優しい夜のうた

第2章 天国への階段

弟の一言

美夜は現在７歳。子供ながらに、かわいい…というより綺麗な顔立ちをして大人びている。髪は長く伸ばして、目は切れ長。お母さん似だ。

圭太くんの、思い過ごしだよね……。美夜に何かある、なんて…。

私はそう思って、部屋を出た。ふと、隣の祐の部屋から明かりが洩れていて、私は祐の部屋のドアを小さくノックしてみた。すると、

「なに？」

と声が中から聞こえてきた。私はゆっくりドアを開けると、祐はベッドの上に足を組んで座っていて、頭にはヘッドフォンをかけている。振り向いて、入ってきた私を見ると、

「どしたの？夜ばい？」

と嫌みを言う。私は口を尖らせて祐を睨んだ。

「そんなこと……！」

「しーっ」

夜中に大声を上げようとした私を、祐はそっと制した。私もすぐに我に返って口元を両手で塞いだ。祐はそんな私を見て微笑むと、左手を肩くらいの位置に上げて

「来いよ」

と言ってそばに来るように手招きをした。

「え？」

祐に手招きされて、私は祐に歩み寄りベッドに腰を降ろすと、祐は自分の頭からヘッドフォンを外して私の頭にかけてくれた。

なんだか、祐といるとドキドキする。ヘッドフォンをかけてくれた時、微かに指が耳に触れた。それだけで、触れたところが熱くなる。…緊張する。でも、気付かれたくなくてわざと平気な顔をして、

「何聴いてたの？」

と冷静に尋ねてごまかした。私は、祐のことをただの憧れとして見ていたけれど、最近はそれも違うと思い直していた。でも、気付いちゃだめ。家族としての『好き』で、留めておくべきなんだ。そう分かっているはずなのに、こうして一緒にいると、好きすぎて切なくなる…。

私は、この気持ちを悟られないよう、聞こえて来る音楽に耳を澄ますことにした。

聴いたことがある、洋楽。

最近テレビでもよくかかっているアメリカのR&Bだ。すぐに耳に馴染む声。日本のポップスにも似た歌だ。懐かしい曲調で、すぐにでも口ずさめるメロディ。

「……いい歌…だね」

とポツリとつぶやくと、祐はなんだか嬉しそうに笑って、私の頭からゆっくりとヘッドフォンを外した。