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34.和解
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そしてウルリカは居住まいを正すとイデリーナに頭を下げお礼を言った。
「イデリーナ様ありがとうございます。あと、候補を16歳まで降りることが出来なかったのは王妃様がイデリーナ様の教育が安心できる所まで進むのを待って欲しいと仰ったからです。私が殿下をお慕いしたことは一瞬もありませんから安心してください。イデリーナ様にとって殿下は素晴らしい男性のようですが私にとっては……そうではないのです」
ウルリカの表情はとても穏やかでお礼の言葉は本心だと感じられた。だからこそオディリアは不思議だった。いくら母親のためとはいえ、貴族令嬢として酷い要求を呑まざるを得なかったのに怒っていない。愚かで高慢な令嬢として嫌われるようになんて要求されたら自分だったら悲しくて耐えられないだろう。その取引の結果、貴族の間でのウルリカの評判はとても悪いものになってしまったのに。これからアメルン侯爵家を継ぐ上で挽回していくのは大変だろう。
「ウルリカ様はその条件を理不尽だと、嫌だと思わなかったのですか?」
ウルリカは緩く首を横に振る。
「特には何も。父は母に付きっきりだったので私はずっと領地で祖父に育てられました。私の祖父は王国騎士団の団長をしていたことがあります。その影響で私は小さい頃から剣術を習い体も鍛えていました。そのせいか王都の優美な雰囲気と令嬢らしく振舞うことが苦手です。父には王都での役割は1年だけでそれ以降は病弱設定にして領地で過ごしていいと許可を得てたのでむしろ有難い話でした」
ようやく今回の事件の囮をウルリカがしていた理由が分かった。騎士団との繋がりがお祖父様を通してあったからだ。それにしてもアメルン侯爵はウルリカ嬢が囮になることをよく許したなと思う。もしもの事があったらと想像するとぞっとしてしまう。オディリアは1か月経った今でも思い出すと身震いしてしまう。
これで子供の頃のウルリカの振る舞いが意図したもので本来の彼女のものではなかったことを知ることが出来た。知れば再会したときに同一人物だと思えなかったのも納得がいく。
オディリアが心の中で納得して頷いていると、ずっと黙って話を聞いていたイデリーナが突然勢い良く立ち上がった。椅子は大きな音を立てて後ろに倒れている。メイドがすぐに駆け寄り椅子を起こす。
「ごめんなさい。ウルリカ様。私のせいで、そんなことをさせてしまって……。それなら……私のこと大っ嫌いですよね? 本当にごめんなさい」
頭を下げているイデリーナの琥珀色の瞳からは大粒の涙がぽろぽろと落ちていく。
「まあ! 顔を上げて下さい。謝らないで。私にとってはいい事ずくめだったのですから」
オディリアは席を立ちイデリーナの背をそっと擦りながら椅子に座るように促した。
ウルリカの言葉にイデリーナは瞬き困惑する。
「いい事ずくめ? そんなはずないでしょう?」
「あら、信じられないかしら? それでは教えて差し上げますわ。まずはひとつめ、殿下の婚約者候補の間は婚約者探しをしないですむ。好きでもない子息と日々顔合わせとか嫌すぎますわ。ふたつめ、王都の社交は一年だけとの許可をもらい領地で過ごすことができた。普通なら侯爵家を継ぐ私は幼いころから王都で暮らして同じ年頃の令嬢と交流をしなければいけなかったのですが回避できた。みっつめ。父から婚約者候補を降りたあとは自分が思う相手を伴侶に選んでいいと約束できたこと。おかげでレオンと婚約することが出来ました。私、他人から受ける評判などどうでもいいのでそのことは気にしないで下さい。そして、一番は母が目を覚まし元気になった事です。それにイデリーナ様も無事に王太子殿下と婚約出来て二人は幸せで、王妃様も大満足。みんなの望みが叶っていいことしかありませんでしょう?」
