最弱攻撃力スキルが実は最兇だったところで俺が戦いたくないのは変わらない

だんぞう

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#2 想定通りの攻撃力

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 俺は「壁」の中こっちで、このスキルっぽいものを手に入れた。まだ使い方をちゃんとは理解しきってないけれど。
 だとしたら同様に、姉貴たちも手に入れる可能性はあった――この空間がいったいどういうものなのか、とても気になるが、その考察に時間を割けるゆとりはない。
 恐らく今、視界を奪われたのは、そういうことだと思うし。
 しかし何をされたんだ?
 痛みはない。瞼を閉じても開いても視界は真っ暗闇。
 眼球もちゃんとある。
 ただ、自己中で攻撃的なたまだから、攻撃系のスキルを手に入れた可能性はあるよな。
 そう考えたのは、俺が手に入れたのが恐らくコミュニケーション系のスキルだから。
 性格とか「壁」の中こっちに来て最初の心境とかが影響してるような気がしてる――なんてのんきなこと言ってる場合じゃないんだよな。もしも今後一生視界を失うとかだったら冗談じゃないが、いくらクソ珠でもそこまではやらない――と信じたい。
 俺のときはコミュニケーションを欲したが、珠は自分たちの裸を見られるのを嫌がったから。とっさに相手の視界を奪う、とかなら、例えば状態異常みたいなやつとか?
 だとしたら効果時間は?
 珠がスキルの使用をやめたら治るか?
 試してみる価値はある。
『やめろよ』
 強い想いで拒絶を発する。もちろん対象は珠だ。さっきの位置から動いてなければ、だけど――視界が戻る。
 戻った!
 おおおおっ!
 助かった!
 珠が手に入れたスキルは視界を閉ざす効果があるっぽいな。
「どういうことだ? いま、詩真しまの頭が黒い球体のようなものに覆われたが」
 姉貴は隠しもせず、思索にふけり出す。
「私は眼鏡がないのでよく見えないけど、まさかここ、いわゆる異世界とか異空間的な場所?」
 眼鏡なし眼鏡さんが姉貴の陰に隠れる。
「あっ、よく見たら自分だけ服着てる! サイテー!」
 珠が我に返ってまたわめき出す。姉貴の後ろに隠れながら。
 姉貴と眼鏡なし眼鏡さんだけならこの空間についての考察とか建設的な話し合いもできただろうが、こいつがいたらダメだな。つーか、さっきの攻撃をもう一回くらうのは勘弁だ。
 少し下がって、木の陰に隠れる。
「隠したいならさっきのその黒いのとやらで自分の体でも覆ってりゃいいだろ!」
「みっ、見た分返せっ! この変態っ! 痴漢っ!」
 何言ってんだ? 相変わらず珠は話にならないし、語彙も少ない。
「ふむ。異世界に静電気、そして黒い球体。ここではそういう能力が使えるということなのか?」
 姉貴の声の直後、雷が落ちる音がした。というか落ちた――運良くなのか、狙ったのか、俺が隠れた隣の木にだが。
 つーか、折れてるじゃん、隣の木。煙まで燻って。
 俺の腕も落雷側の方は鳥肌が立っている。
 よく見りゃうぶ毛もチリチリしてる。
 おいおいおい。いま、危うく死ぬ所だったよな?
 勘弁してくれよ。
「詩真が静電気だから私も電気系の能力なのかとイメージしてみたが、思ったよりも危険な能力なんだな」
 キタコレ。
 いつものやつ。
 俺が始めたやつを姉貴が後から興味持って始めて、簡単に俺を上回る成績を叩き出すやつ。
 想定通りっちゃ想定通り。
 姉貴は俺TUEEE系何かやっちゃいました主人公だから。
 今までの人生で何度も何度も何度も味わったお決まりのパターン。
 もうヤダよ。
 なんで姉貴と違う高校まで受けたってのに、わざわざそっちから俺の人生に土足で踏み込んできやがるんだ。しかも姉貴の金魚のフンの頭ごなし敵意剥き出し女の珠まで。
 萎えた。完璧に萎えた。
 せっかくこの世界を楽しめるかもって思った矢先に、一番会いたくない二人が。
 ああ、もう諦めよう。
 さっき食べられる果実も見つけたし、俺は「壁」の中のこの不思議な世界ここに家出しよう。
「もう一つだけ忠告しておく。帰るときも全部消えるぞ。その壁を抜けるときは安易にモノを持つなよ。あと、何でもかんでも人のせいにすんなよ。胸ッ糞悪い!」
 捨て台詞を残して森の奥へと走り出す。
「待て! 詩真、どこへ行くっ!」
 姉貴の声が遠ざかる。さすがに追いかけては来ない。
 向こうは全裸だし、俺みたいに付近を探索済みなわけでもないし。
 しばらく走ると奴らの声は聞こえなくなった。
 これでいい。
 いつの間にかギスギスしてしまっているこのやるせない気持ちを自分の中から追い出したい――今まではだったらここでしばらく凹む時間を取らざるを得なかった。でも今は違う。
『フェアリーペンギン』
 以前、水族館で観たフェアリーペンギン。コガタペンギンともリトルペンギンとも言う。ニュージーランドやオーストラリア南部に生息する、名前通り小型のペンギン。こいつらが連なってヨチヨチ歩く後ろ姿が、小茄子の軍団に見えて滑稽可愛くて俺は大好きだ――人間以外の生き物はやっぱり癒やされる。
 記憶の中のシーンが、まるで今観ているかのように脳内再生される。
 俺のスキルを他人にではなく自分に使うと、その言葉にまつわる記憶が掘り起こされる――っぽい。検証は不十分だけど、今はこれで助かる。
 嫌なことは忘れて、前へ進もう。
 集中すると、景色が加速する。まるでVRゲームで高速移動しているみたいに。
 目の前に次々現れる樹々が、複雑に絡み合う蔦や、時々現れる大きな岩が、あっという間に後ろへと飛び去ってゆく――本当に飛んでいるように感じるほど、俺の一歩一歩が高く、歩幅が長い。
 きっとスキルをもらえただけじゃない。ステータス画面みたいなのは開かなかったけれど、きっと身体能力とかも格段に上昇している。
 人間離れした跳躍で森を駆け抜ける最高の疾走感。
 体の中の全細胞が、前へ向かって跳び続けることと、その道を探すことだけに一致団結している。
 この新しい世界に浸ろう。
 そうだ。会いに行こう。
 ピリリたちの所へ。



### 簡易人物紹介 ###

詩真しま
主人公。姉と珠のいつものムーヴに辟易し、「壁」の中あちらに家出を決意。

・姉貴
羞恥心<探究心な姉。ご立派。凄まじい雷の力を入手したっぽい。

たま
元幼馴染。話が通じない。すぐに変態呼ばわりしてくる。視界を奪う黒い玉を作れるようになったっぽい。

・眼鏡さん
姉貴の学校の人っぽい。良識も考察力もありそう。
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