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Chapter_2:コーズ&エフェクト
Note_26
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空飛ぶ機械霊は、発見された例がほとんどない。あるとしても当時ならば、およそ1万年前に存在した、【タイタン号】と呼ばれる巨大機体の周りに描かれた、ごく小さな衛星のような機体がそれかもしれない。
したがって、邪魔がほとんどない高所から電波を発してより遠い場所へ通信を行う。これは惑星間通信においても同様である。
都市部から少々離れ、閑静で広い高所に位置するレジスタンスの大規模な研究施設。その土地の名から取って、【HFRキャンプ】と呼ばれる。
サドが所属する情報チームの第3班もここで研究している。当時の情報チームは、惑星内のネットワークを政府の電波塔に頼らずに、開通させる技術の応用に力を注いでいる。
第3班の研究内容は、“惑星外との通信”が主である。無論だが、この惑星では政府の許可無くして行うことは違法にあたる。
サドは獲得したある復号文について、疑問を抱く。スキンヘッドの男が後ろからその様子を見て、サドに説明する。
「……こいつは水星の言語だな。元々、地球で言う東ヨーロッパ圏の人が水星の所有を唱えて開拓してきた歴史がある。そこの言語から更に訛った口調をしている。べらぼうの口語だ。
おそらく学生同士の通信のやり取りだろう。とんだ無駄足だ……。
……まだまだだな!ガッハッハッハッハッ!」
「どうりで……」
「地球の暗号を解き明かしたからって、足踏みしてる暇はねぇんだ。更に先を目指さなきゃならねぇからなぁ!」
この男の名は、【アルカウス】博士。第3班の室長である。人相は悪いがかなりの博識で、高度な技術を扱える。最初に出会ったときは、少々スパルタ気味だった。
「……これから、お前には地球との通信について重点的に研究を行ってもらう。」
「!?……いきなりどうしてまた……。」
アルカウス博士は、ドヤ顔である資料をサドに手渡す。紙類であった。
「……これは……!」
「新政府のマニフェスト。新王が公示した、これからの政策の内容……【上級機密事項】だ。」
「機密事項……ですか?どうやって……」
【上級機密事項】。他の情報と異なる点として、強力な暗号で秘匿されている。更に一定の地点・端末以外での情報の公開・公示・流布等が厳禁である。これを破ると、政府から指名手配される。
「レジスタンスの諜報員が中枢から情報を持ってきてくれた。優秀な愛弟子だよ……ったく。
その一部として重要な部分を丸で示した。」
サドは読む。
「……“惑星外の科学技術の視察”……“主に惑星連合を指揮する地球の技術について参考にする”……これってまさか!」
「そう、この惑星から出られるチャンスが来たということだ。惑星外に助けを求められる、絶好の……」
「政府のネットワークはどうするんですか?それはエンダー家の所有になっているはず。
……一筋縄ではいかないかと存じます。」
「お、おう……」
サドの疑問につっかえてしまった。アルカウスは気を取り直して提案する。
「……んだったら、積極的に俺らが新王にアピールすりゃいいってだけだろ!
政府の惑星外ネットワークが使えなきゃ、こっちが造るまでだ!
つべこべ言わず、地球との通信を絶やすんじゃねぇ!絶好のチャンスを逃すな!」
「はいぃ!!」
そんなこんなで忙しい研究室であった。
_____
とりあえず、サドは時間があるときに新しい仲間の所に向かうことにした。とにかく出会えるチャンスを増やした。何度も門前払いされて折れそうになっていた。
ある真夜中の時であった。誘導灯が点く時間帯にサドは病室にやって来た。廊下は暗く閑静で、人の声はまず聞こえてこない。
サドは病室の前に来た。そこにはコーヴァスがいつものように見張っていた。ささやかな笑顔で出迎えてくれた。
「ようやく来たな……。もう来ないかと思ってたが……なかなかしぶといな。そんなに会いたかったのか?
