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Chapter_2:コーズ&エフェクト

Note_25

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 巨大機体【タイタン号】の中では、巡回ロボットによって監視されている。既にレオはデータベースに登録されていて、パスされる。サドも同様であり、密かにP-botの姿でも登録している。


『お帰りなさいませ。レオ様、サド様。』

「……中々いいロボじゃねーか。おだてても何も出ねーぞ。」

『電池は大丈夫なんですか?』

「いや、そりゃいるだろーけどさ。」



 とりあえず、2人とも司令室にたどり着く。レオは疲れた。椅子に座って脱力する。


『では、私はサドさんが起きるまで寝ていますね。お休みなさい。』

「急に起きるんじゃねぇぞ。着替えっ……」

『ばあっ!』

「うおいっ!……ってふざけんなよ……。子供かよ……ったく。」

 マークⅢは顔を微笑ませてソファに寝る。レオの姿が見えないように内側に寝る。


_____


 真白な仮想空間、まだ1人だけの空間だ。サドはいまだ起きてこない。マークⅢは本当に、ものすごく、めちゃくちゃ、心配していた。


『……サドさん……サドさん……?』


 優しい声で語りかける。サドを再び抱く。悲しいときはこのようにすると学んでいる。


『……起きてください。寝ているだけですよね?起きてください。いつまでも……待ってます。』


 マークⅢは何度でもささやく。いつまでも抱き続ける。彼の目が醒めるまで。


(……リン?)


 マークⅢがサドの顔を確かめる。若干だが目が開いている状態で、意識が朦朧もうろうとしている。


『……サドさん!!///』


 温もりは無いが、とにかく抱きしめた。サドは夢現ゆめうつつの状態でありながら、静かに話し始める。


(……リン……治ったんだ……病気……良かった……。でも……僕は……ここで……一体……)

『……リン……?』


 マークⅢは見に覚えがなかった。サドの顔を再び見つめて確かめる。

 サドは何度か瞬きして、目覚めた。その瞬間にサドは動揺して両手で胸部に触れる。その手にマークⅢが重ねる。


『おはようございます……サドさん!!///』


 また抱きついてきた。サドに温もり自体はそこまで感じなかった。しかし心地良かった。


「お、おはよ。」


 サドはマークⅢを見つめた。


『どうしたんですか?』

「……聞き覚えある声だと思ったんだけど……まさかリンなのか!?」

『リン……さん?』

「なんだ……やっぱり、声だけ無作為に取ってきただけか……。」


 サドはちょっと残念そうに感じた。


『リンさんは、一体どちら様なのでしょうか?私には身に覚えが無いんですけど……』

「名前“だけ”は絶対聞いたことがあるでしょ?ほら、コーヴァスさんから暗号もらったときの……」


 マークⅢは完璧に思い出した。あの時のメールの受け取り主である。サドがそのメールのやり取りについて管理していたのだ。


『……えっ、私の声ってその……リンさんの声だったんですか!?』

「うん。そのまんま、そういう感じの声だったよ。電子音のノイズを抜きにすれば丁度そういう感じ。マークⅢの声で確信したんだ。」


 マークⅢはサドの話を聞いて、もっと褒めてほしいと照れる。反対にサドはうつむいてしまった。


「でも……不思議だな……僕はリンに迷惑ばっかかけていたのに……こんなに喜ばれるなんて、絶対何か怪しいって夢で思ってたけど……」

『私は、とにかくあなたが無事で良かったと思いますよ!』

「そう……」


 サドはリンのことを思い出して、テンションが更に下がってしまった。


『サドさん……リンさんについて、一体どんなことをなされたんですか?』

「いやぁ……ちょっとなぁ……もう少し寝てもいいかなぁ……夢かもしれないし……」


 マークⅢは近づく。


『私はもうあなたの“仲間”です!レオさんのように、あなたのように、心から仲間を助けたいんです!』


 サドはこの時、マークⅢとレオを重ね合わさった。その気持ちは本当に助けたいという信念を意味していた。


「……僕も覚悟するよ。リンのことについて君にすべて話すつもりさ。」


 サドは真面目な表情で、マークⅢと向かい合った。サドにとっては、話しながらも再び追体験するほどに…とても傷ついた思い出でもある。


_____


 話の前に……リンの出自についてまずは説明したい。聞いてくれるかい?

