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後日談6
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その次の夜会で会ったフレデリックは、いつものようにくせ毛の前髪を下ろした姿で現れた。この姿のフレデリックの方がしっくりくる。彼は私を見つけると目を細め柔らかい笑みを浮かべて、手を差し出しダンスに誘ってくれた。彼のダンスは安心感があり体を預けることに躊躇いはない。
「フレデリック様は乗馬だけでなくダンスもすごくお上手なんですね。リードが安定していて踊りやすいです」
「私は運動神経には自信があるんだ。乗馬もダンスもなかなかだと自負している。でもセリーナもとても上手だよ。私もセリーナとのダンスは楽しく感じる」
私は嬉しくなった。気分が高揚してステップに力が入る。フレデリックも笑顔で合わせてくれている。だが、残念なことに楽しかった時間は瞬く間に終わってしまう。ただの友人でしかないので一曲しか踊ることが出来ない。離れていく手がなんだかとても寂しく感じる。曲が終わり互いに礼をして壁際へ移動する。名残惜しさを隠し笑みを浮かべた。
「ありがとうございました。とても楽しかったです。フレデリック様の次のダンスの相手を望む令嬢がこちらを見ていますから、私は退散しますね」
令嬢たちが待っていると伝えるとフレデリックが苦笑いをしながらちらりと視線を向けた。少し離れたところで数人の令嬢が彼を熱心に見つめてダンスの誘いを待っている。彼はやれやれと肩を竦めた。
「セリーナ、今夜はゆっくりしていくのかい? 時間があえば送っていこう」
「ありがとうございます。私のことはお気になさらずに」
フレデリックを見送ると私は壁の花となり周囲を観察する。あいにく私をダンスに誘うような男性はいない。本当はクリスティアナと談笑したいところだが結婚を控えた彼女は社交に忙しい。
今もスタンリーと一緒に年配の男性の話し相手をしている。今の彼女は誰が見ても幸せそうに見えるだろう。その笑顔で私も幸せな気持ちになれた。
微笑ましい気持ちで会場を眺めているとフレデリックを見つけた。彼は令嬢の話に相槌を打ちながらスタンリーとクリスティアナの方に視線を向けている。三人は本当に仲がいいのだなと思って見ていたが、彼の表情になんとも形容しがたい違和感を抱いた。
フレデリックの瞳に悲哀を感じる。その表情に既視感を抱いてしまった。以前、ロニーとの結婚生活の中で彼がヘレンに思いを馳せて、その名を呟いた時の切なげな瞳とよく似ている。それに気づき今度はフレデリックの視線の先を追った。そこには……クリスティアナがいた。フレデリックはスタンリーではなくクリスティアナを見つめている。それを認識するとまるで雷に打たれたような衝撃が体に走る。
(ああ、フレデリック様はティアナを愛しているんだわ)
それは直感だった。
フレデリックがクリスティアナとスタンリーを見る眼差しはいつも慈愛を含み温かい。それは二人に対する家族愛だと思っていた。でも、今の彼の眼差しはそれとは違う。
気のせいだ。思い過ごしだ。そう思いたい。信じたくない。願望を否定するように全身の血がすっと引いていく感覚がした。まるで貧血を起こしたかのように手足が冷え、視界が黒く閉ざされていく。ふらつく足でとっさに近くの椅子の背もたれにしがみついた。
「セリーナ。どうした? 大丈夫か」
近くにいたお兄様が私の異変に気が付いてくれた。いつもなら過保護だと笑い飛ばすところだが今は有難かった。立っていられそうになかった。
「お兄様。……なんだか具合が悪くて、先に帰ってもいいですか」
「馬鹿言うな。具合の悪い妹を一人で帰らせるわけがないだろう。私も一緒に帰ろう。一人で歩けるか?」
