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#27 観察記録 その2
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皆の足音と歩測の声だけが静かに響く森の中、それらが止まる。
壁から歩測1km。
手近な高い木を探し、目魚さんが登って確認した。
驚いたことに、壁が見えなくなったそうだ。高さ8kmの壁が。そして逆に進行方向、かなり向こうに山脈が見えたという。
「山! 俺も見てきていいですか?」
疑っているわけではなく、単純に俺も見てみたいだけ。
ハイイロたちと過ごしていたとき、木に登って遠くを見るってことを全然していなかった。
「構わない。というか俺も見たい。おい、登りたい奴は登って見てきていいぞ。ただし一度に二人までで交代でな!」
伊古金隊長は、目魚さんから渡された足縄を俺の方へ放る。
足縄というのは丈夫な紐で作った輪っかで、両足の甲に引っ掛けて木を登るとき足が広がるのを防止する。
枝の多い木ならばそんなものは不要なのだが、この辺で一番背が高そうな木が頂上付近まで枝がまったくないから。
周囲を見回すと皆、先に言っていいぞというゼスチャーをする。
俺が一番歳下なのでちょっと末っ子っぽい扱いをされている部分もある。
「ありがとうございます。俺、二番手行きます!」
「詩真さ……し、尻っぱしょるの?」
フッコ先輩には「様」をやめてくれとお願いしてあるのだが、ちょっとテンションが上がると出そうになる。
尻っぱしょりとは、登る邪魔にならないよう着物の裾を帯代わりの紐までまくり上げて留めるやり方なのだけど、下半身は着物の下にフンドシのみなので、生尻を見せつけながら登る感じになる。
目魚さんもそうしたし、伊古金隊長も今まさに尻っぱしょって――いや、伊古金隊長も相当の筋肉自慢なので、大臀筋や太腿の筋肉を魅せつけている。
俺もぱしょるつもりだったが、なんかフッコ先輩の鼻息の荒さがイヤだったので、足縄を伊古金隊長へ戻し、そのまま駆け登ることにした。二本の木を交互にジグザグに跳びながら上まで。
思ったよりも簡単に、階段を登るような労力で木の頂点までたどり着く。
風に揺れる先端でバランスを取りながら、まずは歩いて来た方向を眺めると、確かに壁が見えなくなっている。
ずっと森が広がっているだけ。
進行方向へ目を向けると、本当に山だ!
それも立派な山脈が遠くに見える。
たかだか1km内側に来ただけなのに。
ここは箱庭みたいな隔離された空間なのかと思っていたけれど、ハイイロたちの世界の端っこを歪めて「入口」として塔の形に無理やり収めた、そんな気がしてきた。
となると、いつかはハイイロたちの実家にたどり着いたりするのかな。
「本当に山だな」
伊古金隊長も登ってきた。
「ですね」
「いや俺、potentiaなめてたわ。足縄いらねぇな、これ。この力に慣れたら、外に戻ったとき体の重さに苦労しそうだな」
potentiaは心・技・体のそれぞれを底上げしてくれるが、それは塔内と、塔の外壁から64m範囲内、いわゆる聖域だけ。
64mというのは案外短い。建物や格納庫があらかた塔に呑み込まれた立川駐屯地だが、その近辺の聖域は敷地内に収まっている。
聖域内から投げたモノはpotentiaによって上昇した筋力で飛んでゆくが、一歩でも聖域外へ踏み出せば、元の増強なしの肉体へと戻る。
千島田たちに拉致られたとき、あの車が聖域外にあったら危なかったかも。
まあ、あの時点ではまだ情報も錯綜していたし、visを手に入れた側が塔か聖域の中に居ないとダメだって情報もあったようだから結果的に助かったけど。
「次の1km先の地点で登ったとき、この景色がどう変わっているか楽しみだな」
そう言い残して伊古金隊長が先に降りた。
続けて降りた俺を、フッコ先輩が待っていた。自分の着物の裾を軽く持ち上げて。
「私のお尻、見たい?」
そう囁くフッコ先輩と囁かれる俺を、自衛隊の皆さんは生暖かい目で見守っている。
もうすっかり俺たちが付き合っていると思いこまれている。まんまと外堀を埋められた感じ。
ただ俺の恋愛ゲージは、ちょっと冷めてきている。