……説明不要だな。約束さえ守ってくれたら、あとは好きなだけ振れ合ってくれ。
……サド君なら心配ないと思うけど、今の彼女の姿に驚かないなら……入れてやる。」
サドは承知して取っ手を掴み、病室に恐る恐る入った。入った瞬間、その姿が見える。
リンは子供達が来たときより、若干やせ細っていた。顔色も少し悪く、青くなっている。そして何より、目を包帯で巻いて隠していた。
「……どちら様……?」
「………。」
サドは申し訳無さで心が一杯になった。笑顔が一瞬で暗くなる。退室しようとするが、コーヴァスが止めた。
「彼女も君に会いたくて、無理してこの時間を空けてくれたんだ。それに答えてやるのは、君の役割だろう。
怖かったか?……違うよな?すごく苦しそうだって考えたなら、お前が少しでも、その苦しみを和らいでやってくれ。そうすりゃ彼女も喜んでくれるはずだ……。
……ほら。」
コーヴァスはサドの肩を押さえて、病室の方へと押していく。サドは彼女と向き合う。
「……コーヴァスさん……?何か……」
「コーヴァスさんは今、端で見ている。」
「君は?もしかして……いつもここに1人で来ていた子……?」
「僕は……【サド・キャンソン】です。あなたがここに来てから、ずっと会いたかったんですよ。」
リンは位置を把握できなかった。しかし下に向いていた顔が、正面を向いてくれた。
「私は……【リンクス・ダンリーヴィー】!
私も君をずっと待っていたんだよ!」
リンはまっすぐ壁の方を見ている。願わくばその目を失ってしまう前に、来てほしかったのだろう。サドはコーヴァスの反応と彼女の姿から、そのように感じ取った。
サドは椅子を持って、リンの近くに置いて座った。
「……私のことは、みんなリンって呼んでる。本当はもっと早めに会いたかったけど、ごめんね。治すために手術をたくさん頑張らきゃいけなくて……。」
「……早く治るといいね。手術もすごく怖いと思うけど、上手くいくようにお願いするから……。」
「……目はもうダメだけど、手術を頑張れば義眼でも見えるようになるんだって!
その時まで、お披露目はお預けだね!すごく楽しみ!」
リンは笑顔で答えてくれた。誰よりもつらい状況であるはずだが、彼女は確実に強く前向きに進んでいる。
…出会ったはいいがここから何をしたいのか、サドはまだ決めていなかった。
「私は……もっとサド君のことが知りたい!好きなもの、得意なもの……お披露目までに、色々知っておきたいんだ!」
サドはリンに自己紹介をした。
「……好きなものは、甘いもの。特にチュロスが好きです。」
「チュロス……って?」
「ドーナツを少し硬くしたような感じの。都会でよく売られているんだ。」
「へぇ、初めて知った!」
「得意なものは……何だろう……。」
サドは深く考えた。サド自身は本職こそ科学者だが、他にもエンジニアとしても、パイロットとしても頑張っている。どれもレジスタンスとして特別、秀でるものでもない。
「……得意なものは無いよ。」
「そっか……。」
サドは答えた。そして問う。
「リンは何か興味あるものとか、病気が治ったらやりたいこととかないかい?」
リンは笑顔でこちら…に少し届かないが大体こちらを向いて笑顔で話した。
「……地球旅行がしたい!はじまりの人間も、ロボットの新技術も、みんな地球からやってくるってパパが言っていた。
私も行ってみたい!本当はパパと一緒に行けたらって考えたんだけど……パパの分も楽しむ!」
「……地球……旅行……。」
リンは答えた。サドはその答えに対して、少し止まった。
(……地球……新王が提示した視察先もそこだったはず。地球と通信できるなら……いちかばちか、やってみてもいいかもしれない。)
サドは一つ提案した。
「……リン。一足先に、地球の人達と連絡を取り合ってみないかい?」
「地球の人達と……連絡?」
「そう。レジスタンスの惑星ネットワークを経由して、地球からランダムに選んだ人とメールのやり取りをするんだ。
お試しでできるよ。地球は【惑星連合】の総本山だから、真っ先に研究したんだ。……どうかな?」
サドは自分達の研究を腐らせないために、“お試し”という名目で実証実験を持ちかける。初対面で頼むことではない。自信なさげだった。
「……何それ……すごく面白そう!」
リンは興味を惹かれたようだ。
「やってみる?」
「やるやる!地球人はどんな人達なんだろう……優しいのかなぁ!」
「……それは返信来るまでのお楽しみ。まずはメールで書きたいことについて、リンのセリフのままに僕が書くよ。それを相手に送信するんだ。」
「ありがとう!助かるよ!」
サドは試作である惑星ネットワークを“オン”にする。この時点でサドの端末が今いるこの星は勿論、他の星とインターネットを介して繋がっている。
