独り立ちしたい姉は、令嬢ながらにお金を稼いでた

子猫文学

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第五章 社交シーズン(セラフィーヌ)

レモネードの味

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 通りはすでに賑やかだった。ヴァイオリン弾きや、小楽団が、全ての角に必ずいて、通りの中心は大道芸やレモネード店、また簡単に食べられる軽食を売っている店もある。ところどころに街灯があり、その街灯を結ぶようにして、色とりどりの旗が通りを彩っている。

 「どうぞ」

 そう言いながらレモネードのグラスをセラフィーヌに手渡すのは、ヘイウッドだった。

 「ありがとうございます。モットレイ卿」

 セラフィーヌはお礼を言って、美味しそうにガラスのストローに口をつけた。
 甘酸っぱい爽やかさが、喉いっぱいに広がる。

 「美味しいですか?」

 「えぇ、毎日飲みたい味ですね」

 四人組の影が人の群れを抜けて、ゆらゆら揺れながら、道を進んでいく。はじめ、ルクリアとバーナビー、セラフィーヌとヘイウッドの組み合わせで歩いていたのが、ルクリアとセラフィーヌ、ヘイウッドとバーナビーという組み合わせになり、バーナビーとセラフィーヌ、ルクリアとヘイウッドという組み合わせになった。

 前方を先だって歩くバーナビーとセラフィーヌは、道行く人を眺めては何かをくすくすと話合っている。そして、時たま立ち止まって、道脇の大道芸をのぞいては、くすくすと笑っていた。

 
 「気になる?」

 歩いている最中に、言葉に含みを交えてルクリアがヘイウッドを横目に見上げて聞いた。

 「気になるって、何がだ」

 ヘイウッドの言葉は、知らずのうちに無愛想になっていた。

 「セラフィーヌ嬢のことよ。一昨年、去年と見てるけど、だんだん彼女に対しての態度が柔和になってるわ」

 「知り合って二年経つんだ、普通のことだろう。それに彼女はうちの出版社でヒットを出し、雑誌に枠を抱えているんだ。無愛想な態度はできないだろう」

 「ヘイウッド、あなたって昔からそういうところ、あるわね」

 呆れたようにルクリアがため息をついていう。

 「わたしが言いたいのはね、ヘイウッド、あなたがセラフィーヌさんに対して、恋をしているんじゃないかってことなのよ」

 驚いてルクリアの顔を直視するヘイウッド・モットレイの顔が徐々に赤くなったように、ルクリアには思えた。しかし、同時に、彼の顔に照りつける街灯のろうそくの光かもしれないとも思う。


 「バカなこと言わないでくれ。そんなことあるわけないだろう」

 「もしあなたとセラフィーヌさんが婚約するのなら、これほど嬉しいことはないわ」

 「いやしかし、彼女とわたしは10も歳が離れているんだぞ」

 どうしても自分の恋心を認めたくないヘイウッドは理由をつけて否定しようと試みている。しかしそんな足掻きが、ルクリアを止められるわけがない。

 「先先代の国王陛下は王妃様と20離れていたわ」

 「それは、再婚だろう」

 「ネオ卿の従兄弟にあたるルシエーヌ男爵令嬢のご両親は15離れているけれど、お互い相思相愛よ。加えてお二人は初婚よ」

 ここまで言われて反論できる人物がいるのなら、合ってみたいと、ヘイウッドはとっさに思った。


 「まぁ、まずは、この後のダンスを今年も、彼女と踊ってみなさいな」


 ルクリアは言って、目の前で繰り広げられている大道芸の少年に歓声を送った。
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