スタイルはいいし、価値観とか友達としては申し分ない、というかもったいない。俺みたいな元引きこもりにとっては。
だけどやっぱり姉貴に心酔しちゃっているのと、俺に対しても純粋な愛情というよりは、姉貴の眷属としての崇拝みたいなものを感じるのが引っかかる。
「本当だ。いけるね」
伏猿さんがジグザグジャンプ方式で上手に登る。腹筋は見せても尻は見せない伏猿さん。
「見せずに登っている方がいますよ」
「ふーん」
フッコ先輩も同様に上手に登り始める。
伊古金隊長はさっきあんなこと言ったが、potentia以外にも肉体の成長は、俺に限らず皆についても感じている。
心の強化は感覚も研ぎ澄まされるせいか、わかるのだ。
もしかしたらpotentia有り状態での運動は、高負荷トレーニングに似た効果があるのかも。
ほら、この力こぶだって、塔に入る前の俺の腕より絶対に筋肉が育っている。
「教えようか?」
千島田が話しかけてきた。
最近は空き時間やこういう休憩時間になると対人格闘技を色々とレクチャーしてくれようとする。
皆の目もあるし、もう断るのは諦めている。それに殺気はもうなくて、なんというか『強くしたい』とか『育てたい』とかそういう感情が漏れ出ているのを感じるほど。
実際、教え方は丁寧で、着実に自分の対人格闘技術が向上しているのを感じる。
「よろしくお願いします」
関節技やその対処法を少し習っている間に千島田以外の全員が山を確認し終え、歩測が再開された。
2~5km地点ではそれぞれ変わったこともなく、山脈も相変わらず遠くに見えただけ。
唯一の発見は、メイサイヒョウ(仮称)の実物を見られたこと。
この森で特に気をつける動物の一種と、ハイイロたちから教えてもらっていたのですぐにわかった。
迷彩柄の六本足の豹のような姿で樹上に暮らすメイサイヒョウは、無駄なカロリー消費を避けるタイプ。
空腹にならない限りは襲ってこないが、襲うときは奇襲をかけるか、寝込みを襲ってくる。んで、敏捷性が高くて牙も爪も鋭い。
ヨツデグレイは森の中を歩くとき、頭上の『空腹』に注意して歩くという。
注意点を皆に伝え、迂回して無事に通り過ぎた。
6.1km地点ではなんと洞窟を見つけた。
しかも見るからに大きな生き物が入ってゆく。これ、事前にハイイロたちに聞いていた情報と合致するんじゃないか?
体高やサイズ感、雰囲気はかなり象に似ているが牙も耳もなく、長く太い鼻のように見えるそれの先が実は頭。尻尾は短いが、全体的なフォルムはゾウよりもむしろ恐竜のブロントザウルスに似ていなくもない。もちろん六本足。
「あのゾウモドキ(仮称)は、行動も地球のゾウに似て、こちらから攻撃をしかけない限りは襲ってきません」
その説明中、サルケンタウロス(仮称)まで洞窟へ入ってゆくのが見えた。
手足が六本あり、道具を扱うクモザルに似た生き物。普段は樹上を移動するが、地上を走るときは頭と上二本の手がついた上体を起こし、残り四本の手足で四足動物のように地面を走る。いつもは群れで行動するのに、ここへは一匹だけで来ている。
オアシスの湧き水のように複数の動物が集う場所、とくれば間違いない。
「詩真、今のも知っている動物か?」
伊古金隊長の問いかけにサルケンタウロスの説明も行う。
「もしかして彼らは共同で洞窟をねぐらにしているのか?」
「いえ、多分違います。恐らくは……」
「何? 知っているのか、詩真!」
このツッコミは目魚さん。この人、田平さん曰くけっこうオタクな人らしく、マンガやアニメのセリフをよく口にする。といっても俺のよく知らない古い作品が多いのでうまく反応できないけれど。
「はい。ヨツデグレイに教えてもらった情報からすると、ここへはおやつを嗜みに来ている可能性が高いです」
「おやつ? 嗜む?」
しまった。ハイイロが好んで使った表現をそのまま使ってしまった。
「摂取する必要がない栄養、というか……」
説明が難しい。
地球でもゾウが塩分欲しさに岩塩を舐められる場所へ赴くのは知っている。
ただヨツデグレイ情報によれば、そういう「体に必要なもの」とは違うらしいのだ。
「えっと。この洞窟は恐らく蝶鳥(仮称)の住処で、彼らの出す粉がゾウモドキにとっては美味しいらしく……ただ」
