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Chapter_2:コーズ&エフェクト

Note_38

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 ローライトを点けて水中を探索する。早速分かれ道になっているが、右のトンネルは通行止めの標識がある。よって左側のトンネルを使う。

 暗闇の中、所々切れているLED電灯を頼りに一本道を進む。ハンドルを握らずとも自然と前に動く。周囲の壁が機体の移動を補助している。

 長い一本道、暗闇の中だが何もない。魚もいなければ他の機体もいない。まっすぐ向かう。

 ようやく正面から光が見えてくる。出口までもうすぐのようだ。


「そろそろ、【アクアトンネル】が見えてくるはずだよ!」

「いよいよか……。」


 レオは期待を膨らませていた。ライラは明確には見ておらず、同様に期待を寄せていた。

 そして、機体は暗闇を抜ける…。





…光の先は、LED電灯で照らされた貯水が、青空の色を輝かせる。透き通る水、生態系の無い自分達だけの美しく広大な空間。まるで“楽園”のようであった。


「わぁ……綺麗……。」

「これは……すごいな。」

「アクアトンネルは……左上にあるね。」


 一直線に伸びる透明な管が見える。本来はその経路が普通である。

 しかし、ものすごい長さだ。サドは電池がちゃんと満たされているか心配する。ちゃんと充電されていて安心した。


「サド、腹減った。」

「待って。軽食をそっちにやるから。」


 サドがチュロスを取り、袋を後ろに渡す。


「はい。」

「さんきゅ。」

「ありがとう!サド君!」

「どういたしまして。」


 サドは気楽に対応する。レオも同様のチュロスを取り出す。ライラはパンを取る。

 パンを口にする前に、ライラは姉弟に対して微笑みつつ尋ねる。


「……好きな物まで一緒なの?」

「べ、別にいいだろ!そんなの……」
「か、被ることだってありますから!」

「ふ~ん。」


 ライラはニヤける。レオは言う。


「ていうかそれ、私のために買った奴だと思ってたんだけど……。」

「残ったら僕が食いたい分だから。パンならもう1つ買ってたはずだけど……。」

「お前だけ独り占めしようとしてたのか!?」

「そっちも独り占めしようとしたじゃん!」

「プックククク……」


 ライラは笑いを抑える。レオは言う。


「……何笑ってんの?」

「いや……仲良しかな~って……。“ケンカするほど仲が良い”ってよく言うじゃない。」

「「………。///」」


 唐突にお通夜みたいにどちらも話さなくなった。特にライラから顔を2人とも背ける。


「あれ……あれ?レオさ~ん?サドく~ん?もしかして図星ですか~?」

「……少し黙ってろ!」

「恥ずかしいです。」


 2人から拒否された。マークⅢが話題を振る。


『まあ……はい。一緒に話しません?』

「あっ、はい!」

『サド君のシャワー事情につい……』

「もっと話すことあるでしょ!?」

「はだけると服が消えるから……」

「言うな!」


 4人で話を楽しんだ。表よりも電灯と反射光で明るい分、会話がよく弾む。


_____


 【ファーストステップ】駐機場にて、見張りの男性兵士2人が巡回していた。


「ふぅ……いや、大変なことになりましたね。まさか脱走した人を捕まえなくとも、もう1人以上逃してもクビですから。」

「安月給だし、パワハラばっかで、辞めたくなりますよ。女ったらしの上司も……何であいつだけ男なのに許されるんですかね。」

「何でだろ……そりゃ気になるな。

でもまあ、平和な場所にいるだけいいじゃないか。前線に駆られるよりかはマシだろ。」


 綺麗な水場を見つめて、せめて心を癒やす。1人が水中からの気配を察した。


「……あれ?人来るっすね。」

「作業終わりだろうな。」


 2人は機体の帰還に際して、誘導の準備をする。水面から機体が上がってきた。

