独り立ちしたい姉は、令嬢ながらにお金を稼いでた

子猫文学

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第五章 社交シーズン(セラフィーヌ)

さぁ、踊りあかそうⅣ

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 結局その日、セラフィーヌはディキンソン卿と多く踊った。ディキンソン卿と踊っている時の方が、セラフィーヌは幸せそうだった。

  段々と夜も更けてきて、床の隙間が見え始め、はっきりと見えていた星が薄くなっていった頃、ルクリアとバーナビーが先に帰宅した。

 「お嬢様、屋敷までお送りしましょう」

 必ず視線の中に入る場所にいるリヴァヴァルト卿が、最後のダンスが終わったタイミングで、セラフィーヌに言った。

 「い、いえ。ディキンソン卿と帰る約束をしていますので」

 …この方、何にしても、お断りするのが大変だわ。
 内心、セラフィーヌは疲れた足を我慢して思っていた。
 
 「えぇ、屋敷が同じ方向なんですよ」

 ディキンソン卿が言う。

 「それでは、明後日のデビュタントに開かれる舞踏会でお会いしましょう」

 リヴァヴァルト卿はそう言ってその場を立ち去った。


 ***


 「モットレイ子爵はこのままお屋敷へ?」

 セラフィーヌが聞くと、ヘイウッドは答えた。

 「いえ、このまま出版社の方へ行きます。きっと従業員の出社に、間に合うと思いますから」

 
 それから、ディキンソン卿とセラフィーヌが、オルヴィスの屋敷まで歩く中、ディキンソン卿はそういえば、と言うふうに切り出した。

 「モットレイ子爵は出版社をお持ちなのですか?」

 「えぇ、そうですわ。ノース地区の方にある出版社です」

 「どのような書籍が出版されているので?」

 「月刊キャティリィモームなどです。それから、『アイ』…」

 ふと、自作の題名を口走りそうになってセラフィーヌは、慌てて口元を押さえた。

 「雑誌はここ数年で創刊されたものなんです」

 「あぁ、その雑誌なら聞いたことがありますよ。『アイリス』をご存じで?」

 ディキンソン卿の口から、突然自分の作品の名前が出た途端にセラフィーヌは驚いて、足を挫きそうになった。

 「大丈夫ですか?セラフィーヌ嬢」

 「え、えぇ。
 『アイリス』を読んだことがあるのですか?」

 「えぇ、『アイリス』は面白い作品ですよ。ぜひ、作者に会ってみたいですね。ご存じでしょうか?その月刊キャティリィモームで、『アイリス』の作者アンセルム・コートニーが連載を開始したのですよ。僕はそれが楽しみなんです」

 興奮を隠しきれない様子で、ディキンソン卿はセラフィーヌの前で初めて『僕』という一人称を使った。
 
 「え、えぇ。私も知っています。私も読んでいますから」

 「どうです?今度会った時に、読んだ本の感想を話し合いませんか?」

 ディキンソン卿はセラフィーヌの瞳をまっすぐにみて、言った。

 そのまっすぐな瞳を見てセラフィーヌは驚きを隠せなかった。それと同時に、青い瞳に射抜かれて、ときめきを覚えてもいた。
  
 「私は令嬢ですよ。女と感想を言い合って、楽しめますか?」

 「えぇ、きっと楽しいですよ」

 それから二人は無言でオルヴィス邸まで歩いた。オルヴィス邸のある区画が見えてきたその時、ディキンソン卿はずっとためらっていたのをやっと決心したように言葉を発した。

 「きっと、結婚する相手と、毎朝本について話せたら、素敵でしょうね…」

 セラフィーヌが驚愕の表情で再びディキンソン卿を見ると、ディキンソン卿は、耳を真っ赤にさせて、目を逸らしていた。

 
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