最弱攻撃力スキルが実は最兇だったところで俺が戦いたくないのは変わらない

だんぞう

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#25 体で覚えるしかない

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詩真しまくん、ちょっと良いかな?」
 伊古金いこがね隊長に別のテント小屋へと呼ばれたのは、ジェノランから出て、お決まりの計測を一通り終えた後のこと。
「なんでしょうか」
 そこにはBチームリーダーなのに雰囲気がチャラい渡西とにしさん、実は広報担当だった箕方みかたさん、そして探索者部隊の塔外現場指揮官だという水洛みらくさんというナイスミドルが揃っていた。
「詩真くんには申し訳ないのだが、中分地ちゅうぶんじくんをAチームに迎え入れたいのだが、大丈夫かい?」
 水洛みらくさん、すげぇいい声。
 というのは置いといて。俺にわざわざ聞いてきてくれたのは、ジェノランに入る条件として姉貴たちとは別チームにしてほしいと頼んだからだろう。
「というのもね、君はムツアシサンショウウオモドキや青リンゴモドキを把握していなかっただろう? ジェノラン内の生態系の多様さを考えると、『探査』のvisウィースを所持している中分地くんには是非とも一緒に来てもらいたいのだが……」
 フッコさんには告白されたのを保留にしているという顔の合わせづらさはあるものの、姉貴に感じる疲労感やクソたまに感じる嫌悪感はない。
「問題ありません。というかこんな状況ですし、個人的な問題で迷惑をかけたくはないです」
「ありがとう。ただね、こういう状況だからこそ、個人の感情は大事にしたいと考えている。ジェノランの中では超能力みたいなvisウィースや、人間の能力を大きく超えるpotentiaポテンティアが手に入る。恐らく国内であるとも言えない。いわば治外法権だ。そこで必要なのは国家や法といったものではなく信頼といった結びつきだと私は考えている。立場上大きな声では言えないがね。それに、得た能力がどういうものなのかがまだはっきりとはわかっていない中で、ベストなパフォーマンスを目指すにはメンタル面でのケアは無視できないとも考えている」
 姉貴や俺たちは建前上「民間人協力」ではあるが、確かにジェノランではかなり配慮してもらっていると感じる。
 基本的に命令されたことはないし、話もちゃんと聞いてくれている。
 拉致されたときはどんな荒くれ者集団かとドキドキしたが、その後はあのおっぱい好き田平ただいらさんにすら「大人」を感じたくらいだ。
 当初心配していたジェノラン内の生物に対する対応も、最低限の食料とする分以外は無闇に傷つけないという方針を守ってもらえているようだし。
 これにはフッコさんも一役買っている。
 フッコさんの『探査』は他人のpotentiaポテンティアを見ることもできる。
 なのでジェノラン内での行動がどのようにpotentiaポテンティアに影響するかをBチームでリアルタイム調査していたそうだ。
 ジェノラン内の生物を殺すと確かに全体的にpotentiaポテンティアは微増するが、単純に肉体の鍛錬でたいが、テントを組み立てる等の細かい作業でが、visウィースを使用しただけでしんが微増することも判明したし、ただ単に殺した場合にpotentiaポテンティアの色がくすみ、殺した命を食べた場合にくすんだ色が回復する上にpotentiaポテンティア三種が微増することまでも確認済だという。
 色がくすんだ状態が何を意味するのかまではわからないが、なんとなく良くない雰囲気を感じるのは他の人たちも同じみたいだった。
「お気遣い、ありがとうございます」
 俺の口はそこで止まらなかった。
 ここに連れて来られてからの数々の対応、ジェノラン内で一緒に作業する中で感じたこと、探索隊の中で俺自身の力で俺自身が評価されたことなどもあって、この人たちを信頼しはじめていたからかもしれない。
 なので、結果的に今までじいちゃん以外には言わなかったことまで口にしてしまった。
「姉に関しては、姉自身は悪くないんです。ただ単に今までずっと、会う人会う人に姉と比較しかされて来なかったので、一緒に居るのが苦手ってだけで。幼馴染の珠……伊薙いなぎさんには変な絡まれ方をされて困っている感じです。あと、中分地先輩とは会って間もないですが、信頼できる人だと感じています」
 言ってから自分で驚いた。
 俺の中での、フッコさんの好感度の高さに。
 それなのにまだ交際に対して何か抵抗を感じているのは、やはりまだフッコさんのことをよく知らないからだと思う。
 だとしたら、フッコさんと一緒のチームになれたとしたら、むしろ良い機会なのかもしれない。
「あの、俺がこんなことを言っていたのは……」
「安心してほしい。ここに居ない人には漏らさないから」
 水洛さんは穏やかな笑顔を浮かべると、両チームリーダーと一緒にテントを出ていってしまった。
 後に残されたのは俺と箕方さんだけ。
「詩真さんは私に言うべきことがあると思いますが、その前にまず私からも一言……ごめんなさい」
 いきなり頭を下げられた。
「詩真さんが実際の能力を隠して測定されたということは、私たちが信頼してもらえるだけの関係性を築けていないからだと思います。私の力不足です。不安な状況で、心細い想いをさせてしまって本当にすみません」
 えっ?
「……あの……?」
「他の隊員の方々からの報告と、測定結果の辻褄が合わないんです」
 そういえば、SVステータス・ヴィジョンの扇の角度について、フッコさんが目を丸くしてたっけ。
 どうやら俺のは扇が開き過ぎて隣の扇と重なって色も変わってしまっていたようだ。
 しんを表す扇がシアン、がマゼンタ、たいがイエローという光の三原色に似ていて、しんの重なった部分が青、たいの重なった部分が赤で、しんたいの重なった部分が緑。さらに重なると白くなる。
 最初の測定のときはそういう情報すらなかったし。
「あの、謝らないでください。最初のときは緊張してたこともありましたし、あとはSVステータス・ヴィジョンの見方もわからなかったですし。それに保護されたときは驚きましたが、後で他の隊員の方々に世界で起きている事件のニュースなどを見せてもらいました。俺がスマホとか持ってなくて情報が全くなかっただけで、今では保護していただけたことを感謝もしています」
 他国ではジェノラン近辺で入塔者イスカーチェリが殺されている事件が起きている。
「そう言っていただけるのは助かりますが、何かありましたらどんな些細なことでも気軽に尋ねてください。私や砂峰すなみねに言いにくいことであれば、他のチームメンバーでも構いません」
「ありがとうございます」
 その後、ようやく自分のテントへと戻ったが、サンダルを脱ぐ間もなく招集がかかった。
 新しいチーム割の発表だった。
 とはいっても、Bチームに居たフッコさんと、椰子間比嘉やしまひがさんがAチームに移籍しただけだが。
 それに伴い、まだジェノランに入っていなかった砂峰すなみねさん始め二十名が新たにBチームとしてジェノラン内環境に慣れる準備をすることに。
 この追加人員には、自衛隊だけではなく、警官や医師や看護師、民間の動物学者や植物学者、考古学者、物理学者、登山家や洞窟探検家までもが含まれるという。
 あまり多過ぎても装備や食料などの準備が間に合わないということで、これでも絞っているそうだが、他国では軍人などが大量に投入されているらしい。
 あくまでもSNSから情報を得ている田平ただいらさん経由だけど。
 日本政府が中国とアメリカからの探索希望者受け入れを決めたことに先駆け、国内の入塔者イスカーチェリをできる限り増やしておこうという判断が上の方でなされたようだ。
 フッコさんの異動については珠がちょっとゴネたようだが姉貴がうまくなだめてくれた。
 なんでゴネるんだクソ珠は。とにかく二人とはこの距離感を最低限キープしたい。