「じゃあ、私の事が嫌いじゃない?」
イデリーナが心細げに聞くとウルリカはくすくすと笑い、砕けて話す。
「嫌ってなんかいないわ。イデリーナ様って面白いなあってずっと思っていたの。王太子妃教育をサボって猫と遊んでばかりで王妃様に猫を取り上げられたでしょう? 殿下と婚約するためよりも猫と遊べないから勉強頑張るっていうモチベーションがなんとも言えなくておかしかった。一応、私は王妃様からイデリーナ様の勉強の進捗の連絡は頂いていたの。妃候補を降りるタイミングをその手紙で参考にしていたわ。だから嫌ってはいないけどもう少し勉強を頑張ってくれていたら、もっと早く婚約者候補を降りることが出来たのにとは思っていたけど」
どこか揶揄いが含まれている言葉にイデリーナが羞恥に顔を真っ赤にした。
その飼い猫とはオディリアとイデリーナが子供の頃に二人で助けて飼っていたマグのことだ。オディリアはローデリカ王国に来てマグと遊べると思っていたが、マグは王宮にいると聞かされてガッカリしていた。日々王妃様付きの侍女に世話をされて優雅に過ごしているらしいが、王宮に上がる機会がなかなかないオディリアはマグに会うことが出来ない。流石に王妃様にマグと遊ばせてくださいと言う勇気はなかった。
王妃様の行動を聞けば聞くほど王妃様はイデリーナを王太子妃にするために必死だったと分かる。それも全ては息子である王太子殿下のためだ。
個人的には王妃様はやり過ぎだと思うが我が子をこれほど愛する親もいる。オディリアの両親はオディリアに対してそうではなかったことを思い出す。少しだけ苦い悲しみが胸をよぎる。その気持ちを心から追い出す為に目を閉じ思考から追い出す。
そしてふと横を見ればイデリーナはばつが悪そうに目を泳がせ、すっかり冷めてしまった紅茶を誤魔化すように一気に飲み干した。
オディリアはその様子を見てこれからはイデリーナとウルリカは仲良くやっていけると思った。
「イデリーナ様ありがとうございます。あと、候補を16歳まで降りることが出来なかったのは王妃様がイデリーナ様の教育が安心できる所まで進むのを待って欲しいと仰ったからです。私が殿下をお慕いしたことは一瞬もありませんから安心してください。イデリーナ様にとって殿下は素晴らしい男性のようですが私にとっては……そうではないのです」
ウルリカの表情はとても穏やかでお礼の言葉は本心だと感じられた。だからこそオディリアは不思議だった。いくら母親のためとはいえ、貴族令嬢として酷い要求を呑まざるを得なかったのに怒っていない。愚かで高慢な令嬢として嫌われるようになんて要求されたら自分だったら悲しくて耐えられないだろう。その取引の結果、貴族の間でのウルリカの評判はとても悪いものになってしまったのに。これからアメルン侯爵家を継ぐ上で挽回していくのは大変だろう。
「ウルリカ様はその条件を理不尽だと、嫌だと思わなかったのですか?」
ウルリカは緩く首を横に振る。
「特には何も。父は母に付きっきりだったので私はずっと領地で祖父に育てられました。私の祖父は王国騎士団の団長をしていたことがあります。その影響で私は小さい頃から剣術を習い体も鍛えていました。そのせいか王都の優美な雰囲気と令嬢らしく振舞うことが苦手です。父には王都での役割は1年だけでそれ以降は病弱設定にして領地で過ごしていいと許可を得てたのでむしろ有難い話でした」
ようやく今回の事件の囮をウルリカがしていた理由が分かった。騎士団との繋がりがお祖父様を通してあったからだ。それにしてもアメルン侯爵はウルリカ嬢が囮になることをよく許したなと思う。もしもの事があったらと想像するとぞっとしてしまう。オディリアは1か月経った今でも思い出すと身震いしてしまう。
