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Chapter_2:コーズ&エフェクト
Note_39
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白い花園を背にして、敵に挑む。【フェニコプテラス】の【第1中央塔】にて、姉弟は敵兵と真っ向から戦う。
後ろにライラが光線銃1つだけ渡されて、困惑していた。
「えっ、これ……どうすれば……。」
「ライラさん!」
「無理ならこっちに来い!」
「わわ、分かったわよ!」
ライラは急いで走る。敵は銃を使わずに、素手で捕まえようする。その手を振り払って先へ進もうとする。
「……なっ!」
「そんな!ありえない!」
女性の声が聞こえてくる。どうやら兵士は女性だけで組まれているようだ。
レオは機体を守る兵士達を振り払って、まっすぐ機体へ斬りかかる。強化ガラスに罅が入った。
『うわおっ!びくった!』
「大丈夫か!?」
『大丈夫かじゃないでしょ!ダメージ受けちゃってさ……何で守ってくれないのよ!』
機体から怒号が飛んでくる。心配していた兵士は構わず、ライラの背中から髪ごと襟を掴む。
「やめてっ!」
「あのピンクどもが悪いやつなんだって!」
「ふざけないで!」
ライラは腕を掴んで離そうとするが、兵士は銃を突きつけてきた。
「受け入れねぇと撃つぞ。」
「………!」
ライラは銃口を見るやいなや、目を瞑って光線銃でとにかく撃った。5発撃ち込み、敵の右肩に命中して、手放してしまう。
「うおおっ!?いきなりやりやがって……」
「は……ああっ……」
(あ……終わった……。)
ライラは恐怖で足が竦み震える。怯える彼女に逆上して、銃を向けて頭部を撃ち抜こうとした。
「伏せて!」
「キャアッ!」
サドがビームソードで横に斬る。ライラは伏せて避けるが敵兵は防御を崩される。光剣は揺らいで消えていく。
ライラと敵の距離を離す。ライラの背中を押してすぐに奥へと進む。光剣のバッテリーを持ち手の頭を開けて、予備の物と取り替える。
後ろから実弾が飛んでくる。こちらは実質無防備のようなもので、サドがライラの体を動かしたり庇ったりして、うまく当てないようにする。
「レオ!」
「後ろに来い!」
『充電完了!』
敵の武装、【電磁砲】の充電が完了した。生身の人間が喰らえばひとたまりもない。
『あ~、前見えないや。とりあえず撃つね♪』
「おい!せめて操縦席を開けてから、狙って撃てよ!」
『痛いの怖いもん。それじゃ……発射♡』
トリガーを引く。エネルギーが銃口に集約される。
2人がレオの後ろにたどり着き、レオが小型機を剣に戻す。レオは合体剣を横に立てた。
他の兵士に、打つ手は無かった。
「……馬鹿野郎ォォォォォッッッ!!!」
一発がフロントの空間を貫く。幸い全員が直撃を免れたものの、突風が襲いかかる。それに兵士達は吹き飛ばされていく。
花園にまで風は届く。白い花弁が宙に舞い、街の方へと飛んでいく。
「どうなったかなぁ……」
機体の中からは確認できない。早速コクピットを開けて正面を見る。少し右寄りに、レオが三角状の防壁【デルタシールド】を張る。風圧から2人を守り抜いた。
パイロットはコクピットを閉ざして、動かそうとした。レオは走って機体に剣をぶっ刺す。
『キャッ!もう……ヤバ』
機体の弱点を突き、周囲が黒く広がって煙が上がる。すぐにコクピットを開けて、慌てて逃げていく。
レオも退避する。バッテリーが燃え広がり、爆発して機体が燃え上がった。
レオは合体剣を腰に戻す。
「上に行くぞ。」
「横にエレベーターがある!」
「みんなは35階にいるはずよ。」
エレベーターを使って上階を目指す。敵がいないか、監視カメラが無いか、あったのでレオが光線銃で壊す。
このエレベーターでは23階までしか行けない。23階で降りて通路を探す。物音も気配も無く、まるでオフィスの通路の様に暗い。
敵に悟られないように静かに歩く。明るい場所へ足を運ぶ。
向かった先は、オープンスペースのオフィスで兵士が巡回している。小型機も周囲に浮かんでいるようだ。
(どうす……ってレオ!)
サドに構わず、レオは先へと向かう。先手必勝、敵を後ろから合体剣で振り払う。そして小型機のアラートが鳴る前に、剣で斬り上げて破壊する。
「先を急ぐ。」
「……しばらく敵はいない。1つ上の階にまたエレベーターがある。階段を探そう。」
「マークⅢだな?助かる。」
先へ進む。奥に階段がある。
上へと向かった先に、エレベーターの入り口があった。前を見張る兵士が警告する。
「テメェら……よくも下の奴らを嬲ってくれたな!おまけに、ボレアリス様が育てられた百合の花園も散らしやがって!」
「そっちの電磁砲が勝手にやったことだろ。花も女も巻き添えに……身の丈に合わねぇ兵器持つからこうなる。」
「んだと?ガキが……テメェにはその尊さが分かんねぇようだな。まあそっちのクソオス眼鏡を連れてんなら、それもそうだろうよ。」
エレベーターから増援が来た。
「ロキ様が望まれた“楽園”は、他の偽りの街を凌ぐほどの素晴らしき理想郷。女性同士の愛は、美しく愛らしく、下心無き純然たる愛情に等しい。
すべての戦争を止め、世界平和を成し遂げられる唯一無二の手段なのだ!この世の邪悪である野郎共など論外……滅殺に値する!
……なのにだ。絶対的に正しい選択肢さえ選ばぬ愚か者がいたものだ。“楽園”の邪魔をするものは抹消するのみ。いや、まだその存在を知らないだけで未熟なのか……。アルゴ様の“楽園”こそ至高の境地。そこに連れさえすれば……。」
「……その野郎共を犠牲にできりゃ……平和が訪れるのか?」
レオが問う。そもそも抹消の対象であるサドに、その話に踏み入る資格など無い。
引け目を感じる彼に、寛大なる心を持つリーダーが有情を持って優しく答える。
「その通り、まあ仕方ないことだ。人類が至福を追い求めることに、多少の犠牲は出て当然のこと。これは周知の事実だ。
だが……」
敵兵は一斉に銃を構える。
「……絶対正しい正解を、間違えるような愚か者どもに!
……明日はやって来ない。」
レオはその答えに、ある女性の面影が脳裏によぎる。彼女はレオを優しく、姉のように見守ってくれていた。
政府は彼女を犠牲にしてでも、何かを成し遂げようとしていた。今の敵兵も同じである。
『戦争なんか…そうそう上手く行かないわよ!今、生きているのは本当に…奇跡なのよ…』
誰かの泣き声がレオにだけ届き、彼女の心を響かせた。レオは合体剣を前に構える。
「……だから嫌いなんだよ。お前ら政府のやる事なす事すべて!」
「何?」
「他人の犠牲を前提に平和な世界を作る、正義の味方面して堂々と私の前にいる。
そこで、更にその犠牲を“絶対正しい”と決めつけて、お前らは無理やり押し通したんだ。特に……人の弱みを容赦なく利用してな!」
「フッ……テメェにその女性の本心が分かるわけねぇだろ?エスパーなわけでもあるまい……。」
ライラは兵士の発言に怒りをぶつける。
「この人達は私を助けてくれたんだ!話していないわけじゃない!
私は……私の本心をすべて言葉にしてみんなに言ったもん!聞いてくれただけでも良かったのに、助けるために本気でやろうとして……本当に嬉しかった!
あなた達は偉そうに威張っているけど、私達の話を少しでも聞いた憶えは無かった!」
ライラは光線銃の口を相手に向ける。
「あなたに私達の“本心”が分かるって、この場面でまだほざくつもりなの!?」
「……ッ!」
兵士は答えられない。レオは集中して、更に畳み掛けていく。
「……答え合わせだ。ライラは“家に帰りたい”だけなんだ。それだけを、何度も何度も口にして伝えたんだ。
お前らは、その真逆の事をした。この星に誘拐して私物にしようとしている。それで一度でも、至福とは程遠い感情を持たなかったか?」
「少なくとも笑顔は……」
「一度でも怖がったり涙を見せたり、しなかったかって言ってんだろ!」
兵士は口を噤み、レオを見つめている。レオは決して許さない。
「……させただろうな。お前らの事だ。連れ去った人達の友人の事も考えずに、無理やり過ごさせようとしたんだろ。
その友人だって、連れ去られた人と仲良くやっていたんだ。それを記憶ごと、すべて消されるんだ。絶対に止めてやる。
そっちの独り善がりな理想で……
身内も……
友達も……
仲間も……
……消されるわけにはいかねぇんだよ。」
左腕で、剣を前に差し向ける。敵のリーダーは何かが壊れたように、静かに怒りを露呈させていた。
「……ふざけんなよ、ガキ共が……“楽園”を否定する奴は、女じゃねぇんだよ!
お前ら!こいつらは“楽園”の邪魔をするゴミクズ共だ……除去して正してやれ!!!」
敵は早速、発砲してきた。未成年相手に容赦ないが暴力で襲う相手に黙って撃たれるほど、彼らは利口ではない。
レオは【デルタシールド】を発動して、2人を守り抜く。小型機と分離して、シールドを前に進めて一気に近づく。
前に進み、サドはビームソードを構える。光剣を発動させて、雑多な敵を斬りつけていく。
レオは小型機をライラの近くに浮かせて、シールドを譲る。そして、剣で横に思いっ切り薙ぎ払った。
ライラはシールドに隠れつつ、しっかりと狙いを定めて光線銃を撃ち込む。迷いが吹っ切れて、臆することなく光線銃を撃っていく。撃てないときは隠れる。
ライラには既に、戦闘に必要な分の余裕が生まれていた。
(マークⅢさん……サド君……レオさん……
……みんなに会えて……良かった!)
敵を完膚無きまでに圧倒した。もう起き上がる敵はいない。3人は、エレベーターの中に一緒に入る。
目標の35階に行ける。そこに向かう。レオは一応、【デルタシールド】を張って身を守る。
…エレベーターの中で唯一、サドだけが思い詰めていた。レオが表情を伺って、話しかける。
「どうかしたか?」
「ごめん。あいつに何も言えなかった。本当は沢山言いたいことがあったけど……」
「聞きゃいいじゃねぇか……って言いたいところだけど、あんたじゃ無理だな。話したところで撃たれてる。」
レオは少し肩の力を抜く。
「……それにさっきのは、こっち側で片付けなきゃいけない問題だ。どうしても、負けるわけにはいかなかった。」
『レオさんの……問題?』
「そうだな。」
レオはため息をついて再び思い出す。あの女性の言っていたことが蘇る。
(そりゃ戦争なんか、簡単に丸く収まるわけねぇよな。どんなに理想が先走っても、犠牲が出た時点で至高とは程遠い。自分のやることがノーリスクだなんて、都合のいい話は無い。
今回の様に、絶対に他のところで皺寄せしているんだ。)
『250m地点、35階です。』
扉が開いた。その先には誰もいない。シールドを解除して剣を腰に戻す。
(それに、私はどうしても……あの時の戦いが正しいとは思えねぇよ。政府の犠牲になんかなって……何が幸福だ。馬鹿らしい。)
暗い通路を歩く。目の前には【特級展望台】と書かれていた、VIP待遇並の部屋がある。しかしこちら側にサムターンがあるため、監禁・拘束が目的の部屋とも捉えられる。
レオはサムターンを回して、堂々と扉を開ける。そこにはライラの言う通りに、多くの女性達が待ちわびていた。
ライラが入ると、空気が一瞬にして変わる。女性達は、笑顔で迎えてくれた。
「……ライラさん……どうして、ここに……」
「ライラ姉ちゃん!」
「みんな……無事だった?」
「うん!」
一番幼い少女がライラに近寄ってきた。ライラは高く抱え上げて、少女を喜ばせた。
奥から年長らしき女性がライラに事情を尋ねてきた。とても優しい口調で聞く。
「ライラさん……一体どうしてここに戻ってこられたのですか?ここは危険だから、逃げるなら1人でって言ったはずなのに……。」
「ごめんなさい。でも、同じ地球から攫われたみんなを助けたかったの。数年間もお世話になったし、私だけ逃げるのは辛いから!」
ライラは笑顔で答えて少女を降ろす。年長の女性が姉弟を見つめる。
「あなた達が……それもあなたは男の子……」
「男の子~?久しぶりに見た!」
「……サドと申します。人造人間で、本物の男の子ではありません。」
「な~んだ。人造人間かぁ。」
『私もいますよ!』
「「「「「!?」」」」」
突然の少女の声に、女性達がどよめく。マークⅢが女性達と更に交流する。
『さあ、私はどこにいるでしょうか!』
「えっ?え?」
「これって、どういう……」
「どこかに機械があるのかな……」
「……わかった!サド君でしょ!サド君の中に何かいるかも!」
『……ファイナルアンサー?』
「は!?口も動かしていないのに!?」
少女は強い視線でサドを見て頷く。サドは目もくれず、まるで部屋の様子を確認するように辺りを見回している。
『……………正解!お見事!』
「へへ~ん!」
「ええっ!?」
「マジ!?人造人間に2つもプログラムを持っているの!?」
マークⅢは解説をする。
『ご存知の通り、サド君の中にいます。しかし私がこの体の主、マークⅢです!
彼の心をそのままにコピーして、共に助けつつ歩んでいるのです!』
「ええっ!?」
「つまり、君は……」
「ぷにぷにしてるしやわらかい。」
「痛いから……」
「痛みとかあんの……?」
少女に脛の皮を引っ張られる。サドの反応に他の女性も謎解き感覚で問い詰めていく。サドはレオに助けを求め、そちらに視線を向けた。
その間にレオは年長と話す。
「レオだ。サドの姉。」
「あなたが……おそらくリーダーですね。雰囲気で分かります。私は、【テリーサ・キャンベル】と申す者です。この度はライラさんを守ってくださり、感謝の気持ちでいっぱいです。」
「まあ大丈夫だ。どちらにせよ、私らもここに用があるからな。」
「用とは……?」
「サド!」
レオがサドを呼び寄せる。
「何すればいい?写真?」
「そうだ。大体怪しい場所は写真で撮っておいてくれ。それと最後に集合写真を撮る。被害者の痕跡も残しておくんだ。」
「りょ。」
タブレットを持ち、カメラを起動する。ここからが本番である。データを持って下町に戻り、ライラ達のような地球の人達を守るレジスタンスを興す。
レオはサドに仕事を任せ、窓から街の景色を眺める。手前の綺麗な白と、奥で賑わう白銀が彩る。壁の先がよく見える。空と砂漠の境界線が見えていた。
見たこともない場所に連れ去られ、脱出しても無謀なことと思い知らされる景色だ。諦めるのも無理はないが、それでも逃げるライラに、レオは静かに感銘を受けていた。
後ろにライラが光線銃1つだけ渡されて、困惑していた。
「えっ、これ……どうすれば……。」
「ライラさん!」
「無理ならこっちに来い!」
「わわ、分かったわよ!」
ライラは急いで走る。敵は銃を使わずに、素手で捕まえようする。その手を振り払って先へ進もうとする。
「……なっ!」
「そんな!ありえない!」
女性の声が聞こえてくる。どうやら兵士は女性だけで組まれているようだ。
レオは機体を守る兵士達を振り払って、まっすぐ機体へ斬りかかる。強化ガラスに罅が入った。
『うわおっ!びくった!』
「大丈夫か!?」
『大丈夫かじゃないでしょ!ダメージ受けちゃってさ……何で守ってくれないのよ!』
機体から怒号が飛んでくる。心配していた兵士は構わず、ライラの背中から髪ごと襟を掴む。
「やめてっ!」
「あのピンクどもが悪いやつなんだって!」
「ふざけないで!」
ライラは腕を掴んで離そうとするが、兵士は銃を突きつけてきた。
「受け入れねぇと撃つぞ。」
「………!」
ライラは銃口を見るやいなや、目を瞑って光線銃でとにかく撃った。5発撃ち込み、敵の右肩に命中して、手放してしまう。
「うおおっ!?いきなりやりやがって……」
「は……ああっ……」
(あ……終わった……。)
ライラは恐怖で足が竦み震える。怯える彼女に逆上して、銃を向けて頭部を撃ち抜こうとした。
「伏せて!」
「キャアッ!」
サドがビームソードで横に斬る。ライラは伏せて避けるが敵兵は防御を崩される。光剣は揺らいで消えていく。
ライラと敵の距離を離す。ライラの背中を押してすぐに奥へと進む。光剣のバッテリーを持ち手の頭を開けて、予備の物と取り替える。
後ろから実弾が飛んでくる。こちらは実質無防備のようなもので、サドがライラの体を動かしたり庇ったりして、うまく当てないようにする。
「レオ!」
「後ろに来い!」
『充電完了!』
敵の武装、【電磁砲】の充電が完了した。生身の人間が喰らえばひとたまりもない。
『あ~、前見えないや。とりあえず撃つね♪』
「おい!せめて操縦席を開けてから、狙って撃てよ!」
『痛いの怖いもん。それじゃ……発射♡』
トリガーを引く。エネルギーが銃口に集約される。
2人がレオの後ろにたどり着き、レオが小型機を剣に戻す。レオは合体剣を横に立てた。
他の兵士に、打つ手は無かった。
「……馬鹿野郎ォォォォォッッッ!!!」
一発がフロントの空間を貫く。幸い全員が直撃を免れたものの、突風が襲いかかる。それに兵士達は吹き飛ばされていく。
花園にまで風は届く。白い花弁が宙に舞い、街の方へと飛んでいく。
「どうなったかなぁ……」
機体の中からは確認できない。早速コクピットを開けて正面を見る。少し右寄りに、レオが三角状の防壁【デルタシールド】を張る。風圧から2人を守り抜いた。
パイロットはコクピットを閉ざして、動かそうとした。レオは走って機体に剣をぶっ刺す。
『キャッ!もう……ヤバ』
機体の弱点を突き、周囲が黒く広がって煙が上がる。すぐにコクピットを開けて、慌てて逃げていく。
レオも退避する。バッテリーが燃え広がり、爆発して機体が燃え上がった。
レオは合体剣を腰に戻す。
「上に行くぞ。」
「横にエレベーターがある!」
「みんなは35階にいるはずよ。」
エレベーターを使って上階を目指す。敵がいないか、監視カメラが無いか、あったのでレオが光線銃で壊す。
このエレベーターでは23階までしか行けない。23階で降りて通路を探す。物音も気配も無く、まるでオフィスの通路の様に暗い。
敵に悟られないように静かに歩く。明るい場所へ足を運ぶ。
向かった先は、オープンスペースのオフィスで兵士が巡回している。小型機も周囲に浮かんでいるようだ。
(どうす……ってレオ!)
サドに構わず、レオは先へと向かう。先手必勝、敵を後ろから合体剣で振り払う。そして小型機のアラートが鳴る前に、剣で斬り上げて破壊する。
「先を急ぐ。」
「……しばらく敵はいない。1つ上の階にまたエレベーターがある。階段を探そう。」
「マークⅢだな?助かる。」
先へ進む。奥に階段がある。
上へと向かった先に、エレベーターの入り口があった。前を見張る兵士が警告する。
「テメェら……よくも下の奴らを嬲ってくれたな!おまけに、ボレアリス様が育てられた百合の花園も散らしやがって!」
「そっちの電磁砲が勝手にやったことだろ。花も女も巻き添えに……身の丈に合わねぇ兵器持つからこうなる。」
「んだと?ガキが……テメェにはその尊さが分かんねぇようだな。まあそっちのクソオス眼鏡を連れてんなら、それもそうだろうよ。」
エレベーターから増援が来た。
「ロキ様が望まれた“楽園”は、他の偽りの街を凌ぐほどの素晴らしき理想郷。女性同士の愛は、美しく愛らしく、下心無き純然たる愛情に等しい。
すべての戦争を止め、世界平和を成し遂げられる唯一無二の手段なのだ!この世の邪悪である野郎共など論外……滅殺に値する!
……なのにだ。絶対的に正しい選択肢さえ選ばぬ愚か者がいたものだ。“楽園”の邪魔をするものは抹消するのみ。いや、まだその存在を知らないだけで未熟なのか……。アルゴ様の“楽園”こそ至高の境地。そこに連れさえすれば……。」
「……その野郎共を犠牲にできりゃ……平和が訪れるのか?」
レオが問う。そもそも抹消の対象であるサドに、その話に踏み入る資格など無い。
引け目を感じる彼に、寛大なる心を持つリーダーが有情を持って優しく答える。
「その通り、まあ仕方ないことだ。人類が至福を追い求めることに、多少の犠牲は出て当然のこと。これは周知の事実だ。
だが……」
敵兵は一斉に銃を構える。
「……絶対正しい正解を、間違えるような愚か者どもに!
……明日はやって来ない。」
レオはその答えに、ある女性の面影が脳裏によぎる。彼女はレオを優しく、姉のように見守ってくれていた。
政府は彼女を犠牲にしてでも、何かを成し遂げようとしていた。今の敵兵も同じである。
『戦争なんか…そうそう上手く行かないわよ!今、生きているのは本当に…奇跡なのよ…』
誰かの泣き声がレオにだけ届き、彼女の心を響かせた。レオは合体剣を前に構える。
「……だから嫌いなんだよ。お前ら政府のやる事なす事すべて!」
「何?」
「他人の犠牲を前提に平和な世界を作る、正義の味方面して堂々と私の前にいる。
そこで、更にその犠牲を“絶対正しい”と決めつけて、お前らは無理やり押し通したんだ。特に……人の弱みを容赦なく利用してな!」
「フッ……テメェにその女性の本心が分かるわけねぇだろ?エスパーなわけでもあるまい……。」
ライラは兵士の発言に怒りをぶつける。
「この人達は私を助けてくれたんだ!話していないわけじゃない!
私は……私の本心をすべて言葉にしてみんなに言ったもん!聞いてくれただけでも良かったのに、助けるために本気でやろうとして……本当に嬉しかった!
あなた達は偉そうに威張っているけど、私達の話を少しでも聞いた憶えは無かった!」
ライラは光線銃の口を相手に向ける。
「あなたに私達の“本心”が分かるって、この場面でまだほざくつもりなの!?」
「……ッ!」
兵士は答えられない。レオは集中して、更に畳み掛けていく。
「……答え合わせだ。ライラは“家に帰りたい”だけなんだ。それだけを、何度も何度も口にして伝えたんだ。
お前らは、その真逆の事をした。この星に誘拐して私物にしようとしている。それで一度でも、至福とは程遠い感情を持たなかったか?」
「少なくとも笑顔は……」
「一度でも怖がったり涙を見せたり、しなかったかって言ってんだろ!」
兵士は口を噤み、レオを見つめている。レオは決して許さない。
「……させただろうな。お前らの事だ。連れ去った人達の友人の事も考えずに、無理やり過ごさせようとしたんだろ。
その友人だって、連れ去られた人と仲良くやっていたんだ。それを記憶ごと、すべて消されるんだ。絶対に止めてやる。
そっちの独り善がりな理想で……
身内も……
友達も……
仲間も……
……消されるわけにはいかねぇんだよ。」
左腕で、剣を前に差し向ける。敵のリーダーは何かが壊れたように、静かに怒りを露呈させていた。
「……ふざけんなよ、ガキ共が……“楽園”を否定する奴は、女じゃねぇんだよ!
お前ら!こいつらは“楽園”の邪魔をするゴミクズ共だ……除去して正してやれ!!!」
敵は早速、発砲してきた。未成年相手に容赦ないが暴力で襲う相手に黙って撃たれるほど、彼らは利口ではない。
レオは【デルタシールド】を発動して、2人を守り抜く。小型機と分離して、シールドを前に進めて一気に近づく。
前に進み、サドはビームソードを構える。光剣を発動させて、雑多な敵を斬りつけていく。
レオは小型機をライラの近くに浮かせて、シールドを譲る。そして、剣で横に思いっ切り薙ぎ払った。
ライラはシールドに隠れつつ、しっかりと狙いを定めて光線銃を撃ち込む。迷いが吹っ切れて、臆することなく光線銃を撃っていく。撃てないときは隠れる。
ライラには既に、戦闘に必要な分の余裕が生まれていた。
(マークⅢさん……サド君……レオさん……
……みんなに会えて……良かった!)