 チーム分けのあと俺たちが最初にしたのは歩き方の練習。
 歩幅を一定の長さ、左右のかかと間が50cmになるように調整して歩く練習だ。
 他にも目を閉じてストップウォッチできっちり1分や5分などを測ったり、手に持ったものの重さを当てたり。
 ジェノラン内には何も持ち込めないので、計測の単位は体で覚えるしかない。
 そこで俺はうっかり高成績を収めてしまった。
 皆のテスト結果とSVステータス・ヴィジョンに表示されるpotentiaポテンティアの各扇の開き方を比較してみたところ、しんが高ければ把握が得意で、が高ければその再現力も上手になることが関連づけられた。
 両方高い人たちはジャスト1分でぴったり100歩、50mを正確に歩けたりする。
 俺を含め何人かは障害物込みで計測してもしっかり正確に再現できた。
 次の探索では、Aチームは7人ずつの二手に分かれ、ジェノランの内側の壁際の長さを歩測する。
 片方が右回り、もう片方が左回り。
 俺は右回り側。フッコさんも一緒でちょっと気恥ずかしい。
 意外なことに俺の次に正確に測定できたしづさんが急遽Aチーム入りし、左回り側のエースということになった。左回り側だった田平ただいらさんの喜びっぷりったらなかった。



### 簡易人物紹介 ###

国館川くにたちかわ 詩真しま
主人公。現実よりジェノランの方が居心地が良い。visウィースは公的には『異世界通訳』。探索隊Aチーム。水筒と塩の救世主となった。

・国館川 亜貴あき
姉。羞恥心<探究心な姉。ご立派(推定G)。visウィースは『雷』。探索隊Bチーム。

伊薙いなぎ たま
元幼馴染(推定D)。話が通じない。すぐに変態呼ばわりしてくる。visウィースは『闇』。探索隊Bチーム。

中分地ちゅうぶんじ 富久子ふくこ
フッコさん。亜貴の同級生で信奉者。タレ目の眼鏡美人(推定E)。詩真の境遇と趣味に理解と共感があり、告白された。visウィースは『探査』。探索隊B→Aチーム入り。

小馬こうま しづ
母の元同僚。姉以上にご立派(推定J)な童顔ゆるふわ女子。ジェノランで遭難しかけてたのを詩真が助けた。探索隊B→Aチーム入り。

箕方みかた
すらっとした長身で眼光鋭い眼鏡美人の三等陸曹。本来は広報担当。色々教えてくれる。砂峰への扱いが冷たい。

砂峰すなみね
マッチョなお兄さん。陸上自衛隊のカレーに誇りを持っている。マッチョポージングなしには喋れないのかもしれない。探索隊Bチーム入り。

千島田ちしまだ
詩真を拉致し、日本のためにと殺しかけた自衛隊員。24歳男性。全然笑わない。探索隊Aチーム。

田平ただいら
詩真の拉致に加担した、顔のパーツが中央に寄っている丸顔の自衛隊員。26歳男性。無類のおっぱい好き。探索隊Aチーム。

伊古金いこがね
自衛隊員。探索隊Aチームのリーダー。男性。visウィースは『筋力増強』。

渡西とにし
自衛隊員。探索隊Bチームのリーダー。雰囲気がチャラい。

水洛みらく
探索者部隊の塔外現場指揮官。気遣い上手なナイスミドル。凄くいい声。

椰子間比嘉やしまひが
自衛隊員。探索隊B→Aチーム入り。
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