その中で、地球のチャネルに指定して、メールの設定を完了する。
「んじゃあ……始めるよ。いつでもOKさ。」
リンはそのメールに、自分が興味を持っていること、自分がやりたいこと、自分が乗り越えるべきことを綴ってもらった。
(このメールが、地球の人達に届けられる。僕はリンが伝えたいことを、そのままに書く。僕の感情は後回しだ。……それでも、)
「一応、初めてのメールだからリンの事情について軽く、一緒のメールに書いておくね。」
サドは諸事情を付け加えてから、不特定多数に向けてメールを送る。向こう側からしてみれば、“スパムメール”に当たる迷惑でしかないものだろう。
だが地球人へのメッセージとして、まだ見ぬ人達に対して、サドにはそれ以外の連絡手段を持ち得なかった。
「……後は次会うときまでの……」
サドは台詞を急に止めてしまった。
「どうかしたの?」
「次……いつになるんだろ……」
何度も来て初めて、念願の対面を果たしたまでは良かった。しかし、これからはいつ会えるのだろうか。また会うのに、どれだけの日数がかかるのだろうか。その事を気にせずに持ちかけてしまったのだ。
「……大丈夫。」
リンはサドに優しく声をかける。
「……リン?君には手術とか、大変なことがたくさんあるんじゃないのかい?」
「そうだね。でもそのせいで、君に会える機会ができなかったんだ。
今日だって本当は、安静にしている日なんだけど……無理してでも君に会いたかった。君に会えなくなるほどの重症になる前に……たくさんお話がしたいんだ!」
リンも、本当はサドに会いたかったのだ。だから無理してでも起きていたのだ。
「だから……私も君が来るまで頑張って待つよ!君も私のためにたくさん待ってくれたんだもん!」
サドは若干涙ぐんだ。泣いていることを悟らせないように我慢した。でも、嬉しかった。
「ありがとう……。またね。」
「うん……お休みなさい。」
サドは退室する。こうして、サドはリンとの邂逅を果たし、また新しい約束を結んだ。
したがって、邪魔がほとんどない高所から電波を発してより遠い場所へ通信を行う。これは惑星間通信においても同様である。
都市部から少々離れ、閑静で広い高所に位置するレジスタンスの大規模な研究施設。その土地の名から取って、【HFRキャンプ】と呼ばれる。
サドが所属する情報チームの第3班もここで研究している。当時の情報チームは、惑星内のネットワークを政府の電波塔に頼らずに、開通させる技術の応用に力を注いでいる。
第3班の研究内容は、“惑星外との通信”が主である。無論だが、この惑星では政府の許可無くして行うことは違法にあたる。
サドは獲得したある復号文について、疑問を抱く。スキンヘッドの男が後ろからその様子を見て、サドに説明する。
「……こいつは水星の言語だな。元々、地球で言う東ヨーロッパ圏の人が水星の所有を唱えて開拓してきた歴史がある。そこの言語から更に訛った口調をしている。べらぼうの口語だ。
おそらく学生同士の通信のやり取りだろう。とんだ無駄足だ……。
……まだまだだな!ガッハッハッハッハッ!」
「どうりで……」
「地球の暗号を解き明かしたからって、足踏みしてる暇はねぇんだ。更に先を目指さなきゃならねぇからなぁ!」
この男の名は、【アルカウス】博士。第3班の室長である。人相は悪いがかなりの博識で、高度な技術を扱える。最初に出会ったときは、少々スパルタ気味だった。
「……これから、お前には地球との通信について重点的に研究を行ってもらう。」
「!?……いきなりどうしてまた……。」
アルカウス博士は、ドヤ顔である資料をサドに手渡す。紙類であった。
「……これは……!」
「新政府のマニフェスト。新王が公示した、これからの政策の内容……【上級機密事項】だ。」
「機密事項……ですか?どうやって……」
【上級機密事項】。他の情報と異なる点として、強力な暗号で秘匿されている。更に一定の地点・端末以外での情報の公開・公示・流布等が厳禁である。これを破ると、政府から指名手配される。
「レジスタンスの諜報員が中枢から情報を持ってきてくれた。優秀な愛弟子だよ……ったく。
その一部として重要な部分を丸で示した。」
サドは読む。
「……“惑星外の科学技術の視察”……“主に惑星連合を指揮する地球の技術について参考にする”……これってまさか!」
「そう、この惑星から出られるチャンスが来たということだ。惑星外に助けを求められる、絶好の……」
「政府のネットワークはどうするんですか?それはエンダー家の所有になっているはず。
……一筋縄ではいかないかと存じます。」
「お、おう……」
サドの疑問につっかえてしまった。アルカウスは気を取り直して提案する。
「……んだったら、積極的に俺らが新王にアピールすりゃいいってだけだろ!
