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5.困惑する贈り物
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最近はオリス様から話題を振ってくださるがそれでも私からの話題が圧倒的に多い。話の内容は自分の近況であったり最近王都で流行っているベストセラーや食べ物の話だ。特にお気に入りのパン屋さんのパンの味が変わってしまって残念だといえば、オリス様は興味深そうに頷いていた。
「私ばかりお話してしまって申し訳ありません。流行のことなどオリス様には興味のないことですよね?」
つい彼と過ごす時間が楽しくて自分だけが浮かれていることに気付き反省した。
「私は仕事ばかりで世間の流行を知るきっかけがないのでエルシャ様に教えてもらえて助かっています。それにあなたとの会話は楽しい」
「ありがとうございます。私もオリス様と過ごせるのはとても楽しいです」
オリス様はすっと視線を逸らした。その態度に最初は怒らせてしまったのかと不安になったが、幾度となく一緒に過ごしてきた今は嫌われてしまったと勘違いすることはない。彼の耳は真っ赤になっている。照れているのだ。私は彼の観察に余念がない。だがじろじろ見てしまっては不愉快にしてしまうのでさり気無さを心掛けている。二人の仲は順調に進んでいた。
オリス様は国王陛下の生誕祭の準備でしばらく忙しくなると教えてくれた。それならば落ち着くまで邪魔をしないようにランチをご一緒にするのをやめることにした。彼は眉を下げ「残念です」と言ってくれた。お互いが同じ気持ちになれる、なんて素敵なことだろう。
私はオリス様に会えない間に彼に贈るハンカチに刺繍をしていた。丁寧に心を込めてどうか彼が喜んでくれますようにと。
数日後、彼からメッセージカードが届いた。何気ない一言……主に天気だが美しい文字で書かれている。
(本日は曇りで少し気温が低めですね。風邪などひかないよう気を付けて)
忙しい中、それだけでも大変だろう。自分の為の心遣いに彼の誠実さを感じた。メッセージカードは定期的に届くようになり私も近況や彼の体を気遣う言葉をカードに寄せた。カードを受け取る度に彼の文字を指で追う。そうすると彼の声が頭の中に聞こえてくるような気がした。
会えなくても順調に交流が続くことは二度の破談を経験した私の心を安心させてくれた。今度はきっと大丈夫。私は彼からもらったカードを美しい細工の施された木の箱に大切に仕舞う。過去の天気が知りたくなったらこれを見ればすぐに分かる。私はくすりと笑いながらその箱を眺める。天気の記録に使い道はなくても彼が私を大切にしてくれている証拠のように感じた。
ある日、変化が起こった。
カードと一緒にプレゼントの箱が届いた。私は花とカード以外の贈り物に浮かれた。嬉しくて心臓をドキドキと高鳴らせ、逸る気持ちを押さえながらゆっくりとプレゼントの箱を開けた。
そこにはガラスの置物が入っていた。手のひら大の大きさだろうか? 一瞬目を瞠る。恐る恐る手に取ってみるが困惑し首を傾げた。
「…………」
それは髑髏の形をしていた。私は髑髏を特に好きではない。ガラスは綺麗なのだがこの形はちょっと怖い。プレゼントを贈ってくれた気持ちは本当に本当にとっても嬉しいのに、ガッカリしてしまったことが申し訳ない。期待が大きかった分、切なくなってしまった。ガッカリした自分を最低だという気持ちにもなった。こんな自分ではオリス様に嫌われてしまう。私は髑髏を見ながら必死に……口角を上げた。
それを眺めながらもしかしたらこれには何か意味があるのだろうかと考えた。オリス様の意図を読み取ろうとその晩私はベッドの中でひたすら考え続けたが寝不足になっただけで分からなかった。
その次に届いた贈り物に私は少し警戒した。そして心を落ち着けてから箱を開けたのだが、それは私の想像を超えていた。私は開けた瞬間に大きな悲鳴をあげ、慌てて箱を閉じた。
これは、きっと美しいのだろう。価値もあると思う。好きな人にとっては宝物だ。けれど、けれど私には無理だった。
美しい蝶が何匹も入っている標本だった。どんなに綺麗でも虫だけは無理。絶対無理! 涙目になりながらその箱は閉じてある。たとえオリス様からの贈り物であっても開けて眺める勇気はなかった。
その次に届いた贈り物も恐々と包みを開けた。今回は上質な絹のストールが入っていた。肌ざわりもサラサラと気持ち良くてとても素敵なのだが……柄がなんとも前衛的というか、今までに見たことのないような柄でびっくりした。
微妙にいつ使えばいいのか分からない。外出用のワンピースにも夜会用のドレスにも合いそうもない。でもせっかく頂いたのだからとりあえず部屋にいるときに使うことにした。そう思っても柄を見ると派手な色で目がチカチカしてきて…………。
最初は贈り物を選ぶのが苦手なんだろうと思っていたが、最近ではもしかして婚約解消したくて選んでいるのではと勘繰ってしまう。
きっと私の心はひねくれているのだ。折角頂いた品物を喜べないなんて酷い女だと思う。でも、これは一般的に女性に贈るものではないとも思う。
その葛藤から私は贈り物を見ながら独り言を呟いていた。
「どうしてこの品物なのかしら?……」
