最弱攻撃力スキルが実は最兇だったところで俺が戦いたくないのは変わらない

だんぞう

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#20 逡巡

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 その後、昨日から今に至るまでのジェノランにまつわる国内外の動きをざっと教えてもらった。
 それでも、説明会が終わって俺のとりあえずの居住スペースという別のテントへと案内されたのは15:30を回っていた。
 空調の効いた巨大テントの中、複数の個人用テントが設置されているうちの一つ。
 サイズ的には足を伸ばしたまま2、3人は寝られそうな広さ。
 そこにエアーマットが一つと、寝袋が一つ。他にはLEDランタンと、見慣れたリュック。俺がたまに使っているやつ。
 中を覗くと、下着や服がほどほど、タオルと洗面具、あとノートPCと俺がジェノランで遭遇した生物をメモっていたノート、それから筆記具が無造作に突っ込まれていた。
 父さんか姉貴が準備してくれたのだろうか。
 靴はなかったので、しばらくは自衛隊が支給してくれたこのサンダルを使うしかなさそうだ。
 当面は俺の自室になる、というこのテント内を見回すが、電源はないし、テントの外側の音も普通に聞こえるし――ただ避難生活だと考えたら贅沢なほうなのかな。
 PCを起動してみる。充電はかなり残っているものの、接続できそうなWi-Fiは見つからない。
 こういうときスマホとかあれば情報入手に便利だったのかもとは思うが、持っていないものは仕方ない。
 中学時代は長いこと引きこもっていたし、特に連絡取るような友人も居ないし。
 姉貴がスマホを買うときにもう一度勧められたが、姉貴と直通連絡手段とか嫌で断ったし。
 ネットにつながらないブラウザをぼんやり眺めながら、さっき箕方みかたさんが最後にもう一度言ってくれた言葉を脳内反芻はんすうする。
「我々としては、ジェノラン内の知的生命体とコミュニケーションを取りたいと考えています。他所の国では『討伐隊』という名前をつけている所もありますが、我が国ではあえて『探索隊』という名前を固持しております。争いは望んでいるわけではないからです。今はとにかく情報が欲しくて、そのために何度も探索を繰り返している状態です。あんなに長い間、ジェノラン内部で生存してきた国館川くにたちかわ詩真しまさんのご協力が、今後の我が国、いや世界のためには必須だと考えています。探索隊へのご参加をどうか前向きにご検討ください」
 真面目な表情だった。横に居た砂峰すなみねさんがマッチョポージングを自粛するくらいに。
 ただ、さっき現場から漏れた雑談だとそういう雰囲気でもなかったし、信頼はまだできない。
「詩真、いるか?」
 姉貴の声だった。
 この巨大テントスペースは男子用と聞いている。わざわざ来たのか?
「今、来たとこだけど……父さんは?」
 テント入口のジッパーを開けないまま返事をする。
「仕事だ。こんなときだからね」
 生活安全課の課長なのだから、確かに忙しいだろうな。
「母さんは?」
「自宅があんなだからしばらく帰れなさそう。宿泊補助費用を国が出してくれるみたい」
「そっか。良かった」
「詩真、私は探索隊に参加している」
「姉貴ならそうすると思ったよ」
「一緒に来ないか?」
 姉貴に悪意がないのはわかっている。でも、俺が姉貴と比較され続けてずっと嫌な想いをしていたことを、姉貴は恐らく理解できていない。
「考えさせてくれ」
 それでも即答で拒否らないのは、今の俺にでもできる精一杯の気遣い。姉貴が悪いわけじゃないのはわかっているから。
「せめて、ノートの内容についてもう少し詳しく教えてくれないか?」
 突然、姉貴とは違う声。
 クソたまとも違う声。
 でも、どこかで聞いたことがあるような――もしかして、俺がジェノランからリビングへ戻ったときに居合わせた、姉貴の友達っぽいあの眼鏡さんか?
「どの生物について?」
「実物を見て話したいのだが、ダメかな? 亜貴あきさんが君のリュックにあのノートをしまっておいたはずなんだけど」
 姉貴をさん付けってことは、後輩じゃない可能性もある。念のために敬語を使っておくか。
「まだ気持ちの整理がついていないので、また後でもいいですか?」
「19時になったらまた探索に行くことになっている。それまでに情報を共有できたら嬉しいのだけれど……ああ、亜貴さん、珠ちゃん、準備もあるだろうから先に戻っててくれないか? 弟さんに無理強いはしないし、もう少しお願いしてダメだったらアタシも戻るから」
「フッコ先輩! 危険です。詩真ってば痴漢で変態なんだから、二人きりでテントの中なんて不潔過ぎますっ!」
 クソ珠がまた喧嘩を売ってきてるのか。
 頼むからお前のヘイトを他人にまで強要しようとしないでくれ。
「珠ちゃん、それは人にモノを頼む態度ではないし、第一アタシは彼をよく知らない。ネガティブな先入観を植え付けないでほしい」
 驚いた。
 姉貴の交友関係で生まれて初めてまともに先入観なしで会話できた人に出会ったことに。
 フッコ先輩ということは、姉貴と同学年か?
 ただまあ、どうしてもこのジッパーを開けたそうなのはアレだけど。
「珠ちゃん、先に行こう。詩真、フッコ、よろしく頼む」
 足音が二つ遠ざかる。
「詩真くん、改めてお願いしたい。他の人はあまり気にしていないようだが、あの書きぶりだとデンキトカゲも知的種族に含まれるのだろう? 君の情報があれば、無益な戦闘を避けるのに役立てられるかもしれないんだ」
 ピリリたちのことを思い出す。
 探索隊が「デンキトカゲ」に出会ってないというのはもしかしたら、他のデンキトカゲの群れも一斉に蛹化ようかして、別の姿になっているからかもしれない。
 この人――フッコさんは、信用してもいいのかもしれない。
 ノートPCを閉じてリュックにしまうと代わりにあのノートを取り出し、テントのジッパーを開いた。
「ありがとう」
 そう言ってかがみ気味に入ってきたのは、やっぱりあの眼鏡さんだった。
 ただ、胸元が開き気味のTシャツを着ているので、その襟もとからは豊満なものが見えてしまっている。
 慌てて目をそらした横でジッパーの音。
 再び視線を戻すと、フッコさんが入口のジッパーを上げ終えたところだった。
「それ。そのノート!」
 俺のと同じ支給サンダルを脱ぎ、しれっと真横に座られる。すごい近い。
 加えて身を乗り出してノートを覗き込んでくるから顔も近い。
 距離感の詰め方がエグいし、ほんのり良い匂いもする。
「詩真くんの口から、一種ずつ説明してもらっていい?」
 絶妙に当たってるもんだから、つい反応してしまう。
 ジェノランではずっと溜めるしかない状況だったから。
 それを悟られないよう説明を始める。出会った状況や未記載の情報を。
 説明しながらノートの余白に追加情報を書き込む。
 全て説明が終わる頃には、説明スイッチが入ったのもあってか、なんとか収まった。
「ありがとう。とてもわかりやすい。視点が研究者っぽいね。お祖父さん、水族館で働いてたんでしょ? そういうところは血なのかねー」
 初めてだった。
 俺の表現をするのに姉貴を持ち出さなかった人。家族以外で俺とじいちゃんを似ているって言ってくれた人。
 女性経験皆無の俺は、まんまとほだされそうになった。次の言葉を聞いていなければ。
「あのさ、いつ死ぬかもわからないから伝えておくね。アタシ、君に抱かれたい」
「えっ」
 突然、なに?



