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Episode➃ 最後の一滴

第23章|人生ゲーム <11>日曜日の哲学カフェ(折口勉の視点)

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<11>


―――――予定時間より早いけど、そろそろ、店じまいしちゃおうかなぁ。


荒川区の集会所で、俺は1人、簡素なパイプ椅子に座っていた。

本日の哲学カフェは、完全な開店休業状態だった。朝から誰も来ていない。


普段は水曜日に開催しているところ、突然開催を日曜日に変えたことが良くなかったのか。
………いや、日曜日のほうが時間のある人は多いだろうと見込んでいたのだが。

商売というのは難しい。
自信のあるコンテンツを持って待っていても、それが世間にウケるとは限らない。
お客さんが来てくれるかは、立地、タイミング、運にもよる。

同人誌販売でも、哲学カフェでも、一度でも実際にやってみれば、決まった金額の給料が毎月支払われることのありがたみは身に染みてよくわかる。零細だとしても自分で商売を起こしてそれだけで飯を食っていくのには、数々の荒波を乗り越えなければならない。生存確率の低い世界だ。俺がたとえこのまま『シューシンハウス』をクビになっても、次の仕事で自営業を始めるのだけはやめておこう、と思っている。

その時、集会所の扉が開く音がした。


――――向こうでオバサン集団がやってる、エアロビ教室の生徒さんかねぇ………。


集会所にはいくつか部屋があり、地域住民がそれぞれ予約を入れている。日曜日は水曜日に比べると、習い事などがたくさん開催されていて盛況である。出入口付近のこの部屋では、利用者の来訪は感じられるが、皆、別の部屋に吸い込まれていった。今回のあのお客もどうせ、俺のところには来ないだろう。微動だにせず空中を見つめた。

しかし足音は、俺の借りている部屋に近づいてきた。


「こんにちは。お邪魔します」


振り返ると………会社で会ったことがある産業医(たしか名前は鈴木だったか? )が、私服でそこに立っていた。

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