最弱攻撃力スキルが実は最兇だったところで俺が戦いたくないのは変わらない

だんぞう

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#4 こいつ、食えるか?

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 俺はその『助けて』の飛んできた方向へと振り向いた。
 その方向がなんとなく分かったことにも驚いたが、緊急事態っぽいので検証は後回し。
 そこには何匹かのデンキトカゲ(仮称)たちが、紫色のジェルっぽい何かに包まれてもがいていた。
 救難静電気はその傍らに居る一匹から飛んで来たっぽい。
 この紫色のから出してほしいってことかな?
『助けて』
 気持ちはもうすっかり仲間である。
 とはいえ見るからに毒々しい紫色にどんな有毒成分が含まれているかもわからないし、冷静になってみれば俺は全裸だ。
 まあだからといって彼らを見捨てる理由にはならないが。
 付近の幅広の葉っぱを何枚か千切ってきて、それで拭い取るように紫色のジェルをこそいでみた。
 餅みたいな弾力はあるが、二枚の葉っぱで両側からつかみ割る感じでこそぐと、包まれていたデンキトカゲは頭を出してパクパクと口を開いた。
 呼吸困難だったのか?
 だとしたら急がないと!
 全身を綺麗に拭ってあげるのは後回しにして残り二匹もとりあえず顔だけ出してやった。
『感謝』
 その後改めて三匹の体を葉っぱで綺麗に拭ってやっている間に、あの紫色のジェルっぽいのはさっきのゴムガエル(仮称)が出したものだと教えてもらった。
 あのゴムガエルが天敵なのかと尋ねてみたが、その『天敵』という概念は彼らには伝わらなかった。
 どうやらこの静電気は、テレパシー的なものとは違うっぽい。
 何がどう違うのかは検証が足りないのだが、「伝えられる」というよりは「刺激されて感情やイメージが掘り起こされる」感じに近い。
 生物の体の中の様々な作用は電気信号で行われる。もしも今俺の中に出来上がりつつある仮説が正しいとしたら、この静電気みたいなやつはそれこそ脳波レベルでの伝達を可能とするコミュニケーションツールってことになる。
『食べる』『行く』
 二種類の情報が連続で伝わってくる。
 彼らはこうやって簡単な文章を作ることもできる。
 小動物だからといって侮るなかれ。つい先日、シジュウカラの会話を発見した言語学者の人の番組を観たけれど、明らかに文章っぽい鳴き声の組み合わせもあった。
 あちらは行動と鳴き声とで地道に統計を取っていらしたが、こっちはあくまでも「通じてる」と思っているだけではある。
 なんにせよ情報量が少ない。
 とりあえずは彼らの移動についていくことにしつつ、その道中もずっと彼らとコミュニケーションを交わし続けた。
 もちろん俺と彼らの脳の構造は違う。なんなら違う星、違う世界の生物の可能性が高いから、伝えられる感情やイメージもお互いにすれ違いっぱなしという恐れだってある。
 例えば彼らの中の『怒り』という感情に関わる脳の領域が、人間の脳では『喜び』に関わる領域だとしたら。
 まるですれ違いコントみたいに俺はずっと彼らの怒りを感謝だと受け止めている恐れだったあるのだ。まあこれは極端な例だけど。
 だから今、彼らが伝えてくれていることを俺なりに解釈している情報は、あくまでも「と思われる」を必ずつけなくてはいけない。
 彼らが『同じ』『生まれ』であり、『一緒』に『生きる』状態である、ってことも、「と思われる」なのだ。
 これはゴンズイのゴンズイ玉みたいに、兄弟が集団で行動することで身を守っている生態なのかもしれないし、俺の解釈違いかもしれないってわけ。
 あとあのゴムガエル(仮称)との関係もよくわからない。
 天敵とか捕食関係かと思ったのだが、どうやら『食べられる』ことについて、今回は時期が『違う』だけで、やがて『食べられる』が『正しい』となる時期が訪れるっぽいんだよな。
 ちなみに、『毒』という表現についても彼らにはちゃんと伝わっていないっぽい。
 彼らの生活の中に毒を持つ動植物は存在しないのかもしれないし、そもそも彼らの価値観の中の『毒』へ、俺から発する静電気がちゃんとヒットできていないだけかもしれないし。
『食べる』
 デンキトカゲたちが立ち止まったのは、森の中にぽっかりと空いた真っ黄色い原っぱだった。
 学校の校庭くらいの広さに、原色の黄色いふさふさがついたススキみたいな草がわーっと並んでいる。
 時折吹き抜ける風が、その黄色い表面に波の模様を作るのがとても綺麗な場所。
 デンキトカゲたちは各々がそのススキみたいなのによじ登り、ススキの穂みたいなふさふさ部分を、下の方から食べ始めた。
 地球の日本のススキに比べると、茎がやけに太い。
 試しにそのふさふさを一つ手にとってみる。種の大きなたんぽぽの綿毛という印象。
 少しだけ齧ってみると、独特の香り――こういう香辛料があった気がする。カレー屋のレジ横の小皿に置いてあるやつ。
 うん。まあ、空腹は満たされない。
 というか余計に腹が減る。カレーのことなんて思い出してしまったから。
『食べる』『探す』
 俺が食べられるものを探す、と伝えたつもりだが通じているかは疑問。彼らはキイロススキ(仮称)に夢中。
 そんなときだった。甘い香りに気付いたのは。
 まるで桃みたいな香り。
 その香りの方へと向かうと、森とキイロススキとの境界付近に一本の大きな樹があった。
 明るいピンク色の大きな実を幾つも付けている。
 気になる。
 食べられるだろうか。いや、もう食べたい気持ちになっちゃってる。
 さっき、デンキトカゲたちに毒の概念が伝わらなかった、というなんとも心細い根拠一つで俺はその果実の一つに手を伸ばした。
 驚いたことに、その伸ばした手の中に、取ろうとした果実がポトリと落ちてきた。
 罠?
 にわかに不安になったが、もしかしたら静電気みたいに念動力みたいな能力も俺の中に実は備わっていて、その力で果実を取り寄せたのかもしれない、と自分を無理やり納得させて果実の皮を剥いた。
 甘い香りが濃くなる。
 たまらなくなってかぶりつく。
 桃じゃん!
 これ、桃だよ!
 中心に大きな種があるところも一緒。
 思わず何個か続けざまに食べてしまった。
 ちょっと気持ちが落ち着いたので、五つ目のモモモドキ(仮称)は食べずに手のひらに乗せたまま、デンキトカゲたちの所へと戻る。
 そこで驚きの光景を目にした。



### 簡易人物紹介 ###

詩真しま
主人公。姉と珠のいつものムーヴに辟易し、「壁」の中あちらに家出を決意。静電気コミュニケーションを習得したっぽい。

・デンキトカゲ(仮称)
静電気を介してコミュニケーションを取っているっぽい六足トカゲ。知能が高そう。黄色いススキっぽいのを食べる。
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