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Chapter_2:コーズ&エフェクト

Note_40

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 【フェニコプテラス】地下にある、下町と上町を繋ぐ【アクアトンネル】にて1人の豪傑な女性が歩いている。惑星連合諜報員の【カリナ】である。

 何もない自分だけの空間、美しい水流と色彩をゆっくりと堪能する。長く、直線的な道を退屈せずに楽しむ。


「……何もない。人も、魚も、機械さえも……もの寂しいが、おもむきがあるな。“族のない水族館”と称するだけあって、これはこれで面白い。」


 上に明光、下に暗闇。透き通る水中を心ゆくまで楽しんだ。しかし、下を眺めてある違和感を催す。


「……いるな。下から機体が……それも何台も、大量に……」


 目視で確かめる。下に列を成して、【ファーストステップ】へ向かう潜水機体がいた。この静かな空間に邪魔して、カリナの機嫌を損ねていた。


_____


 姉弟とライラは【第1中央塔】35階の展望台に来て、必要な作業を行っていた。レオとライラが事情聴取、サドが証拠集めを担う。

 ライラはサドに付いていった少女の子守りを請け負い、彼と共に2人で責任を持つ。

 少女はサドの服を引っ張りながら歩く。


「……わたし【オルガ】。地球だとパパが立派な、スラヴのお貴族様なんだ!」

「へぇ!すごい!……んじゃあ、“オルガ様”って呼んだ方がいいかな?」

「特別に“オルガちゃん”って呼んでもいいよ!本名はもっと長いし、ライラお姉ちゃんを守ってくれたお礼!」

「分かった。……早速だけどオルガちゃん、ライラさんの所に戻ってもいいかな?もしもの事があると危ないから……」

「やだ!」

「後でも……」

「やだ!」


 どうしても離してくれない。突き放すのも乱暴なので、このまま行くことにした。

 ライラはサドに話しかける。


「……苦しい思い……させちゃったね。」

「いえ、別に。」

「私はあんな奴ら、知らないから。初対面のくせに偉そうに、好きなわけないし、あんなのが正解だなんて思いたくもない!

そもそも……殺生も略奪もしておいて、世界平和なんてありえない。また新しい暴力が生まれるだけ……

報復だけじゃない、もっと恐ろしいもの……それを生みかねないのよ。」

「もっと……“恐ろしいもの”?」

「おそろしいもの?」


 サドとオルガはライラの発言に疑問を持つ。まるで彼女が詳細を知っているかのような口振りであった。

 3人は扉の前にいる。最初の扉、先ほど見つけた扉を含めて計3つ見つけた。例にならってサムターンがこちら側にある。

 サドは扉を開けて、中を確認する。こちらと増援が向かった後で誰もいない。一旦この部屋の全体を撮る。

 そして、この部屋を分析する。何かの痕跡が部屋に散見される。


「オルガちゃん。嫌な予感がする。ライラさんの所で待っていてくれないかな?」

「サド兄ちゃんが危ないでしょ。」

「……んじゃあ、ライラさんを守ってくれる?兵士さんが来ないように、大事なお姉ちゃんを守ってほしい。」

「しょうがないな~。」

「……頼んだよ。」


 サドだけが中に入る。周囲に、特に隅々にて白く変色した痕跡が分かる。そして、強く甘い臭いが部屋に残っていた。

 写真を撮ったり、簡単な資料を作ったりする中で、部屋の外のライラに尋ねる。


「“もっと恐ろしいもの”って何ですか?僕には分からないです。教えてもらっても……よろしいでしょうか?」


 ライラはオルガの顔を一回見て、2人にその真意を伝える。


「私の……故郷の星、地球は国同士が隣り合わせなことが多かったの。この星のように、国境の無い世界じゃない。

だから歩いてその国に行けるから、紛争になりやすい環境だったの。海や空を渡るのに、燃料が必要だったの。」


 ライラはオルガの手を強く握る。


「地球には今でも、知られていない紛争がまだあるの。そのほとんどが属性による報復や、外交戦略の失態、国家運営の不備として、簡単に政府にまとめられちゃうんだけどね……。

紛争にはロボみたいな兵器も多く出てきた。それで多くの人を……“正義”の名のもとに堂々と攻め込んでくる。

人をなぎ倒して、建物を壊して……過去を消して略奪する。そして負けた相手を犯罪者として名を“付ける”の。」


 サドは何かを発見して、写真に納めてからライラの所に戻る。


「……僕、分かったと思う。」

「本当に?」


 サドはオルガにタブレットを渡す。


「オルガちゃん。スラヴのお貴族様としてお願いを聞いてほしいんだけど……」

「うん!」

「僕達が話している間、この文章……解読してもらってもいいかな?」

「分かった!」


 オルガは快く引き受ける。サドはライラの話を続ける。


「その兵器の後に、また新しい兵器を……その犯罪者側で行われる……そして成功するまで終わらない。それは僕もあなたも知っている。

問題は、その兵器が進化すること。犠牲も大きくなって復讐心も更に大きくなる。これが答えですか?」


 ライラは真面目な表情で頷く。


「……その通りよ。その結果が莫大な恐怖を生み出して、罪の無い人達が逃げることになる。

そして逃げる人達の弱みに付け込んで、自分の正解を押し付けて……自分の行動を正当化する。他の人の意見も聞かないままにね。

……今の私達がそうなのよ。」


 ライラはオルガの事を見つめる。小さな子供さえも、その犠牲になりうる。


「……分かった!」


 オルガが解読を終えた。成果を聞く。


「どう?」

「これは……水星の人達が書いたもの!色んな人の名前が書かれているんだ!」

(……やっぱりな。マークⅢも水星語の判定だったし、ここに他の被害者もいた。)

