてくると、そこにはすでに侯爵夫人と、セラフィーヌがおり、ソファに座っていた。

  「こんばんわ、夫人、レディ」

 ディキンソン卿は優雅にお辞儀をする。

 そこにアンドリュー伯爵夫妻と夫妻の愛娘アデール、そして、男爵夫妻が加わった。
 一通り、互いに紹介を済ませて、数人のグループに分かれて談笑が始まった。


 「今日はお招きいただいて、ありがとうございます。侯爵夫人。ディキンソン卿がいらっしゃると聞いた時、娘が本当に喜びましたの」

 伯爵夫人が言うと、

 「えぇ、ディキンソン卿はハンサムですもの」

男爵夫人が答える。

 「楽しんでいただけることを、願いますわ」

 夫人同士の噂話が伴う社交辞令が苦手だった。ケイトの顔の笑顔は段々と張り付いたものになっていた。

 「セラフィーヌ、卿と話したかね?」

 いつの間にか父侯爵が今にやってきて、セラフィーヌに問いかけると、セラフィーヌはソファの端でくつろいで、動こうとしなかった。

 「今、伯爵と男爵と話しているの。特に男爵とは距離が近いみたい。歳が近いからかしら」

 すると、その場に男爵夫人が現れた。
 男爵夫人はまだ若く。前回の社交界シーズンに婚約発表をしてすぐに結婚した娘だった。
 貴族のようにマナーは綺麗なものの、彼女の出自はオークターコイドの富豪の娘だった。彼女は中流階級の娘として育ち、結婚によって上流階級に身分が変わった、その時代珍しくないうちのひとりだった。

 
 「初めまして、セラフィーヌ嬢」

 男爵夫人の話し方はしとやかで、綿毛のようだった。
 ちなみに彼女は貴族の生まれではないので、国王への拝謁(デビュタント)はしていない。
 一体男爵とどこで出逢ったのか、一時は大きな噂の的だった。

 「初めまして、男爵夫人」

 とセラフィーヌ。

 「お隣に座っても?」

 男爵夫人の不安そうな問いに、セラフィーヌは笑顔で答えた。張り付いていたり、猫を被ったような笑顔ではなく、真のセラフィーヌの笑顔だった。
 セラフィーヌは男爵夫人に対して、好感を持ち始めていたからだ。

 しかし、そこにウィレミナが遅れて現れて、その後ろからドリーも居間にやってきた。

 そして、ドリーが扉の真横に立っていう。

 「皆様、夕食の準備が整いました。席の方へ、どうぞ」

 夫人、レディを筆頭に家族と客人ぞろぞろと、晩餐の間に移動し始めた。
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