自分で歩こうとしたが眩暈で立ち上がれず、お兄様に抱きかかえられて馬車に乗った。
屋敷に帰る馬車に揺られながら、自分がこれほど動揺している理由を考え愕然とした。そしてそれを認めたくなくてぎゅっと目を閉じた。
「フレデリック様は乗馬だけでなくダンスもすごくお上手なんですね。リードが安定していて踊りやすいです」
「私は運動神経には自信があるんだ。乗馬もダンスもなかなかだと自負している。でもセリーナもとても上手だよ。私もセリーナとのダンスは楽しく感じる」
私は嬉しくなった。気分が高揚してステップに力が入る。フレデリックも笑顔で合わせてくれている。だが、残念なことに楽しかった時間は瞬く間に終わってしまう。ただの友人でしかないので一曲しか踊ることが出来ない。離れていく手がなんだかとても寂しく感じる。曲が終わり互いに礼をして壁際へ移動する。名残惜しさを隠し笑みを浮かべた。
「ありがとうございました。とても楽しかったです。フレデリック様の次のダンスの相手を望む令嬢がこちらを見ていますから、私は退散しますね」
令嬢たちが待っていると伝えるとフレデリックが苦笑いをしながらちらりと視線を向けた。少し離れたところで数人の令嬢が彼を熱心に見つめてダンスの誘いを待っている。彼はやれやれと肩を竦めた。
「セリーナ、今夜はゆっくりしていくのかい? 時間があえば送っていこう」
「ありがとうございます。私のことはお気になさらずに」
フレデリックを見送ると私は壁の花となり周囲を観察する。あいにく私をダンスに誘うような男性はいない。本当はクリスティアナと談笑したいところだが結婚を控えた彼女は社交に忙しい。
今もスタンリーと一緒に年配の男性の話し相手をしている。今の彼女は誰が見ても幸せそうに見えるだろう。その笑顔で私も幸せな気持ちになれた。
微笑ましい気持ちで会場を眺めているとフレデリックを見つけた。彼は令嬢の話に相槌を打ちながらスタンリーとクリスティアナの方に視線を向けている。三人は本当に仲がいいのだなと思って見ていたが、彼の表情になんとも形容しがたい違和感を抱いた。
フレデリックの瞳に悲哀を感じる。その表情に既視感を抱いてしまった。以前、ロニーとの結婚生活の中で彼がヘレンに思いを馳せて、その名を呟いた時の切なげな瞳とよく似ている。それに気づき今度はフレデリックの視線の先を追った。そこには……クリスティアナがいた。フレデリックはスタンリーではなくクリスティアナを見つめている。それを認識するとまるで雷に打たれたような衝撃が体に走る。
(ああ、フレデリック様はティアナを愛しているんだわ)
それは直感だった。
フレデリックがクリスティアナとスタンリーを見る眼差しはいつも慈愛を含み温かい。それは二人に対する家族愛だと思っていた。でも、今の彼の眼差しはそれとは違う。
気のせいだ。思い過ごしだ。そう思いたい。信じたくない。願望を否定するように全身の血がすっと引いていく感覚がした。まるで貧血を起こしたかのように手足が冷え、視界が黒く閉ざされていく。ふらつく足でとっさに近くの椅子の背もたれにしがみついた。
「セリーナ。どうした? 大丈夫か」
近くにいたお兄様が私の異変に気が付いてくれた。いつもなら過保護だと笑い飛ばすところだが今は有難かった。立っていられそうになかった。
「お兄様。……なんだか具合が悪くて、先に帰ってもいいですか」
「馬鹿言うな。具合の悪い妹を一人で帰らせるわけがないだろう。私も一緒に帰ろう。一人で歩けるか?」
自分で歩こうとしたが眩暈で立ち上がれず、お兄様に抱きかかえられて馬車に乗った。
屋敷に帰る馬車に揺られながら、自分がこれほど動揺している理由を考え愕然とした。そしてそれを認めたくなくてぎゅっと目を閉じた。
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