呟いたところで気持ちを納得させることは出来なかった。
「エルシャ様。悩むくらいならオリス様に直接お聞きしてはいかがですか?」
いつまでも考え込む私に侍女は呆れたようにそう言った。
「私ばかりお話してしまって申し訳ありません。流行のことなどオリス様には興味のないことですよね?」
つい彼と過ごす時間が楽しくて自分だけが浮かれていることに気付き反省した。
「私は仕事ばかりで世間の流行を知るきっかけがないのでエルシャ様に教えてもらえて助かっています。それにあなたとの会話は楽しい」
「ありがとうございます。私もオリス様と過ごせるのはとても楽しいです」
オリス様はすっと視線を逸らした。その態度に最初は怒らせてしまったのかと不安になったが、幾度となく一緒に過ごしてきた今は嫌われてしまったと勘違いすることはない。彼の耳は真っ赤になっている。照れているのだ。私は彼の観察に余念がない。だがじろじろ見てしまっては不愉快にしてしまうのでさり気無さを心掛けている。二人の仲は順調に進んでいた。
オリス様は国王陛下の生誕祭の準備でしばらく忙しくなると教えてくれた。それならば落ち着くまで邪魔をしないようにランチをご一緒にするのをやめることにした。彼は眉を下げ「残念です」と言ってくれた。お互いが同じ気持ちになれる、なんて素敵なことだろう。
私はオリス様に会えない間に彼に贈るハンカチに刺繍をしていた。丁寧に心を込めてどうか彼が喜んでくれますようにと。
数日後、彼からメッセージカードが届いた。何気ない一言……主に天気だが美しい文字で書かれている。
(本日は曇りで少し気温が低めですね。風邪などひかないよう気を付けて)
忙しい中、それだけでも大変だろう。自分の為の心遣いに彼の誠実さを感じた。メッセージカードは定期的に届くようになり私も近況や彼の体を気遣う言葉をカードに寄せた。カードを受け取る度に彼の文字を指で追う。そうすると彼の声が頭の中に聞こえてくるような気がした。
会えなくても順調に交流が続くことは二度の破談を経験した私の心を安心させてくれた。今度はきっと大丈夫。私は彼からもらったカードを美しい細工の施された木の箱に大切に仕舞う。過去の天気が知りたくなったらこれを見ればすぐに分かる。私はくすりと笑いながらその箱を眺める。天気の記録に使い道はなくても彼が私を大切にしてくれている証拠のように感じた。
ある日、変化が起こった。
カードと一緒にプレゼントの箱が届いた。私は花とカード以外の贈り物に浮かれた。嬉しくて心臓をドキドキと高鳴らせ、逸る気持ちを押さえながらゆっくりとプレゼントの箱を開けた。
そこにはガラスの置物が入っていた。手のひら大の大きさだろうか? 一瞬目を瞠る。恐る恐る手に取ってみるが困惑し首を傾げた。
「…………」
それは髑髏の形をしていた。私は髑髏を特に好きではない。ガラスは綺麗なのだがこの形はちょっと怖い。プレゼントを贈ってくれた気持ちは本当に本当にとっても嬉しいのに、ガッカリしてしまったことが申し訳ない。期待が大きかった分、切なくなってしまった。ガッカリした自分を最低だという気持ちにもなった。こんな自分ではオリス様に嫌われてしまう。私は髑髏を見ながら必死に……口角を上げた。
それを眺めながらもしかしたらこれには何か意味があるのだろうかと考えた。オリス様の意図を読み取ろうとその晩私はベッドの中でひたすら考え続けたが寝不足になっただけで分からなかった。
その次に届いた贈り物に私は少し警戒した。そして心を落ち着けてから箱を開けたのだが、それは私の想像を超えていた。私は開けた瞬間に大きな悲鳴をあげ、慌てて箱を閉じた。
これは、きっと美しいのだろう。価値もあると思う。好きな人にとっては宝物だ。けれど、けれど私には無理だった。
美しい蝶が何匹も入っている標本だった。どんなに綺麗でも虫だけは無理。絶対無理! 涙目になりながらその箱は閉じてある。たとえオリス様からの贈り物であっても開けて眺める勇気はなかった。
その次に届いた贈り物も恐々と包みを開けた。今回は上質な絹のストールが入っていた。肌ざわりもサラサラと気持ち良くてとても素敵なのだが……柄がなんとも前衛的というか、今までに見たことのないような柄でびっくりした。
微妙にいつ使えばいいのか分からない。外出用のワンピースにも夜会用のドレスにも合いそうもない。でもせっかく頂いたのだからとりあえず部屋にいるときに使うことにした。そう思っても柄を見ると派手な色で目がチカチカしてきて…………。
最初は贈り物を選ぶのが苦手なんだろうと思っていたが、最近ではもしかして婚約解消したくて選んでいるのではと勘繰ってしまう。
きっと私の心はひねくれているのだ。折角頂いた品物を喜べないなんて酷い女だと思う。でも、これは一般的に女性に贈るものではないとも思う。
その葛藤から私は贈り物を見ながら独り言を呟いていた。
「どうしてこの品物なのかしら?……」
呟いたところで気持ちを納得させることは出来なかった。
「エルシャ様。悩むくらいならオリス様に直接お聞きしてはいかがですか?」
いつまでも考え込む私に侍女は呆れたようにそう言った。
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