「ただ?」
「その粉を舐めた分だけ血液を吸われるようです。ギブ・アンド・テイクだそうで」
「吸血っ?」
「洞窟の外には滅多に出てこないようなので入って舐めなければ無害と言えそうです。ただその美味しさには常習性があるらしく、ヨツデグレイたちはそれを恐れて舐めない者が多いです」
「そこまで言われると舐めたくなるさー」
椰子間比嘉さんがごくりと喉を鳴らす。
実は、ハイイロの一族で唯一味わった祖父さんからその味を交信で教えてもらってはいる。
しょっぱさの中に甘さのある、あえて塔外の味に例えるならハッピー・ターンのあの粉に似ていた。
「常習性があるのなら危険性が高いな。それに舐めるとか吸血とか未知の病原菌に感染するリスクもある。洞窟も回避する!」
伊古金隊長の冷静な判断で先へと進むことになった。
蝶のような二対の翼で泳ぐように波打つように羽ばたく、というのは見てみたかったけれど。
ちなみに、初めて俺のネーミングが却下され「吸血マヤクドリ(仮称)」へと変えられた。
### 簡易人物紹介 ###
★ 探索Aチーム、右回り隊
・伊古金 世世紀
自衛隊員。男性。visは『筋力増強』。探索隊Aチームのリーダーにして右回り隊隊長。筋肉を見られたい派。
・国館川 詩真
主人公。現実より塔の方が居心地が良い。visは公的には『異世界通訳』。水筒と塩の救世主。歩測係。
・椰子間比嘉 良夢
自衛隊員。男性。探索隊B→Aチーム入り。色黒で元野球部キャッチャー。詩真のカウント係。
・伏猿 晶乃
自衛隊員。女性。マッチョ自慢で腹筋を触らせようとしてくる。歩測係
・中分地 富久子
フッコさん。亜貴の同級生で信奉者。タレ目の眼鏡美人(推定E)。詩真の境遇と趣味に理解と共感があり、告白された。visは『探査』。探索隊B→Aチーム入り。
・千島田 九純
自衛隊員。24歳男性。詩真を拉致し日本のためにと殺しかけたが和解(?)し、今では鍛えようとしてくる。全然笑わない。歩測係。
・目魚 武士也
自衛隊員。男性。ギョロ目。千島田のカウント係。オタクで、何かにつけ古いマンガやアニメのセリフを言ってくる。
★ 探索Aチーム、左回り隊
・歩長 絵麻子
自衛隊員。女性。『治癒』のvisを持つ。探索Aチームのサブリーダーにして左回り隊隊長。
・小馬 しづ
母の元同僚。姉以上にご立派(推定J)な童顔ゆるふわ女子。塔で遭難しかけてたのを詩真が助けた。探索隊B→Aチーム入り。歩測係
・阿知田 なのか
自衛隊員。女性。元ヤンの気配有り。しづのカウント係。
・火志賀 八真人
自衛隊員。男性。visは『火』。歩測係。
・田平 己輝
詩真の拉致に加担した、顔のパーツが中央に寄っている丸顔の自衛隊員。26歳男性。無類のおっぱい好き。火志賀のカウント係。なにかと詩真に情報を流す。
・新若 秀之
自衛隊員。男性。おっとりした感じ。歩測係
・梨川 泰陶
自衛隊員。男性。趣味は自転車と水族館巡り。新若のカウント係。
★ 探索Bチーム
・牟佐 信之
自衛隊員。男性。visは『布創造』。塔内の装備作りを一手に引き受ける。色付きの布も作れるようになった。
・国館川 亜貴
姉。羞恥心<探究心な姉。ご立派(推定G)。visは『雷』。
・伊薙 珠
元幼馴染(推定D)。話が通じない。すぐに変態呼ばわりしてくる。visは『闇』。
・ヨツデグレイ
いわゆるグレイに似た四腕の人型種族。交信能力を持ち、平和的で親切。子供には母乳ではなく素嚢で整えた甘い液を与える。
・ハイイロ
ヨツデグレイの若者。異邦人、詩真の世話係。日本語への理解と駆使ぶりがハンパない。銀色の球体に乗って帰郷した。
壁から歩測1km。
手近な高い木を探し、目魚さんが登って確認した。
驚いたことに、壁が見えなくなったそうだ。高さ8kmの壁が。そして逆に進行方向、かなり向こうに山脈が見えたという。
「山! 俺も見てきていいですか?」
疑っているわけではなく、単純に俺も見てみたいだけ。
ハイイロたちと過ごしていたとき、木に登って遠くを見るってことを全然していなかった。
「構わない。というか俺も見たい。おい、登りたい奴は登って見てきていいぞ。ただし一度に二人までで交代でな!」