 機体の番号“28”。明らかにこちら側の機体ではなかった。その機体が2人に近づく。


「止まれ!止まるんだ!」

「畜生……何で戦いに巻き込まれなきゃなんねぇんだよ!」


 天井から複数の小型機を呼び寄せる。姉弟だけが機体から降りる。


「……通してもらう。」


 レオは剣を構え、小型機を分離させる。

 敵の小型機は豆のような小さな弾丸を撃つ。連射力があり、毒のように相手を徐々に追い詰めるものだ。

 そして敵兵の武装は、AI画像による補正付きの実弾ライフル。今の敵編成の中で一番火力がある武装である。

 早速、自慢の武器でサドを狙おうとした。しかしそこにサドの姿は無く、狙いをつけられない。1発撃っても当たるはずもない。

 サドはビームソードで斬り刻もうとする。


「ひぃぃぃっっっ!!」


 しかし直前にエネルギーが切れてしまった。敵が怯む一瞬を狙い、持ち手で殴打して倒す。

 対してレオは豪快に敵を吹き飛ばす。その隙を狙おうとした小型機を先に撃ち抜く。

 残るは上に逃げる小型機だけ。なかなかすばしっこく、光線銃で1つずつはしんどい。

 小型機の増援が来る。


「キリが無いな……サド、何とかできるか?」

「……マークⅢ!力を貸して!」


 サドは微小なハニカム板に包まれる。双四角錐に包まれ、【P-botピーボット_mk.Ⅲ】が中から現れる。

 マークⅢのやることは、敵機を【プラズマネットワーク】に繋げ、負荷を上げて小型機の電源を落とす。

 奥のカメラ、更に奥の制御室、乗ってきた機体さえも、その餌食となる。



 マークⅢの仕事はひとまず終わり、サドの体に差し戻す。敵の気配は無い。


「もう、大丈夫ですよ!」


 機体の中で隠れていたライラが、周囲を見渡してから降りようとする。サドが機体に近づき、ライラの降車を手伝う。


「ありがとう。」

「さてと、ここからは……」

「……レオに任せる。そういう話さ。向こうの扉にある階段を上がっていけば、そのまま【ファーストステップ】に行けるよ。」

「分かった。」


 レオ達は扉の前まで歩く。そして階段を登っていく。


_____


 今度はレオが先頭に立って扉を開ける。下町とは一転して、床や街並みからすごく綺麗で厳かなものであった。

 街と呼ぶには静かで、住宅街のようなものだ。飛行する小型機の監視や、兵士の巡回が厄介である。

 しかしサドの調べの通り、放射環状の通路で目指すべき場所が分かりやすい。【第1中央塔】まで目指す。



 機体の監視を潜り抜けつつ、静かに歩く。時には兵士が張り込んでいることもあり、裏道を使いつつレオ達は塔へと進む。

 兵士の前でライラがけてバレそうになったものの、サドがすぐに反応して逃げる。遠回りだったが、なんとか安全に進むことができた。



 レオ達は塔へと入る。庭園に人の気配は無い。百合の花園には目もくれず、塔の入り口へと入っていく。ここぞとばかりに、兵士が5人待ち構えていた。


「こりゃ……簡単には通してもらえないな。」

「ちょっと待って、私は戦わないから……」


 兵士が回り込んで、ライラの腕を掴む。


「……逃がすと思うか?」

「離して!」


 ライラが強引に引き剥がし、サドがすぐにライラの近くで守る。


「サド君……。」

「そうだな……例の機体を持って来い!」


 奥からあの機体がやって来る。潜水救助機体【エギル・サーヴァント】が直々に電磁砲を担いでやってくる。


「あれは……ライラさん!」


 サドの注意が機体に向く。そしてライラに光線銃を渡した。


「……えっ?」

「そっちまで手が回らないかも!」

「自分で決めて、こんなところに戻って来たんだ……戦うぐらいの覚悟は持ってんだろ?」

「はぁ!?」

「敵が来たらトリガーを押して撃つんだ!」


 ライラは唐突に、戦闘に参加することになった。突然のことでライラは戸惑う。


「……ええええええええッッッ!!?!?」


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