「ありがとう!」

「人助けは当然のことです!えっへん!」


 サドは再び部屋の中を確認して、他の痕跡を探る。その時の事であった。


「人の弱みに付け込む……ですか。僕がたくさんやってきたことですね。」


 サドが答えた。ライラは彼の答えに動揺しながら更に問う。


「え?いや、あなたは……私達のために、今もたくさん頑張っているのに?」

「……今やっているのは、貴族達による拉致についての情報を探すことです。そしてエンダー家を止めるために、情報を渡すのです。

貴族達の弱みを握り、付け込む手段として情報拡散すること…僕も彼らと同じことをやっているだけです。」


 サドはタブレットを通して、何かを見つめている。その最中でも話を続ける。


「僕が思うに……弱さは“罪”です。」

「!?」

「弱い心、弱い立場、弱い力……現に勝っている人達は、相手の弱点を徹底的に突くものです。

僕はそのような事を何度もやりましたし、何度もやられました。だから負けたときの、守れなかったときの……怖さは知っています。」


 ライラは彼の答えに戸惑いを隠せなかった。オルガは彼女を見つめて言う。


「ねぇ……サド兄ちゃんって、悪い人なの?あの人達と同じなの?」

「わ、悪い人なわけ……そんな……少なくともあんな奴らよりかは……」


 サドが作業を終えてライラの正面に立つ。


「彼らからしたら……僕は“邪悪”です。」

「それはあいつらの話よ!少なくとも、私達は助けようとしてくれる人としてあなたを見ている。悪い人って……言えるわけないでしょ。」


 ライラが話したとき、オルガがサドに近づいて話しかけてきた。サドが止める。


「部屋に入らない。この部屋は汚いから。」

「入る!今度はサド兄ちゃんを守る番!」

「オルガちゃん!」


 ライラが肩を掴んで止める。オルガは無言で彼女の隣に戻った。


「サド君……私達が攫われたのは、弱いからって言いたいの?」

「紛争による疲弊、避難民という立場、武装していない人達……敵の立場として、上物を得る絶好の機会だから狙うのです。これは間違いありません。

僕がさっき話せなかったのも……僕が弱かったからです。周囲の重圧、抹消の対象、そして未熟さも……だから……」


 サドはライラに笑顔を見せる。


「レオと……

……あなたが守ってくれたときは、とても嬉しかったです。

……ありがとうございます。」


 ライラは“守る”実感を得ていた。仲間の弱さを守ることで得た、サドからの感謝を…強く旨に秘めた。

 オルガは彼女と手を繋ぐ。サドは【特級展望台】に帰ろうとする。


「さてあらかた終わりましたし、みんなの所に戻りましょう。」

「うん!サド兄ちゃんも……」


 オルガが手を差し出そうとしたとき、突然倒れてしまった。


「オルガちゃん!」

「体が……赤くなって……すぐに戻るんだ!」


 ライラがオルガを担いで、サドと共に急ぐ。


_____


 レオは年長のテリーサと共に、聞き込みに回る。あまり良い収穫は得られなかった。どうやら情報が断たれているらしい。

 仕方ないので2人を待って、テリーサと話をする。


「そういえば、昼とかは食ってんのか?シャワーとか、ベッドとか……」

「そろそろお昼ご飯のお時間ですね。いつも兵士の皆様が持って来られるのですよ。

シャワーに関しては、他の施設で受けられるはず……逃げても断崖絶壁ですけどね……。

それと……ベッドではなく寝袋です。ほらあちらに……」

「まあ、揃ってるって感じか。」


 ちゃんと子供の分まで揃えている。レオは今朝の顛末と比べてしまう。


(今朝のベッドより気持ちよさそうだな……。)

「床が柔らかい奴で良かったじゃん。固い奴だとマジでキツかったし……」

「私もぐっすり寝られます。こんな場合でなければの話、ですけども。

そちらはオルガさんの寝袋になります。幼気いたいけな少女……」


 レオが寝袋を見ていたときに、サドとライラがやってきた。ライラがテリーサに、逐一に言う。


「オルガちゃんが!オルガちゃんが!」

「何て事!」

「……高熱です。それも唐突な……。」


 サドはオルガの反応に見覚えがある。唐突な発熱、少女にはとても刺激の強いものだった。


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