伊古金隊長は、目魚さんから渡された足縄を俺の方へ放る。
足縄というのは丈夫な紐で作った輪っかで、両足の甲に引っ掛けて木を登るとき足が広がるのを防止する。
枝の多い木ならばそんなものは不要なのだが、この辺で一番背が高そうな木が頂上付近まで枝がまったくないから。
周囲を見回すと皆、先に言っていいぞというゼスチャーをする。
俺が一番歳下なのでちょっと末っ子っぽい扱いをされている部分もある。
「ありがとうございます。俺、二番手行きます!」
「詩真さ……し、尻っぱしょるの?」
フッコ先輩には「様」をやめてくれとお願いしてあるのだが、ちょっとテンションが上がると出そうになる。
尻っぱしょりとは、登る邪魔にならないよう着物の裾を帯代わりの紐までまくり上げて留めるやり方なのだけど、下半身は着物の下にフンドシのみなので、生尻を見せつけながら登る感じになる。
目魚さんもそうしたし、伊古金隊長も今まさに尻っぱしょって――いや、伊古金隊長も相当の筋肉自慢なので、大臀筋や太腿の筋肉を魅せつけている。
俺もぱしょるつもりだったが、なんかフッコ先輩の鼻息の荒さがイヤだったので、足縄を伊古金隊長へ戻し、そのまま駆け登ることにした。二本の木を交互にジグザグに跳びながら上まで。
思ったよりも簡単に、階段を登るような労力で木の頂点までたどり着く。
風に揺れる先端でバランスを取りながら、まずは歩いて来た方向を眺めると、確かに壁が見えなくなっている。
ずっと森が広がっているだけ。
進行方向へ目を向けると、本当に山だ!
それも立派な山脈が遠くに見える。
たかだか1km内側に来ただけなのに。
ここは箱庭みたいな隔離された空間なのかと思っていたけれど、ハイイロたちの世界の端っこを歪めて「入口」として塔の形に無理やり収めた、そんな気がしてきた。
となると、いつかはハイイロたちの実家にたどり着いたりするのかな。
「本当に山だな」
伊古金隊長も登ってきた。
「ですね」
「いや俺、potentiaなめてたわ。足縄いらねぇな、これ。この力に慣れたら、外に戻ったとき体の重さに苦労しそうだな」
potentiaは心・技・体のそれぞれを底上げしてくれるが、それは塔内と、塔の外壁から64m範囲内、いわゆる聖域だけ。
64mというのは案外短い。建物や格納庫があらかた塔に呑み込まれた立川駐屯地だが、その近辺の聖域は敷地内に収まっている。
聖域内から投げたモノはpotentiaによって上昇した筋力で飛んでゆくが、一歩でも聖域外へ踏み出せば、元の増強なしの肉体へと戻る。
千島田たちに拉致られたとき、あの車が聖域外にあったら危なかったかも。
まあ、あの時点ではまだ情報も錯綜していたし、visを手に入れた側が塔か聖域の中に居ないとダメだって情報もあったようだから結果的に助かったけど。
「次の1km先の地点で登ったとき、この景色がどう変わっているか楽しみだな」
そう言い残して伊古金隊長が先に降りた。
続けて降りた俺を、フッコ先輩が待っていた。自分の着物の裾を軽く持ち上げて。
「私のお尻、見たい?」
そう囁くフッコ先輩と囁かれる俺を、自衛隊の皆さんは生暖かい目で見守っている。
もうすっかり俺たちが付き合っていると思いこまれている。まんまと外堀を埋められた感じ。
ただ俺の恋愛ゲージは、ちょっと冷めてきている。
スタイルはいいし、価値観とか友達としては申し分ない、というかもったいない。俺みたいな元引きこもりにとっては。
だけどやっぱり姉貴に心酔しちゃっているのと、俺に対しても純粋な愛情というよりは、姉貴の眷属としての崇拝みたいなものを感じるのが引っかかる。
「本当だ。いけるね」
伏猿さんがジグザグジャンプ方式で上手に登る。腹筋は見せても尻は見せない伏猿さん。
「見せずに登っている方がいますよ」
「ふーん」
フッコ先輩も同様に上手に登り始める。
伊古金隊長はさっきあんなこと言ったが、potentia以外にも肉体の成長は、俺に限らず皆についても感じている。
心の強化は感覚も研ぎ澄まされるせいか、わかるのだ。
もしかしたらpotentia有り状態での運動は、高負荷トレーニングに似た効果があるのかも。
