22 / 25
19.嫉妬
しおりを挟む
今夜はガルシア公爵家主催の夜会に招待された。
主催者である夫妻にジョシュアと挨拶に行くと、ソフィアは返事を適当に返しただジョシュアを甘く見つめる。ガルシア公爵は隣にいて気付いているはずなのに何も言わないのは何故なのだろう。やめるように言って欲しいのに……。
ガルシア公爵はソフィアに一目惚れをして結婚している。愛する妻が自分以外の男性に思わせぶりな視線を向けることは嫌ではないのだろうか。自分だったらジョシュアが他の女性に見惚れていたら耐えられない。
挨拶の後はダンスをして休憩を挟み一旦ジョシュアとは別々に行動することになった。彼は男性陣の集まる輪の方へ行った。その男性陣たちは現在着手している共同事業の出資仲間たちだ。シャルロッテはご婦人方と情報交換をする。しばらく楽しく談笑していたが男性陣が解散したようなので、シャルロッテたちも解散することになった。
ジョシュアを探して会場を見渡すと女性と話している姿が見えた。ソフィアだ……。ソフィアはジョシュアの腕に自分の腕を絡ませしきりに話しかけている。艶めかしい表情で縋りつくように必死な雰囲気だ。ジョシュアはこちらに背を向けているのでどんな表情かは分からない。
(嫌、私のジョシュアに触らないで!)
シャルロッテは焦り、足早に二人に近づく。
「ジョシュ!」
「ロッティ」
声をかければジョシュアは振り返りシャルロッテに笑顔を向けた。いつもと変わらない笑顔にホッとする。ジョシュアは自然な動作でソフィアの腕を引き剥がすとシャルロッテの側に移動しその腰を抱いた。
「ねえ、ジョシュ。あの、ソフィア様と何をお話していたの?」
二人が何を話していたのか気になって仕方がない。ジョシュアを見上げ問いかけた。
「公爵夫人がロッティのことを綺麗になったと誉めて下さったんだ。私にとっては当たり前のことだけど人から言われると嬉しいものだね」
「そう、なの?」
「もしかしてロッティ、嫉妬した?」
「違うわ」
「違うの? 本当に?」
残念そうに問われ降参した。
「……したわ」
ジョシュアは嬉しそうに目を細め腰に回した手に力を入れて引き寄せた。
「嬉しいな。でも私にはロッティだけだから心配しないで。愛しているよ」
「あ、ありがとう」
ジョシュアはソフィアの存在などいない者のように話している。
「ジョシュア様……」
ソフィアが呆然としたように呟くとジョシュアは冷ややかな目で一瞥する。
「ガルシア公爵夫人。私は妻と過ごすので失礼します。行こう、ロッティ」
ソフィアの顔色は真っ青で唇を噛みしめて俯いている。ジョシュアの言葉は嘘だろう。たぶんシャルロッテを不安にさせないためについた。それならそれでいい。だってジョシュアは自分の隣にいて自分にだけ微笑んでくれる。不安になる必要なんてない。
「ロッティ。せっかくだから踊ろう。奥様、お手をどうぞ」
「ふふふ。お手柔らかに、旦那様」
ジョシュアと見つめ合い三曲続けて踊った。ダンスの最中はまるで世界に二人しか存在しないかのように夢中で楽しんだ。
「そろそろ帰ろうか?」
「そうね」
そのとき女性の大きな悲鳴と何かが割れる音が聞こえてきた。
「きゃああああああああ!!」
ガッシャン!!
会場中が一瞬、静かになる。そして皆が目を合わせ何があったんだと様子を窺う。誰ともなく悲鳴の聞こえた場所へと向かう。悲鳴の場所は会場入り口近くの階段だった。
階段の下には誰かが倒れている。側で女性が取り乱して泣いている。使用人が慌てて駆け寄り騒ぎになっていた。どうやら女性が階段から落ちたようだ。女性が倒れている側には花瓶が粉々に割れて散らばっている。階段の横に大きな花瓶が飾られていたから落ちた拍子にぶつかったのかもしれない。
「ソフィア!!」
ガルシア公爵が慌てて階段の下へ向かう。倒れているのはソフィアらしい。怪我がなければいいが、一体どの位置から落ちたのだろう。怖くなり思わずジョシュアの腕を掴んでしまう。
「きっと大丈夫だよ。これでは今夜はもうお開きになりそうだね。邪魔になるといけないから私たちは帰ろう」
「そうね。そうしましょう」
周りは騒然としている。いつまでもここにいたら邪魔になるだろう。
ソフィアがガルシア公爵に抱えられ部屋に運ばれていくのが見えた。執事が頭を下げながら招待客に帰宅を促す。帰りの馬車の中は二人ともなんとなく無口だった。シャルロッテは正直なところソフィアが嫌いだ。でも怪我をして欲しいとまでは思わない。大したことがなければいいが今後あまり関わりたくないのも本心だ。ダンスの楽しかった時間が嘘のように重たい気持ちになってしまった。
後日、ガルシア公爵からお詫びの手紙が届いた。夜会の日、ソフィアは階段の下段で足を踏み外しただけだったようだ。ただ運悪く花瓶に接触してしまったので何針か縫う怪我をしてしまった。怪我自体は深刻ではないそうだが、ソフィアが精神的に塞いでいるので今シーズンの社交は欠席して領地で療養させることにしたと書かれている。
「とにかく無事でよかったわ」
「そうだね。私としては彼女が苦手だから顔を合わせずに済むことが嬉しいよ」
「ジョシュ……」
無事だったから言えることだが、シャルロッテも出来ればあまり顔を合わせたくない。だから手紙の内容に少しだけ安心してしまった。
主催者である夫妻にジョシュアと挨拶に行くと、ソフィアは返事を適当に返しただジョシュアを甘く見つめる。ガルシア公爵は隣にいて気付いているはずなのに何も言わないのは何故なのだろう。やめるように言って欲しいのに……。
ガルシア公爵はソフィアに一目惚れをして結婚している。愛する妻が自分以外の男性に思わせぶりな視線を向けることは嫌ではないのだろうか。自分だったらジョシュアが他の女性に見惚れていたら耐えられない。
挨拶の後はダンスをして休憩を挟み一旦ジョシュアとは別々に行動することになった。彼は男性陣の集まる輪の方へ行った。その男性陣たちは現在着手している共同事業の出資仲間たちだ。シャルロッテはご婦人方と情報交換をする。しばらく楽しく談笑していたが男性陣が解散したようなので、シャルロッテたちも解散することになった。
ジョシュアを探して会場を見渡すと女性と話している姿が見えた。ソフィアだ……。ソフィアはジョシュアの腕に自分の腕を絡ませしきりに話しかけている。艶めかしい表情で縋りつくように必死な雰囲気だ。ジョシュアはこちらに背を向けているのでどんな表情かは分からない。
(嫌、私のジョシュアに触らないで!)