政府の惑星外ネットワークが使えなきゃ、こっちが造るまでだ!
つべこべ言わず、地球との通信を絶やすんじゃねぇ!絶好のチャンスを逃すな!」
「はいぃ!!」
そんなこんなで忙しい研究室であった。
_____
とりあえず、サドは時間があるときに新しい仲間の所に向かうことにした。とにかく出会えるチャンスを増やした。何度も門前払いされて折れそうになっていた。
ある真夜中の時であった。誘導灯が点く時間帯にサドは病室にやって来た。廊下は暗く閑静で、人の声はまず聞こえてこない。
サドは病室の前に来た。そこにはコーヴァスがいつものように見張っていた。ささやかな笑顔で出迎えてくれた。
「ようやく来たな……。もう来ないかと思ってたが……なかなかしぶといな。そんなに会いたかったのか?
……説明不要だな。約束さえ守ってくれたら、あとは好きなだけ振れ合ってくれ。
……サド君なら心配ないと思うけど、今の彼女の姿に驚かないなら……入れてやる。」
サドは承知して取っ手を掴み、病室に恐る恐る入った。入った瞬間、その姿が見える。
リンは子供達が来たときより、若干やせ細っていた。顔色も少し悪く、青くなっている。そして何より、目を包帯で巻いて隠していた。
「……どちら様……?」
「………。」
サドは申し訳無さで心が一杯になった。笑顔が一瞬で暗くなる。退室しようとするが、コーヴァスが止めた。
「彼女も君に会いたくて、無理してこの時間を空けてくれたんだ。それに答えてやるのは、君の役割だろう。
怖かったか?……違うよな?すごく苦しそうだって考えたなら、お前が少しでも、その苦しみを和らいでやってくれ。そうすりゃ彼女も喜んでくれるはずだ……。
……ほら。」
コーヴァスはサドの肩を押さえて、病室の方へと押していく。サドは彼女と向き合う。
「……コーヴァスさん……?何か……」
「コーヴァスさんは今、端で見ている。」
「君は?もしかして……いつもここに1人で来ていた子……?」
「僕は……【サド・キャンソン】です。あなたがここに来てから、ずっと会いたかったんですよ。」
リンは位置を把握できなかった。しかし下に向いていた顔が、正面を向いてくれた。
「私は……【リンクス・ダンリーヴィー】!
私も君をずっと待っていたんだよ!」
リンはまっすぐ壁の方を見ている。願わくばその目を失ってしまう前に、来てほしかったのだろう。サドはコーヴァスの反応と彼女の姿から、そのように感じ取った。
サドは椅子を持って、リンの近くに置いて座った。
「……私のことは、みんなリンって呼んでる。本当はもっと早めに会いたかったけど、ごめんね。治すために手術をたくさん頑張らきゃいけなくて……。」
「……早く治るといいね。手術もすごく怖いと思うけど、上手くいくようにお願いするから……。」
「……目はもうダメだけど、手術を頑張れば義眼でも見えるようになるんだって!