……なら、話すよ。

 リンの両親は、父は男性で【カール・ダンリーヴィー】っていう真っ当な科学者だった。母は女性……なんだけど、エンダー家になれなかった、【エンドラ】と呼ばれる人達の1人で、名前も与えられなかったんだ。

 カールさんがその母を受け容れて、生活していったんだ。そして生まれてきたのが、【リンクス・ダンリーヴィー】……彼女こそリンさ。

 家族円満で過ごしていたけど、エンダー家の刺客に母は消された。

 そこからエンダー家に復讐を誓って、父はリンを連れてレジスタンスに入団した。こちらも優秀な科学者が欲しかったところだったから。

 研究は兵器チームの第24班。下っ端も下っ端だけど、代わりに一番安全な兵器を任せられていたんだよ。

 父親に会いにリンはそこに向かっていた。そして扉を開けて、父に会いに行ったけど……丁度、兵器の実験に失敗した。近くにいた科学者はみんな亡くなった。

 リンは命は取り留めたけど……四肢が蝕まれて縮まっていく病にかかってしまったんだ……。本来は、子供達の1人として別のところに隠されるはずだけど、彼女だけ病室で別に寝込んでいる。お見合いは……延期された。

 本当に思い知らされたよ。この件で兵器を扱うのに、安全な場所は一切ないこと……そして兵器チームというだけで、どれだけ危険な橋を渡っているのかをね……。


_____


 5年前の某日、病室にて子供達のリンと初めてのご対面である。この時、様々な年齢の少年少女が新しい友達の紹介を楽しみにしていた。


「……男の子かなぁ?改造人間サイボーグとかだったら最高にいかしてるんだけど。」

「女の子って言ってたじゃん!本当、子供ね。これだから男の子は……」

「ぼく、おにいちゃんになりたーい!」

「ざんねーん、マルコより年上のお姉ちゃんだ。」

「そんなぁ……」


 15人、最高齢でも12歳の子供が出会いを待ちきれなかった。彼らを連れていたのは、若き戦闘員のコーヴァスであった。


「よぉし!みんな、この先の部屋が、新しいお友達のいるお部屋になる。今はいないサド君の分も込めて、いっぱい話しかけてくれ!」


 コーヴァスが部屋を開けた瞬間に、15人の子供達が一斉になだれ込んで、自分の名前を我先に言ってきた。


「ぼく【マルコ】!きみのなまえは?」
「俺の名前は【カンタ】!君の名は?」
「私は【メル】っていう名前なの!あなたは?」
「【カリン】よ!覚えてね!」
「カーティス!【カーティス・カンカー】!」
「え、えぇと……あの……」
「【キース・マーキュリー】!あの!ともだちになってください!」
「【ディアドラ】!あなたは何ていう名前?」
「【フロラン】さ。ヨロシク。」
「【ベルナール・ドラド】!ベルって呼んで!」
「【サルガス】!!」「【エルナト】~。」「【ポルックス】!!!」
「【アークトゥルス・スイートマン】です。よろしくおねがいします。」
「【アトリア】!私、アトリアっていうんだ!」



「……え、ええと……」

「は~い!みんな静かに!ここは病室だから、寝ている人たちの迷惑にもならないように、うるさくしたら駄目だぞ。

それに一斉に自己紹介しても、分からないから!おまけに【クラリス】ちゃんもちゃんと話せなかったろ?

まずは1人ずつ、時計回りに順番に進んでみるか!まずは年長さんのカンタ君から!」



…ひとまず、リンを含む全員分の自己紹介は終わった。コーヴァスは自己紹介が終わるなり、自分だけ退出する。


「よぉし!……んじゃあ最初にも約束した通り、リンちゃんには一切触れないこと。おしゃべりだけだ。でもにらめっこならありだ!クイズでもいいぞ!

んじゃっ、おじさんが戻ってくるまで約束を“必ず”守って触れ合っててくれ!」


 コーヴァスは部屋から出ていった。15人は自己紹介を終えたものの、何をすればいいのか分からなかった。


「何する?」

「リンクス姉ちゃんは最近何かやりたいこととかあるのかなぁ?」

「地球に旅行をしに行ってみたい!最新の技術とか見てみたい!」

「……リンねーちゃん。」


 リンは3人組の末っ子、ポルックスの方を向く。頬をびろーんと横に伸ばして顔を広げる。


「!……ぷっふふ……」

「えっへへ~ん。」

「あっ、ずりぃぞ!俺もそれやろうと思ったのに……。」


 リンは見事にツボに入った。

 その後も、色々なことをやって楽しんでいたらしい。大人数だったからか、ものすごく盛り上がっていた。


_____


 また別の日、異なる時間帯である。夕暮れ時の時間に少年が1人、病室に向かっていた。その少年こそ、幼き【サド・キャンソン】であった。大きな端末を左腕で抱きかかえている。

 その病室の前には、コーヴァスが門番として立っていた。


「すまねぇな。彼女は今、手術後の療養中なんだ。安静にさせてやれ。」

「……そう……ですか。」


 サドは俯いてしまった。

 サドが来ることのできる日のうち、ほとんどが彼女の段階的な手術・療養と被る。

 サドはこの時点でまだ10歳である。そして他の子供達とは違い、既にレジスタンス本部の【科学者】として貢献している。

 部署は情報チームの第3班。一つ間違えれば、即座に政府に通告されたり、端末そのものが壊れうる技術を担う。

 研究の日々に追われ、もはや少年として扱われることなどない。他の子供達と隔離されて付き合いがなくなり、1人でこの場所に来た。

 新しい仲間に喜ぶ童心を、彼自身は隠し続けた。自分は違うのだから我慢した。

 コーヴァスはその場を後にするサドに、どうすればよいものか、頭を軽く掻いた。


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