シャルロッテは焦り、足早に二人に近づく。
「ジョシュ!」
「ロッティ」
声をかければジョシュアは振り返りシャルロッテに笑顔を向けた。いつもと変わらない笑顔にホッとする。ジョシュアは自然な動作でソフィアの腕を引き剥がすとシャルロッテの側に移動しその腰を抱いた。
「ねえ、ジョシュ。あの、ソフィア様と何をお話していたの?」
二人が何を話していたのか気になって仕方がない。ジョシュアを見上げ問いかけた。
「公爵夫人がロッティのことを綺麗になったと誉めて下さったんだ。私にとっては当たり前のことだけど人から言われると嬉しいものだね」
「そう、なの?」
「もしかしてロッティ、嫉妬した?」
「違うわ」
「違うの? 本当に?」
残念そうに問われ降参した。
「……したわ」
ジョシュアは嬉しそうに目を細め腰に回した手に力を入れて引き寄せた。
「嬉しいな。でも私にはロッティだけだから心配しないで。愛しているよ」
「あ、ありがとう」
ジョシュアはソフィアの存在などいない者のように話している。
「ジョシュア様……」
ソフィアが呆然としたように呟くとジョシュアは冷ややかな目で一瞥する。
「ガルシア公爵夫人。私は妻と過ごすので失礼します。行こう、ロッティ」
ソフィアの顔色は真っ青で唇を噛みしめて俯いている。ジョシュアの言葉は嘘だろう。たぶんシャルロッテを不安にさせないためについた。それならそれでいい。だってジョシュアは自分の隣にいて自分にだけ微笑んでくれる。不安になる必要なんてない。
「ロッティ。せっかくだから踊ろう。奥様、お手をどうぞ」
「ふふふ。お手柔らかに、旦那様」
ジョシュアと見つめ合い三曲続けて踊った。ダンスの最中はまるで世界に二人しか存在しないかのように夢中で楽しんだ。
「そろそろ帰ろうか?」
「そうね」
そのとき女性の大きな悲鳴と何かが割れる音が聞こえてきた。
「きゃああああああああ!!」
ガッシャン!!
会場中が一瞬、静かになる。そして皆が目を合わせ何があったんだと様子を窺う。誰ともなく悲鳴の聞こえた場所へと向かう。悲鳴の場所は会場入り口近くの階段だった。
階段の下には誰かが倒れている。側で女性が取り乱して泣いている。使用人が慌てて駆け寄り騒ぎになっていた。どうやら女性が階段から落ちたようだ。女性が倒れている側には花瓶が粉々に割れて散らばっている。階段の横に大きな花瓶が飾られていたから落ちた拍子にぶつかったのかもしれない。
「ソフィア!!」
ガルシア公爵が慌てて階段の下へ向かう。倒れているのはソフィアらしい。怪我がなければいいが、一体どの位置から落ちたのだろう。怖くなり思わずジョシュアの腕を掴んでしまう。
「きっと大丈夫だよ。これでは今夜はもうお開きになりそうだね。邪魔になるといけないから私たちは帰ろう」
「そうね。そうしましょう」
周りは騒然としている。いつまでもここにいたら邪魔になるだろう。
ソフィアがガルシア公爵に抱えられ部屋に運ばれていくのが見えた。執事が頭を下げながら招待客に帰宅を促す。帰りの馬車の中は二人ともなんとなく無口だった。シャルロッテは正直なところソフィアが嫌いだ。でも怪我をして欲しいとまでは思わない。大したことがなければいいが今後あまり関わりたくないのも本心だ。ダンスの楽しかった時間が嘘のように重たい気持ちになってしまった。
後日、ガルシア公爵からお詫びの手紙が届いた。夜会の日、ソフィアは階段の下段で足を踏み外しただけだったようだ。ただ運悪く花瓶に接触してしまったので何針か縫う怪我をしてしまった。怪我自体は深刻ではないそうだが、ソフィアが精神的に塞いでいるので今シーズンの社交は欠席して領地で療養させることにしたと書かれている。
「とにかく無事でよかったわ」
「そうだね。私としては彼女が苦手だから顔を合わせずに済むことが嬉しいよ」
「ジョシュ……」
無事だったから言えることだが、シャルロッテも出来ればあまり顔を合わせたくない。だから手紙の内容に少しだけ安心してしまった。
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
3,067
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる