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Chapter_2:コーズ&エフェクト

Note_39

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 白い花園を背にして、敵に挑む。【フェニコプテラス】の【第1中央塔】にて、姉弟は敵兵と真っ向から戦う。

 後ろにライラが光線銃1つだけ渡されて、困惑していた。


「えっ、これ……どうすれば……。」

「ライラさん!」

「無理ならこっちに来い!」

「わわ、分かったわよ!」


 ライラは急いで走る。敵は銃を使わずに、素手で捕まえようする。その手を振り払って先へ進もうとする。


「……なっ!」

「そんな!ありえない!」


 女性の声が聞こえてくる。どうやら兵士は女性だけで組まれているようだ。

 レオは機体を守る兵士達を振り払って、まっすぐ機体へ斬りかかる。強化ガラスにひびが入った。


『うわおっ!びくった!』

「大丈夫か!?」

『大丈夫かじゃないでしょ!ダメージ受けちゃってさ……何で守ってくれないのよ!』


 機体から怒号が飛んでくる。心配していた兵士は構わず、ライラの背中から髪ごと襟を掴む。


「やめてっ!」

「あのピンクどもが悪いやつなんだって!」

「ふざけないで!」


 ライラは腕を掴んで離そうとするが、兵士は銃を突きつけてきた。


「受け入れねぇと撃つぞ。」

「………!」


 ライラは銃口を見るやいなや、目をつぶって光線銃でとにかく撃った。5発撃ち込み、敵の右肩に命中して、手放してしまう。


「うおおっ!?いきなりやりやがって……」

「は……ああっ……」

(あ……終わった……。)


 ライラは恐怖で足がすくみ震える。怯える彼女に逆上して、銃を向けて頭部を撃ち抜こうとした。


「伏せて!」

「キャアッ!」


 サドがビームソードで横に斬る。ライラは伏せて避けるが敵兵は防御を崩される。光剣は揺らいで消えていく。

 ライラと敵の距離を離す。ライラの背中を押してすぐに奥へと進む。光剣のバッテリーを持ち手の頭を開けて、予備の物と取り替える。

 後ろから実弾が飛んでくる。こちらは実質無防備のようなもので、サドがライラの体を動かしたり庇ったりして、うまく当てないようにする。


「レオ!」

「後ろに来い!」

『充電完了!』


 敵の武装、【電磁砲】の充電が完了した。生身の人間が喰らえばひとたまりもない。


『あ~、前見えないや。とりあえず撃つね♪』

「おい!せめて操縦席を開けてから、狙って撃てよ!」

『痛いの怖いもん。それじゃ……発射♡』


 トリガーを引く。エネルギーが銃口に集約される。

 2人がレオの後ろにたどり着き、レオが小型機を剣に戻す。レオは合体剣を横に立てた。

 他の兵士に、打つ手は無かった。



「……馬鹿野郎ォォォォォッッッ!!!」



 一発がフロントの空間を貫く。幸い全員が直撃を免れたものの、突風が襲いかかる。それに兵士達は吹き飛ばされていく。

 花園にまで風は届く。白い花弁が宙に舞い、街の方へと飛んでいく。


「どうなったかなぁ……」


 機体の中からは確認できない。早速コクピットを開けて正面を見る。少し右寄りに、レオが三角状の防壁【デルタシールド】を張る。風圧から2人を守り抜いた。

 パイロットはコクピットを閉ざして、動かそうとした。レオは走って機体に剣をぶっ刺す。


『キャッ!もう……ヤバ』


 機体の弱点を突き、周囲が黒く広がって煙が上がる。すぐにコクピットを開けて、慌てて逃げていく。

 レオも退避する。バッテリーが燃え広がり、爆発して機体が燃え上がった。

 レオは合体剣を腰に戻す。


「上に行くぞ。」

「横にエレベーターがある!」

「みんなは35階にいるはずよ。」


 エレベーターを使って上階を目指す。敵がいないか、監視カメラが無いか、あったのでレオが光線銃で壊す。





 このエレベーターでは23階までしか行けない。23階で降りて通路を探す。物音も気配も無く、まるでオフィスの通路の様に暗い。

 敵に悟られないように静かに歩く。明るい場所へ足を運ぶ。

 向かった先は、オープンスペースのオフィスで兵士が巡回している。小型機も周囲に浮かんでいるようだ。


(どうす……ってレオ!)


 サドに構わず、レオは先へと向かう。先手必勝、敵を後ろから合体剣で振り払う。そして小型機のアラートが鳴る前に、剣で斬り上げて破壊する。


「先を急ぐ。」

「……しばらく敵はいない。1つ上の階にまたエレベーターがある。階段を探そう。」

「マークⅢだな?助かる。」


 先へ進む。奥に階段がある。



 上へと向かった先に、エレベーターの入り口があった。前を見張る兵士が警告する。


「テメェら……よくも下の奴らをなぶってくれたな!おまけに、ボレアリス様が育てられた百合の花園も散らしやがって!」

「そっちの電磁砲が勝手にやったことだろ。花も女も巻き添えに……身の丈に合わねぇ兵器持つからこうなる。」

「んだと?ガキが……テメェにはその尊さが分かんねぇようだな。まあそっちのクソオス眼鏡を連れてんなら、それもそうだろうよ。」


 エレベーターから増援が来た。


「ロキ様が望まれた“楽園”は、他の偽りの街を凌ぐほどの素晴らしき理想郷。女性同士の愛は、美しく愛らしく、下心無き純然たる愛情に等しい。

すべての戦争を止め、世界平和を成し遂げられる唯一無二の手段なのだ!この世の邪悪である野郎共など論外……滅殺に値する!

……なのにだ。絶対的に正しい選択肢さえ選ばぬ愚か者がいたものだ。“楽園”の邪魔をするものは抹消するのみ。いや、まだその存在を知らないだけで未熟なのか……。アルゴ様の“楽園”こそ至高の境地。そこに連れさえすれば……。」

「……その野郎共を犠牲にできりゃ……平和が訪れるのか?」


 レオが問う。そもそも抹消の対象であるサドに、その話に踏み入る資格など無い。

 引け目を感じる彼に、寛大なる心を持つリーダーが有情を持って優しく答える。


「その通り、まあ仕方ないことだ。人類が至福を追い求めることに、多少の犠牲は出て当然のこと。これは周知の事実だ。

だが……」


 敵兵は一斉に銃を構える。


「……絶対正しい正解を、間違えるような愚か者どもに!

……明日はやって来ない。」


 レオはその答えに、ある女性の面影が脳裏によぎる。彼女はレオを優しく、姉のように見守ってくれていた。

 政府は彼女を犠牲にしてでも、何かを成し遂げようとしていた。今の敵兵も同じである。





『戦争なんか…そうそう上手く行かないわよ!今、生きているのは本当に…奇跡なのよ…』





 誰かの泣き声がレオにだけ届き、彼女の心を響かせた。レオは合体剣を前に構える。


「……だから嫌いなんだよ。お前ら政府のやる事なす事すべて!」

「何?」

「他人の犠牲を前提に平和な世界を作る、正義の味方面して堂々と私の前にいる。

そこで、更にその犠牲を“絶対正しい”と決めつけて、お前らは無理やり押し通したんだ。特に……人の弱みを容赦なく利用してな!」

「フッ……テメェにその女性の本心が分かるわけねぇだろ?エスパーなわけでもあるまい……。」


 ライラは兵士の発言に怒りをぶつける。


「この人達は私を助けてくれたんだ!話していないわけじゃない!

私は……私の本心をすべて言葉にしてみんなに言ったもん!聞いてくれただけでも良かったのに、助けるために本気でやろうとして……本当に嬉しかった!

あなた達は偉そうに威張っているけど、私達の話を少しでも聞いた憶えは無かった!」


 ライラは光線銃の口を相手に向ける。


「あなたに私達の“本心”が分かるって、この場面でまだほざくつもりなの!?」

「……ッ!」


 兵士は答えられない。レオは集中して、更に畳み掛けていく。


「……答え合わせだ。ライラは“家に帰りたい”だけなんだ。それだけを、何度も何度も口にして伝えたんだ。

お前らは、その真逆の事をした。この星に誘拐して私物にしようとしている。それで一度でも、至福とは程遠い感情を持たなかったか?」

「少なくとも笑顔は……」

「一度でも怖がったり涙を見せたり、しなかったかって言ってんだろ!」


 兵士は口をつぐみ、レオを見つめている。レオは決して許さない。


「……させただろうな。お前らの事だ。連れ去った人達の友人の事も考えずに、無理やり過ごさせようとしたんだろ。

 その友人だって、連れ去られた人と仲良くやっていたんだ。それを記憶ごと、すべて消されるんだ。絶対に止めてやる。



そっちの独り善がりな理想で……

身内も……

友達ダチも……

仲間も……

……消されるわけにはいかねぇんだよ。」



 左腕で、剣を前に差し向ける。敵のリーダーは何かが壊れたように、静かに怒りを露呈させていた。


「……ふざけんなよ、ガキ共が……“楽園”を否定する奴は、女じゃねぇんだよ!

お前ら!こいつらは“楽園”の邪魔をするゴミクズ共だ……除去して正してやれ!!!」


 敵は早速、発砲してきた。未成年相手に容赦ないが暴力で襲う相手に黙って撃たれるほど、彼らは利口ではない。

 レオは【デルタシールド】を発動して、2人を守り抜く。小型機と分離して、シールドを前に進めて一気に近づく。

 前に進み、サドはビームソードを構える。光剣を発動させて、雑多な敵を斬りつけていく。

 レオは小型機をライラの近くに浮かせて、シールドを譲る。そして、剣で横に思いっ切り薙ぎ払った。

 ライラはシールドに隠れつつ、しっかりと狙いを定めて光線銃を撃ち込む。迷いが吹っ切れて、臆することなく光線銃を撃っていく。撃てないときは隠れる。

 ライラには既に、戦闘に必要な分の余裕が生まれていた。



(マークⅢさん……サド君……レオさん……

……みんなに会えて……良かった!)



 敵を完膚無きまでに圧倒した。もう起き上がる敵はいない。3人は、エレベーターの中に一緒に入る。

 目標の35階に行ける。そこに向かう。レオは一応、【デルタシールド】を張って身を守る。

…エレベーターの中で唯一、サドだけが思い詰めていた。レオが表情を伺って、話しかける。


「どうかしたか?」

「ごめん。あいつに何も言えなかった。本当は沢山言いたいことがあったけど……」

「聞きゃいいじゃねぇか……って言いたいところだけど、あんたじゃ無理だな。話したところで撃たれてる。」


 レオは少し肩の力を抜く。


「……それにさっきのは、こっち側で片付けなきゃいけない問題だ。どうしても、負けるわけにはいかなかった。」

『レオさんの……問題?』

「そうだな。」


 レオはため息をついて再び思い出す。あの女性の言っていたことが蘇る。


(そりゃ戦争なんか、簡単に丸く収まるわけねぇよな。どんなに理想が先走っても、犠牲が出た時点で至高とは程遠い。自分のやることがノーリスクだなんて、都合のいい話は無い。

今回の様に、絶対に他のところでしわ寄せしているんだ。)

『250mメートル地点、35階です。』


 扉が開いた。その先には誰もいない。シールドを解除して剣を腰に戻す。


(それに、私はどうしても……あの時の戦いが正しいとは思えねぇよ。政府の犠牲になんかなって……何が幸福だ。馬鹿らしい。)