これで子供の頃のウルリカの振る舞いが意図したもので本来の彼女のものではなかったことを知ることが出来た。知れば再会したときに同一人物だと思えなかったのも納得がいく。
オディリアが心の中で納得して頷いていると、ずっと黙って話を聞いていたイデリーナが突然勢い良く立ち上がった。椅子は大きな音を立てて後ろに倒れている。メイドがすぐに駆け寄り椅子を起こす。
「ごめんなさい。ウルリカ様。私のせいで、そんなことをさせてしまって……。それなら……私のこと大っ嫌いですよね? 本当にごめんなさい」
頭を下げているイデリーナの琥珀色の瞳からは大粒の涙がぽろぽろと落ちていく。
「まあ! 顔を上げて下さい。謝らないで。私にとってはいい事ずくめだったのですから」
オディリアは席を立ちイデリーナの背をそっと擦りながら椅子に座るように促した。
ウルリカの言葉にイデリーナは瞬き困惑する。
「いい事ずくめ? そんなはずないでしょう?」
「あら、信じられないかしら? それでは教えて差し上げますわ。まずはひとつめ、殿下の婚約者候補の間は婚約者探しをしないですむ。好きでもない子息と日々顔合わせとか嫌すぎますわ。ふたつめ、王都の社交は一年だけとの許可をもらい領地で過ごすことができた。普通なら侯爵家を継ぐ私は幼いころから王都で暮らして同じ年頃の令嬢と交流をしなければいけなかったのですが回避できた。みっつめ。父から婚約者候補を降りたあとは自分が思う相手を伴侶に選んでいいと約束できたこと。おかげでレオンと婚約することが出来ました。私、他人から受ける評判などどうでもいいのでそのことは気にしないで下さい。そして、一番は母が目を覚まし元気になった事です。それにイデリーナ様も無事に王太子殿下と婚約出来て二人は幸せで、王妃様も大満足。みんなの望みが叶っていいことしかありませんでしょう?」
「じゃあ、私の事が嫌いじゃない?」
イデリーナが心細げに聞くとウルリカはくすくすと笑い、砕けて話す。
「嫌ってなんかいないわ。イデリーナ様って面白いなあってずっと思っていたの。王太子妃教育をサボって猫と遊んでばかりで王妃様に猫を取り上げられたでしょう? 殿下と婚約するためよりも猫と遊べないから勉強頑張るっていうモチベーションがなんとも言えなくておかしかった。一応、私は王妃様からイデリーナ様の勉強の進捗の連絡は頂いていたの。妃候補を降りるタイミングをその手紙で参考にしていたわ。だから嫌ってはいないけどもう少し勉強を頑張ってくれていたら、もっと早く婚約者候補を降りることが出来たのにとは思っていたけど」
どこか揶揄いが含まれている言葉にイデリーナが羞恥に顔を真っ赤にした。
その飼い猫とはオディリアとイデリーナが子供の頃に二人で助けて飼っていたマグのことだ。オディリアはローデリカ王国に来てマグと遊べると思っていたが、マグは王宮にいると聞かされてガッカリしていた。日々王妃様付きの侍女に世話をされて優雅に過ごしているらしいが、王宮に上がる機会がなかなかないオディリアはマグに会うことが出来ない。流石に王妃様にマグと遊ばせてくださいと言う勇気はなかった。
王妃様の行動を聞けば聞くほど王妃様はイデリーナを王太子妃にするために必死だったと分かる。それも全ては息子である王太子殿下のためだ。
個人的には王妃様はやり過ぎだと思うが我が子をこれほど愛する親もいる。オディリアの両親はオディリアに対してそうではなかったことを思い出す。少しだけ苦い悲しみが胸をよぎる。その気持ちを心から追い出す為に目を閉じ思考から追い出す。
そしてふと横を見ればイデリーナはばつが悪そうに目を泳がせ、すっかり冷めてしまった紅茶を誤魔化すように一気に飲み干した。
オディリアはその様子を見てこれからはイデリーナとウルリカは仲良くやっていけると思った。
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