その時まで、お披露目はお預けだね!すごく楽しみ!」
リンは笑顔で答えてくれた。誰よりもつらい状況であるはずだが、彼女は確実に強く前向きに進んでいる。
…出会ったはいいがここから何をしたいのか、サドはまだ決めていなかった。
「私は……もっとサド君のことが知りたい!好きなもの、得意なもの……お披露目までに、色々知っておきたいんだ!」
サドはリンに自己紹介をした。
「……好きなものは、甘いもの。特にチュロスが好きです。」
「チュロス……って?」
「ドーナツを少し硬くしたような感じの。都会でよく売られているんだ。」
「へぇ、初めて知った!」
「得意なものは……何だろう……。」
サドは深く考えた。サド自身は本職こそ科学者だが、他にもエンジニアとしても、パイロットとしても頑張っている。どれもレジスタンスとして特別、秀でるものでもない。
「……得意なものは無いよ。」
「そっか……。」
サドは答えた。そして問う。
「リンは何か興味あるものとか、病気が治ったらやりたいこととかないかい?」
リンは笑顔でこちら…に少し届かないが大体こちらを向いて笑顔で話した。
「……地球旅行がしたい!はじまりの人間も、ロボットの新技術も、みんな地球からやってくるってパパが言っていた。
私も行ってみたい!本当はパパと一緒に行けたらって考えたんだけど……パパの分も楽しむ!」
「……地球……旅行……。」
リンは答えた。サドはその答えに対して、少し止まった。
(……地球……新王が提示した視察先もそこだったはず。地球と通信できるなら……いちかばちか、やってみてもいいかもしれない。)
サドは一つ提案した。
「……リン。一足先に、地球の人達と連絡を取り合ってみないかい?」
「地球の人達と……連絡?」
「そう。レジスタンスの惑星ネットワークを経由して、地球からランダムに選んだ人とメールのやり取りをするんだ。
お試しでできるよ。地球は【惑星連合】の総本山だから、真っ先に研究したんだ。……どうかな?」
サドは自分達の研究を腐らせないために、“お試し”という名目で実証実験を持ちかける。初対面で頼むことではない。自信なさげだった。
「……何それ……すごく面白そう!」
リンは興味を惹かれたようだ。
「やってみる?」
「やるやる!地球人はどんな人達なんだろう……優しいのかなぁ!」
「……それは返信来るまでのお楽しみ。まずはメールで書きたいことについて、リンのセリフのままに僕が書くよ。それを相手に送信するんだ。」
「ありがとう!助かるよ!」
サドは試作である惑星ネットワークを“オン”にする。この時点でサドの端末が今いるこの星は勿論、他の星とインターネットを介して繋がっている。
その中で、地球のチャネルに指定して、メールの設定を完了する。
「んじゃあ……始めるよ。いつでもOKさ。」
リンはそのメールに、自分が興味を持っていること、自分がやりたいこと、自分が乗り越えるべきことを綴ってもらった。
(このメールが、地球の人達に届けられる。僕はリンが伝えたいことを、そのままに書く。僕の感情は後回しだ。……それでも、)
「一応、初めてのメールだからリンの事情について軽く、一緒のメールに書いておくね。」
サドは諸事情を付け加えてから、不特定多数に向けてメールを送る。向こう側からしてみれば、“スパムメール”に当たる迷惑でしかないものだろう。
だが地球人へのメッセージとして、まだ見ぬ人達に対して、サドにはそれ以外の連絡手段を持ち得なかった。
「……後は次会うときまでの……」
サドは台詞を急に止めてしまった。
「どうかしたの?」
「次……いつになるんだろ……」
何度も来て初めて、念願の対面を果たしたまでは良かった。しかし、これからはいつ会えるのだろうか。また会うのに、どれだけの日数がかかるのだろうか。その事を気にせずに持ちかけてしまったのだ。
「……大丈夫。」
リンはサドに優しく声をかける。
「……リン?君には手術とか、大変なことがたくさんあるんじゃないのかい?」
「そうだね。でもそのせいで、君に会える機会ができなかったんだ。
今日だって本当は、安静にしている日なんだけど……無理してでも君に会いたかった。君に会えなくなるほどの重症になる前に……たくさんお話がしたいんだ!」
リンも、本当はサドに会いたかったのだ。だから無理してでも起きていたのだ。
「だから……私も君が来るまで頑張って待つよ!君も私のためにたくさん待ってくれたんだもん!」
サドは若干涙ぐんだ。泣いていることを悟らせないように我慢した。でも、嬉しかった。
「ありがとう……。またね。」
「うん……お休みなさい。」
サドは退室する。こうして、サドはリンとの邂逅を果たし、また新しい約束を結んだ。
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