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第二章 不穏な夕食会
#10 続・不穏な夕食会
しおりを挟む総勢10人での、夕食会が始まった。その夕食の場を統制するのは主催者の妻ケイトの役割である。
ケイトはお客人が揃った夕食会を、皆が楽しい気分で終わることができるように、努めなければならない。
基本、貴族の食事は、隣に座っているどちらかと二人で会話をする。夫人は隣人との会話を楽しみながら、別の二人組の間に漂う空気に気を配って、それが冷たいものだと悟ったなら、自分との会話を相手にとって心地よく切り上げて、反対の隣人と会話を始めなければならない。冷たい空気を漂わせる二人の話し相手を変えて、また新たに良い雰囲気にさせるためだ。
片方の隣人としばらく話し続けることも考えられるので、夕食の席で、家族や姉妹、夫婦が並んで座ることは決してない。
その日の夕食会は、セラフィーヌが予想していた通り、ディキンソン卿とセラフィーヌが隣同士だった。
時計回りに、侯爵夫人から、伯爵、男爵夫人、侯爵、ディキンソン卿、セラフィーヌ、伯爵夫人、男爵、ウィレミナ、伯爵令嬢アデール、という順に、円形のドリーが一から飾り立てたディナーテーブルに並んだ。
「やはり、お宅の執事は良いセンスをお持ちだ」
目的の椅子を目指しながら、伯爵は前を歩いていたケイトにそう言った。その姿勢から、小声で言ったつもりのようだが、同じ部屋でワインのテーブルの横に微動だにせず立っているドリーにも聞こえていた。
ドリーは腕を鳴らした飾りつけを褒めてもらって、笑顔だ。セラフィーヌがドリーの満足そうな笑顔を、同じくニコニコしながら見ていると、その内ドリーはセラフィーヌの視線に気づいて、再び鋼のような堅い顔に戻ってしまった。
「使用人と仲が良いんですね」
いつからセラフィーヌとドリーのやりとりを見ていたのか、ディキンソン卿はセラフィーヌに小声で言った。
伯爵と違って、本当にディキンソン卿は、セラフィーヌにしか聞こえない声で話す。
「えぇ、ドリーは叔父が生まれた時からここにいるんです」
「叔父?あなたの?侯爵に弟がいらっしゃるとは知らなかった」
ディキンソン卿が驚く。
「叔父と、叔母がおりますわ。叔父と叔母は双子なんです」
セラフィーヌは会話が止まって、都合の悪い話を振られたくないので、彼女自身の話を続けた。
「叔父はわたしが寄宿学校に入ってから、新大陸に移住しました。叔母は、結婚した相手が軍人で、南大陸に赴任したので、彼女の夫について行きました」
セラフィーヌは彼女の叔父叔母ともう数年会っていないことを話そうと思ったが、余計なことかと思い、口をつぐんだ。
暮らしている環境がだいぶ離れていても、セラフィーヌは彼女の親族が好きだった。
セラフィーヌが口をつぐんだのを見て、今度はディキンソン卿が話し始めた。
「私は兄が、爵位を継いでから、家族は兄と義理の姉と、私の3人だけなので、あなたのご家族が羨ましいです」
ディキンソン卿の言葉の語尾に、セラフィーヌが少し気になってちらりと、ディキンソン卿の顔を盗み見ると、彼は寂しそうな顔をしていた。
そしていきなりその寂しそうな表情を一変させてこちらの方を振り向いたので、セラフィーヌは反射的に向き直ってしまった。
彼女は今落ち着かなかった。
「でも、嬉しいです」
ディキンソン卿がつぶやく様に言った一言に、セラフィーヌは呼吸を整えて向き直った。そのセラフィーヌはいつもの猫被りのセラフィーヌだった。
「え?なんのことですか?」
「家族の詳細を聞かせてくれるってことは、君に嫌われていないってことだよね」
ディキンソン卿の口調は何かを愛おしむようなもので、敬語が消えていた。
またも、セラフィーヌは平静さを無理に保つ必要があった。
「なぜ、そう思ったんですか?」
「今日、ここに到着した時、君は僕の挨拶を受けなかったでしょ」
初めてセラフィーヌはディキンソン卿に対して、赤毛以外に自分に似た部分を見た様な気がした。それと同時に、ディキンソン卿が鋭い洞察力を持っている予感を感じて、セラフィーヌの中でディキンソン卿の存在は更に大きくなったのだった。
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