敵を完膚無きまでに圧倒した。もう起き上がる敵はいない。3人は、エレベーターの中に一緒に入る。
目標の35階に行ける。そこに向かう。レオは一応、【デルタシールド】を張って身を守る。
…エレベーターの中で唯一、サドだけが思い詰めていた。レオが表情を伺って、話しかける。
「どうかしたか?」
「ごめん。あいつに何も言えなかった。本当は沢山言いたいことがあったけど……」
「聞きゃいいじゃねぇか……って言いたいところだけど、あんたじゃ無理だな。話したところで撃たれてる。」
レオは少し肩の力を抜く。
「……それにさっきのは、こっち側で片付けなきゃいけない問題だ。どうしても、負けるわけにはいかなかった。」
『レオさんの……問題?』
「そうだな。」
レオはため息をついて再び思い出す。あの女性の言っていたことが蘇る。
(そりゃ戦争なんか、簡単に丸く収まるわけねぇよな。どんなに理想が先走っても、犠牲が出た時点で至高とは程遠い。自分のやることがノーリスクだなんて、都合のいい話は無い。
今回の様に、絶対に他のところで皺寄せしているんだ。)
『250m地点、35階です。』
扉が開いた。その先には誰もいない。シールドを解除して剣を腰に戻す。
(それに、私はどうしても……あの時の戦いが正しいとは思えねぇよ。政府の犠牲になんかなって……何が幸福だ。馬鹿らしい。)
暗い通路を歩く。目の前には【特級展望台】と書かれていた、VIP待遇並の部屋がある。しかしこちら側にサムターンがあるため、監禁・拘束が目的の部屋とも捉えられる。
レオはサムターンを回して、堂々と扉を開ける。そこにはライラの言う通りに、多くの女性達が待ちわびていた。
ライラが入ると、空気が一瞬にして変わる。女性達は、笑顔で迎えてくれた。
「……ライラさん……どうして、ここに……」
「ライラ姉ちゃん!」
「みんな……無事だった?」
「うん!」
一番幼い少女がライラに近寄ってきた。ライラは高く抱え上げて、少女を喜ばせた。
奥から年長らしき女性がライラに事情を尋ねてきた。とても優しい口調で聞く。
「ライラさん……一体どうしてここに戻ってこられたのですか?ここは危険だから、逃げるなら1人でって言ったはずなのに……。」
「ごめんなさい。でも、同じ地球から攫われたみんなを助けたかったの。数年間もお世話になったし、私だけ逃げるのは辛いから!」
ライラは笑顔で答えて少女を降ろす。年長の女性が姉弟を見つめる。
「あなた達が……それもあなたは男の子……」
「男の子~?久しぶりに見た!」
「……サドと申します。人造人間で、本物の男の子ではありません。」
「な~んだ。人造人間かぁ。」
『私もいますよ!』
「「「「「!?」」」」」
突然の少女の声に、女性達がどよめく。マークⅢが女性達と更に交流する。
『さあ、私はどこにいるでしょうか!』
「えっ?え?」
「これって、どういう……」
「どこかに機械があるのかな……」
「……わかった!サド君でしょ!サド君の中に何かいるかも!」
『……ファイナルアンサー?』
「は!?口も動かしていないのに!?」
少女は強い視線でサドを見て頷く。サドは目もくれず、まるで部屋の様子を確認するように辺りを見回している。
『……………正解!お見事!』
「へへ~ん!」
「ええっ!?」
「マジ!?人造人間に2つもプログラムを持っているの!?」
マークⅢは解説をする。
『ご存知の通り、サド君の中にいます。しかし私がこの体の主、マークⅢです!
彼の心をそのままにコピーして、共に助けつつ歩んでいるのです!』
「ええっ!?」
「つまり、君は……」
「ぷにぷにしてるしやわらかい。」
「痛いから……」
「痛みとかあんの……?」
少女に脛の皮を引っ張られる。サドの反応に他の女性も謎解き感覚で問い詰めていく。サドはレオに助けを求め、そちらに視線を向けた。
その間にレオは年長と話す。
「レオだ。サドの姉。」
「あなたが……おそらくリーダーですね。雰囲気で分かります。私は、【テリーサ・キャンベル】と申す者です。この度はライラさんを守ってくださり、感謝の気持ちでいっぱいです。」
「まあ大丈夫だ。どちらにせよ、私らもここに用があるからな。」
「用とは……?」
「サド!」
レオがサドを呼び寄せる。
「何すればいい?写真?」
「そうだ。大体怪しい場所は写真で撮っておいてくれ。それと最後に集合写真を撮る。被害者の痕跡も残しておくんだ。」
「りょ。」
タブレットを持ち、カメラを起動する。ここからが本番である。データを持って下町に戻り、ライラ達のような地球の人達を守るレジスタンスを興す。
レオはサドに仕事を任せ、窓から街の景色を眺める。手前の綺麗な白と、奥で賑わう白銀が彩る。壁の先がよく見える。空と砂漠の境界線が見えていた。
見たこともない場所に連れ去られ、脱出しても無謀なことと思い知らされる景色だ。諦めるのも無理はないが、それでも逃げるライラに、レオは静かに感銘を受けていた。
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