ほら、この力こぶだって、塔に入る前の俺の腕より絶対に筋肉が育っている。
「教えようか?」
千島田が話しかけてきた。
最近は空き時間やこういう休憩時間になると対人格闘技を色々とレクチャーしてくれようとする。
皆の目もあるし、もう断るのは諦めている。それに殺気はもうなくて、なんというか『強くしたい』とか『育てたい』とかそういう感情が漏れ出ているのを感じるほど。
実際、教え方は丁寧で、着実に自分の対人格闘技術が向上しているのを感じる。
「よろしくお願いします」
関節技やその対処法を少し習っている間に千島田以外の全員が山を確認し終え、歩測が再開された。
2~5km地点ではそれぞれ変わったこともなく、山脈も相変わらず遠くに見えただけ。
唯一の発見は、メイサイヒョウ(仮称)の実物を見られたこと。
この森で特に気をつける動物の一種と、ハイイロたちから教えてもらっていたのですぐにわかった。
迷彩柄の六本足の豹のような姿で樹上に暮らすメイサイヒョウは、無駄なカロリー消費を避けるタイプ。
空腹にならない限りは襲ってこないが、襲うときは奇襲をかけるか、寝込みを襲ってくる。んで、敏捷性が高くて牙も爪も鋭い。
ヨツデグレイは森の中を歩くとき、頭上の『空腹』に注意して歩くという。
注意点を皆に伝え、迂回して無事に通り過ぎた。
6.1km地点ではなんと洞窟を見つけた。
しかも見るからに大きな生き物が入ってゆく。これ、事前にハイイロたちに聞いていた情報と合致するんじゃないか?
体高やサイズ感、雰囲気はかなり象に似ているが牙も耳もなく、長く太い鼻のように見えるそれの先が実は頭。尻尾は短いが、全体的なフォルムはゾウよりもむしろ恐竜のブロントザウルスに似ていなくもない。もちろん六本足。
「あのゾウモドキ(仮称)は、行動も地球のゾウに似て、こちらから攻撃をしかけない限りは襲ってきません」
その説明中、サルケンタウロス(仮称)まで洞窟へ入ってゆくのが見えた。
手足が六本あり、道具を扱うクモザルに似た生き物。普段は樹上を移動するが、地上を走るときは頭と上二本の手がついた上体を起こし、残り四本の手足で四足動物のように地面を走る。いつもは群れで行動するのに、ここへは一匹だけで来ている。
オアシスの湧き水のように複数の動物が集う場所、とくれば間違いない。
「詩真、今のも知っている動物か?」
伊古金隊長の問いかけにサルケンタウロスの説明も行う。
「もしかして彼らは共同で洞窟をねぐらにしているのか?」
「いえ、多分違います。恐らくは……」
「何? 知っているのか、詩真!」
このツッコミは目魚さん。この人、田平さん曰くけっこうオタクな人らしく、マンガやアニメのセリフをよく口にする。といっても俺のよく知らない古い作品が多いのでうまく反応できないけれど。
「はい。ヨツデグレイに教えてもらった情報からすると、ここへはおやつを嗜みに来ている可能性が高いです」
「おやつ? 嗜む?」
しまった。ハイイロが好んで使った表現をそのまま使ってしまった。
「摂取する必要がない栄養、というか……」
説明が難しい。
地球でもゾウが塩分欲しさに岩塩を舐められる場所へ赴くのは知っている。
ただヨツデグレイ情報によれば、そういう「体に必要なもの」とは違うらしいのだ。
「えっと。この洞窟は恐らく蝶鳥(仮称)の住処で、彼らの出す粉がゾウモドキにとっては美味しいらしく……ただ」
「ただ?」
「その粉を舐めた分だけ血液を吸われるようです。ギブ・アンド・テイクだそうで」
「吸血っ?」
「洞窟の外には滅多に出てこないようなので入って舐めなければ無害と言えそうです。ただその美味しさには常習性があるらしく、ヨツデグレイたちはそれを恐れて舐めない者が多いです」
「そこまで言われると舐めたくなるさー」
椰子間比嘉さんがごくりと喉を鳴らす。
実は、ハイイロの一族で唯一味わった祖父さんからその味を交信で教えてもらってはいる。
しょっぱさの中に甘さのある、あえて塔外の味に例えるならハッピー・ターンのあの粉に似ていた。
「常習性があるのなら危険性が高いな。それに舐めるとか吸血とか未知の病原菌に感染するリスクもある。洞窟も回避する!」
伊古金隊長の冷静な判断で先へと進むことになった。