 暗い通路を歩く。目の前には【特級展望台】と書かれていた、VIP待遇並の部屋がある。しかしこちら側にサムターンがあるため、監禁・拘束が目的の部屋とも捉えられる。

 レオはサムターンを回して、堂々と扉を開ける。そこにはライラの言う通りに、多くの女性達が待ちわびていた。

 ライラが入ると、空気が一瞬にして変わる。女性達は、笑顔で迎えてくれた。


「……ライラさん……どうして、ここに……」

「ライラ姉ちゃん!」

「みんな……無事だった?」

「うん!」


 一番幼い少女がライラに近寄ってきた。ライラは高く抱え上げて、少女を喜ばせた。

 奥から年長らしき女性がライラに事情を尋ねてきた。とても優しい口調で聞く。


「ライラさん……一体どうしてここに戻ってこられたのですか?ここは危険だから、逃げるなら1人でって言ったはずなのに……。」

「ごめんなさい。でも、同じ地球から攫われたみんなを助けたかったの。数年間もお世話になったし、私だけ逃げるのは辛いから!」


 ライラは笑顔で答えて少女を降ろす。年長の女性が姉弟を見つめる。


「あなた達が……それもあなたは男の子……」

「男の子~?久しぶりに見た!」

「……サドと申します。人造人間アンドロイドで、本物の男の子ではありません。」

「な~んだ。人造人間かぁ。」

『私もいますよ!』

「「「「「!?」」」」」


 突然の少女の声に、女性達がどよめく。マークⅢが女性達と更に交流する。


『さあ、私はどこにいるでしょうか!』

「えっ?え?」
「これって、どういう……」
「どこかに機械があるのかな……」

「……わかった!サド君でしょ!サド君の中に何かいるかも!」

『……ファイナルアンサー?』

「は!?口も動かしていないのに!?」


 少女は強い視線でサドを見て頷く。サドは目もくれず、まるで部屋の様子を確認するように辺りを見回している。


『……………正解!お見事!』

「へへ~ん!」
「ええっ!?」
「マジ!?人造人間に2つもプログラムを持っているの!?」


 マークⅢは解説をする。


『ご存知の通り、サド君の中にいます。しかし私がこの体の主、マークⅢです!

彼の心をそのままにコピーして、共に助けつつ歩んでいるのです!』

「ええっ!?」
「つまり、君は……」
「ぷにぷにしてるしやわらかい。」

「痛いから……」

「痛みとかあんの……?」


 少女に脛の皮を引っ張られる。サドの反応に他の女性も謎解き感覚で問い詰めていく。サドはレオに助けを求め、そちらに視線を向けた。

 その間にレオは年長と話す。


「レオだ。サドの姉。」

「あなたが……おそらくリーダーですね。雰囲気で分かります。私は、【テリーサ・キャンベル】と申す者です。この度はライラさんを守ってくださり、感謝の気持ちでいっぱいです。」

「まあ大丈夫だ。どちらにせよ、私らもここに用があるからな。」

「用とは……?」

「サド!」


 レオがサドを呼び寄せる。


「何すればいい?写真?」

「そうだ。大体怪しい場所は写真で撮っておいてくれ。それと最後に集合写真を撮る。被害者の痕跡も残しておくんだ。」

りょ了解。」


 タブレットを持ち、カメラを起動する。ここからが本番である。データを持って下町に戻り、ライラ達のような地球の人達を守るレジスタンスをおこす。

 レオはサドに仕事を任せ、窓から街の景色を眺める。手前の綺麗な白と、奥で賑わう白銀が彩る。壁の先がよく見える。空と砂漠の境界線が見えていた。

 見たこともない場所に連れ去られ、脱出しても無謀なことと思い知らされる景色だ。諦めるのも無理はないが、それでも逃げるライラに、レオは静かに感銘を受けていた。


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