### 簡易人物紹介 ###

国館川くにたちかわ 詩真しま
主人公。現実よりジェノランの方が居心地が良い。ファーストキスは同性の異世界人。visウィースは公的には『異世界通訳』。

亜貴あき
姉。羞恥心<探究心な姉。ご立派。凄まじい雷の力を入手したっぽい。日本のジェノラン探索隊に参加。

・父
警官。生活安全課の課長。

陽乃ひの
母。近所のスーパーで働いていた。絵本を作っている。長野の方へ取材旅行中。しづさんを夕飯によく連れて来る。

たま
元幼馴染。話が通じない。すぐに変態呼ばわりしてくる。視界を奪う黒い玉を作れるようになったっぽい。

・眼鏡さん
亜貴の同学年っぽい。良識も考察力も理解力もありそう。なぜか突然、性的に迫ってきた。

箕方みかたさん
すらっとした長身で眼光鋭い眼鏡美人の三等陸曹。詩真を日本のジェノラン探索隊へ勧誘。悪い人ではなさそう。

砂峰すなみねさん
マッチョなお兄さん。陸上自衛隊のカレーに誇りを持っている。マッチョポージングなしには喋れないのかもしれない。

・ヨツデグレイ
いわゆるグレイに似た四腕の人型種族。交信能力を持ち、平和的で親切。子供には母乳ではなく素嚢そのうで整えた甘い液を与える。

・デンキトカゲ
交信能力を持つ六足トカゲ。一番懐いている個体に「ピリリ」と名付けたが、群れが蛹を経て一個の生物に。蛹化終了後は再会していない
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