最弱攻撃力スキルが実は最兇だったところで俺が戦いたくないのは変わらない

だんぞう

文字の大きさ
7 / 38

#7 観察記録 その1

しおりを挟む
 身体能力がちょっと上がっている気がするんだけど、いわゆる「ステータス」みたいなのは出し方がわからない。
 そもそもそういうものが存在するのかどうかも不明だし。
 なんでそんなことを考えたかというと、新種生物を発見した興奮で最初は気付かなかったが、この「壁」の向こう側って異世界なのかもしれない、という可能性に今さらながら気付いたから。
 この「壁」自体だって謎だし。
 「壁」は、通り抜けようとした俺以外、本当になんでも消えちゃうっぽい。口に入れたり、食べた直後に「壁」を抜けると胃袋が空になった感覚を受けるぐらい徹底している。
 ということは義歯みたいなのも消えるのかな?
 検証者である俺に虫歯がないのでそこはわからないけれど、もしもペースメーカーとか付けていたら厳しいことになりそう。
 消えるのは身につけているものだけじゃなかった。
 胃の中のものも食べてすぐだと「壁」を超えた時点で消えるっぽい。満腹感があっという間に空腹感に変わったからだ。
 「壁」の向こうあっちで食べた後かなり長いこと過ごしてからだと「壁」を超えても空腹感はそんなにぶり返してこなかったから、例えば体に吸収されちゃったりすると、一緒に超えられるのかもしれない。
 それ以上のことはわからなかったので、「壁」自体への検証はこのへんで中断。
 次は「壁」の向こう側について。
 靴の材料も見つけた。
 あの着火剤として優秀だったシラカバモドキの樹皮だけど、剥がしたてだと内側がしっとりしてて、足の裏にあててヒモツタで足に縛り付けると、滑りにくいサンダルになった。
 裸足が土で汚れても「壁」を抜ければ消えるんだけど、地面の尖った石や枝に対しては十分に心強い。
 生物の新種もさらに発見した。
 まずはゴムガエルの新色。
 ピンクと黄色の個体なんだけど、そいつらの吐き出すジェルっぽいものは、最初に見た水色のと同じ紫色だった。
 なんで小学生用の雨具みたいなカラーリングなのかはわからない。
 生物の色や形、そして生態には必ず理由があると感じている。
 それはその生物が種として育ってきた環境や歴史の痕跡だと思うからだ。
 フラミンゴの体色ピンク色は、彼らの食べているものに含まれている色素のせい。だからもしかしたらゴムガエルはデンキトカゲ以外にそういう色のものを食べている可能性も考えられる。
 食べるといったら次は、ハネイモムシ(仮称)。
 こいつはデンキトカゲが捕食する、半透明の芋虫っぽい生き物。
 透明な翅で空中をゆっくりと移動する。腹脚のようなものが12対あり、体長は10cmほど。
 その狩猟がとても興味深かった。
 まずピリリたちが『空腹』の情報をハネイモムシの群れへと送る。
 するとそのうちの何匹か――見た感じ、全体の中では比較的小さな個体が何匹か、ピリリたちの所へとやって来る。その一匹ずつにピリリたちは複数体で食らいつく感じ。
 そして面白いのは、他のデンキトカゲの群れが近づいてきたとき、先に捕食していたピリリたちが他の群れとハネイモムシとの間に割って入った。
 やがて他の群れは去って行き、ハネイモムシたちもどこかへ飛んでいった。
 地球の自然界では見たことがない不思議な光景。自分たちの捕食対象を他の群れから守るだなんて。
 地球では獲った獲物自体を横取りしようとすることは珍しくないが、他の群れは静かに去っていった。
 なんというか食物連鎖全体がバランスを取っているような印象を受けた。
 次に見つけた新種は、ピリリたちに次ぐ可愛さのやつ。
 サンボンミミ(仮称)は、モモモドキの樹に棲んでモモモドキを食べる小動物。
 体長15cmほどで、リスくらいの大きさだが耳だけウサギみたいに長い。
 しかも尻尾も耳と同じ形状で、おしりからもウサギ耳が生えているみたいに見える。
 手足は六本で、それぞれの手足の間には皮膜のようなものがあり、滑空する。
 滑空の際、耳と尻尾はくるっと丸めて棒のように閉じているんだけど、ブレーキ代わりに開くことがある。
 また、この三つの耳と尾は三方向へと広げて、高いところからくるくる回りながらゆっくり落ちることにも使ったりする。
 あと異世界モノと言えば定番のスライムみたいなのも見かけた。
 平べったい胴体に猫みたいな形状の頭が乗っかっている感じ。この状態ではメンダコにちょっと似ている。
 なのに移動するときは六本の足をにゅっと出して立ち上がる。そして六本足の猫みたいに歩く。
 地球の猫も液体って言われてるけど、こいつはさらに液体みがすごい。なのでミズネコ(仮称)と呼んでいる。
 サンボンミミは静電気で話しかけても警戒心が強いのか隠れてしまったが、このミズネコのほうは寄ってきた。
 そんで手のひらとか舐めるんだよね。性格は犬っぽいのかも。
 ただ、あんまりのんびり舐めさせ過ぎると、指紋が消えかけたので、油断はしちゃいけない危険生物かもしれない。
 枝を投げると嬉しそうに取りに行って、くわえて、というか体の中に埋めて戻ってきた。
 何度かそれをやって最後にすごく遠くまで投げた隙にその場を離れた。
 ピリリたちに尋ねると、ミズネコは縄張りから外に出ないらしく、自分より小さな生き物なら『食べる』ということがわかった。
 当然、ピリリたちはミズネコの縄張りへは近寄ろうとはしなかった。
 そうそう。
 ピリリたちとのコミュニケーションはさらに回数を重ねた。
 最近の気付きは、彼らが人称を気にしないってこと。いつも群れで行動しているから、なのかな?
 ピリリたちにも巡回する縄張りのようなものがあり、その外側へ俺が行こうとしたときにはついてこない。
 あと『ひとり』という概念を伝えると、しばらく行動を別にしてくれるようにもなった。
 このコミュニケーションは、トイレのときに重宝した。
 とにかく静電気能力は便利だった。
 自分自身に静電気で単語を送ると、その単語についての一番の思い出が脳内再生されることにも気付いたし、森の中でも方向が常に分かるせいか迷うことはなかったし。
 地球こっちでは恐らく三十分くらいしか経っていないけれど、体感ではまる一日以上「壁」の向こうで観察に没頭できた。
 そういや向こうはずっと明るいままだった。一日の長さが違うのか、それとも白夜みたいな状況なのか、わからないけれど。
 俺はこうして本当に楽しみつつ興味深い時間を過ごした。
 あまりにも夢中になり過ぎて、すっかり油断していた。
 だから、姉貴たちに遭遇したとき、すっかりうろたえてしまったのだ。