蝶のような二対の翼で泳ぐように波打つように羽ばたく、というのは見てみたかったけれど。
ちなみに、初めて俺のネーミングが却下され「吸血マヤクドリ(仮称)」へと変えられた。
### 簡易人物紹介 ###
★ 探索Aチーム、右回り隊
・伊古金 世世紀
自衛隊員。男性。visは『筋力増強』。探索隊Aチームのリーダーにして右回り隊隊長。筋肉を見られたい派。
・国館川 詩真
主人公。現実より塔の方が居心地が良い。visは公的には『異世界通訳』。水筒と塩の救世主。歩測係。
・椰子間比嘉 良夢
自衛隊員。男性。探索隊B→Aチーム入り。色黒で元野球部キャッチャー。詩真のカウント係。
・伏猿 晶乃
自衛隊員。女性。マッチョ自慢で腹筋を触らせようとしてくる。歩測係
・中分地 富久子
フッコさん。亜貴の同級生で信奉者。タレ目の眼鏡美人(推定E)。詩真の境遇と趣味に理解と共感があり、告白された。visは『探査』。探索隊B→Aチーム入り。
・千島田 九純
自衛隊員。24歳男性。詩真を拉致し日本のためにと殺しかけたが和解(?)し、今では鍛えようとしてくる。全然笑わない。歩測係。
・目魚 武士也
自衛隊員。男性。ギョロ目。千島田のカウント係。オタクで、何かにつけ古いマンガやアニメのセリフを言ってくる。
★ 探索Aチーム、左回り隊
・歩長 絵麻子
自衛隊員。女性。『治癒』のvisを持つ。探索Aチームのサブリーダーにして左回り隊隊長。
・小馬 しづ
母の元同僚。姉以上にご立派(推定J)な童顔ゆるふわ女子。塔で遭難しかけてたのを詩真が助けた。探索隊B→Aチーム入り。歩測係
・阿知田 なのか
自衛隊員。女性。元ヤンの気配有り。しづのカウント係。
・火志賀 八真人
自衛隊員。男性。visは『火』。歩測係。
・田平 己輝
詩真の拉致に加担した、顔のパーツが中央に寄っている丸顔の自衛隊員。26歳男性。無類のおっぱい好き。火志賀のカウント係。なにかと詩真に情報を流す。
・新若 秀之
自衛隊員。男性。おっとりした感じ。歩測係
・梨川 泰陶
自衛隊員。男性。趣味は自転車と水族館巡り。新若のカウント係。
★ 探索Bチーム
・牟佐 信之
自衛隊員。男性。visは『布創造』。塔内の装備作りを一手に引き受ける。色付きの布も作れるようになった。
・国館川 亜貴
姉。羞恥心<探究心な姉。ご立派(推定G)。visは『雷』。
・伊薙 珠
元幼馴染(推定D)。話が通じない。すぐに変態呼ばわりしてくる。visは『闇』。
・ヨツデグレイ
いわゆるグレイに似た四腕の人型種族。交信能力を持ち、平和的で親切。子供には母乳ではなく素嚢で整えた甘い液を与える。
・ハイイロ
ヨツデグレイの若者。異邦人、詩真の世話係。日本語への理解と駆使ぶりがハンパない。銀色の球体に乗って帰郷した。
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「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。
もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。
純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく!
最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!
最弱スキル《リサイクル》で世界を覆す ~クラス追放された俺は仲間と共に成り上がる~
KABU.
ファンタジー
平凡な高校生・篠原蓮は、クラスメイトと共に突如異世界へ召喚される。
女神から与えられた使命は「魔王討伐」。
しかし、蓮に与えられたスキルは――《リサイクル》。
戦闘にも回復にも使えない「ゴミスキル」と嘲笑され、勇者候補であるクラスメイトから追放されてしまう。
だが《リサイクル》には、誰も知らない世界の理を覆す秘密が隠されていた……。
獣人、エルフ、精霊など異種族の仲間を集め、蓮は虐げられた者たちと共に逆襲を開始する。
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