独り立ちしたい姉は、令嬢ながらにお金を稼いでた

子猫文学

文字の大きさ
40 / 48
第五章 社交シーズン(セラフィーヌ)

さぁ、踊りあかそうⅣ

しおりを挟む

 結局その日、セラフィーヌはディキンソン卿と多く踊った。ディキンソン卿と踊っている時の方が、セラフィーヌは幸せそうだった。

  段々と夜も更けてきて、床の隙間が見え始め、はっきりと見えていた星が薄くなっていった頃、ルクリアとバーナビーが先に帰宅した。

 「お嬢様、屋敷までお送りしましょう」

 必ず視線の中に入る場所にいるリヴァヴァルト卿が、最後のダンスが終わったタイミングで、セラフィーヌに言った。

 「い、いえ。ディキンソン卿と帰る約束をしていますので」

 …この方、何にしても、お断りするのが大変だわ。
 内心、セラフィーヌは疲れた足を我慢して思っていた。
 
 「えぇ、屋敷が同じ方向なんですよ」

 ディキンソン卿が言う。

 「それでは、明後日のデビュタントに開かれる舞踏会でお会いしましょう」

 リヴァヴァルト卿はそう言ってその場を立ち去った。


 ***


 「モットレイ子爵はこのままお屋敷へ?」

 セラフィーヌが聞くと、ヘイウッドは答えた。

 「いえ、このまま出版社の方へ行きます。きっと従業員の出社に、間に合うと思いますから」

 
 それから、ディキンソン卿とセラフィーヌが、オルヴィスの屋敷まで歩く中、ディキンソン卿はそういえば、と言うふうに切り出した。

 「モットレイ子爵は出版社をお持ちなのですか?」

 「えぇ、そうですわ。ノース地区の方にある出版社です」

 「どのような書籍が出版されているので?」

 「月刊キャティリィモームなどです。それから、『アイ』…」

 ふと、自作の題名を口走りそうになってセラフィーヌは、慌てて口元を押さえた。

 「雑誌はここ数年で創刊されたものなんです」

 「あぁ、その雑誌なら聞いたことがありますよ。『アイリス』をご存じで?」

 ディキンソン卿の口から、突然自分の作品の名前が出た途端にセラフィーヌは驚いて、足を挫きそうになった。

 「大丈夫ですか?セラフィーヌ嬢」

 「え、えぇ。
 『アイリス』を読んだことがあるのですか?」

 「えぇ、『アイリス』は面白い作品ですよ。ぜひ、作者に会ってみたいですね。ご存じでしょうか?その月刊キャティリィモームで、『アイリス』の作者アンセルム・コートニーが連載を開始したのですよ。僕はそれが楽しみなんです」

 興奮を隠しきれない様子で、ディキンソン卿はセラフィーヌの前で初めて『僕』という一人称を使った。
 
 「え、えぇ。私も知っています。私も読んでいますから」

 「どうです?今度会った時に、読んだ本の感想を話し合いませんか?」

 ディキンソン卿はセラフィーヌの瞳をまっすぐにみて、言った。

 そのまっすぐな瞳を見てセラフィーヌは驚きを隠せなかった。それと同時に、青い瞳に射抜かれて、ときめきを覚えてもいた。
  
 「私は令嬢ですよ。女と感想を言い合って、楽しめますか?」

 「えぇ、きっと楽しいですよ」

 それから二人は無言でオルヴィス邸まで歩いた。オルヴィス邸のある区画が見えてきたその時、ディキンソン卿はずっとためらっていたのをやっと決心したように言葉を発した。

 「きっと、結婚する相手と、毎朝本について話せたら、素敵でしょうね…」

 セラフィーヌが驚愕の表情で再びディキンソン卿を見ると、ディキンソン卿は、耳を真っ赤にさせて、目を逸らしていた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

家を乗っ取られて辺境に嫁がされることになったら、三食研究付きの溺愛生活が待っていました

ミズメ
恋愛
ライラ・ハルフォードは伯爵令嬢でありながら、毎日魔法薬の研究に精を出していた。 一つ結びの三つ編み、大きな丸レンズの眼鏡、白衣。""変わり者令嬢""と揶揄されながら、信頼出来る仲間と共に毎日楽しく研究に励む。 「大変です……!」 ライラはある日、とんでもない事実に気が付いた。作成した魔法薬に、なんと"薄毛"の副作用があったのだ。その解消の為に尽力していると、出席させられた夜会で、伯爵家を乗っ取った叔父からふたまわりも歳上の辺境伯の後妻となる婚約が整ったことを告げられる。 手詰まりかと思えたそれは、ライラにとって幸せへと続く道だった。 ◎さくっと終わる短編です(10話程度) ◎薄毛の話題が出てきます。苦手な方(?)はお気をつけて…!

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです

ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

処理中です...