### 簡易人物紹介 ###

詩真しま
主人公。姉と珠のいつものムーヴに辟易し、「壁」の中あちらに家出を決意。静電気っぽい能力を手に入れた。

・姉貴
羞恥心<探究心な姉。ご立派。凄まじい雷の力を入手したっぽい。

たま
元幼馴染。話が通じない。すぐに変態呼ばわりしてくる。視界を奪う黒い玉を作れるようになったっぽい。

・眼鏡さん
姉貴の学校の人っぽい。良識も考察力もありそう。

・デンキトカゲ
静電気を介してコミュニケーションをとる六足トカゲ。ヌノススキの穂やハネイモムシ(仮称)を食べる。一番懐いている個体に「ピリリ」と名付けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

裏切り者達に復讐を…S級ハンターによる最恐育成計画

みっちゃん
ファンタジー
100年前、異世界の扉が開き、ハンターと呼ばれる者達が魔物達と戦う近未来日本 そんな世界で暮らすS級ハンターの 真田優斗(さなだゆうと)は異世界の地にて、仲間に裏切られ、見捨てられた 少女の名はE級ハンターの"ハルナ•ネネ"を拾う。 昔の自分と重なった真田優斗はハルナ•ネネを拾って彼女に問いかける。 「俺達のギルドに入りませんか?」 この物語は最弱のE級が最強のS級になり、裏切った者達に復讐物語である。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

最強のチート『不死』は理想とはかけ離れていました ~ 人と関わりたくないので史上最強の家族と引きこもりを目指したいと思います

涅夢 - くろむ
ファンタジー
何をやってもうまくいかなかった前世。人間不信になってしまった超ネガティブ中年。そんなおっさんが転生時に見つけてしまった「不死」という能力。これで悠々自適なスローライフが確実なものに……。だがしかし、最強のチート能力であるはずの「不死」は理想とはかけ離れていた。 『え!?なんでワカメ!?』 うっかり人外に身を落としてしまった主人公。謎の海藻から始まる異世界生活。目的からかけ離れた波乱万丈の毎日が始まる……。 いくら強くなっても不安で仕方ない。完璧なスローライフには憂いがあってはならないのだ!「創造魔法」や「寄生」を駆使して生き残れ! なるべく人と関わりたくない主人公が目指すは「史上最強の引きこもり」 と、その道連れに史上最強になっていく家族の心温まるほっこり生活もお送りします。 いや、そっちがメインのはず…… (小説家になろうでも同時掲載中です)

無属性魔法しか使えない少年冒険者!!

藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。  不定期投稿作品です。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

最弱スキル《リサイクル》で世界を覆す ~クラス追放された俺は仲間と共に成り上がる~

KABU.
ファンタジー
平凡な高校生・篠原蓮は、クラスメイトと共に突如異世界へ召喚される。 女神から与えられた使命は「魔王討伐」。 しかし、蓮に与えられたスキルは――《リサイクル》。 戦闘にも回復にも使えない「ゴミスキル」と嘲笑され、勇者候補であるクラスメイトから追放されてしまう。 だが《リサイクル》には、誰も知らない世界の理を覆す秘密が隠されていた……。 獣人、エルフ、精霊など異種族の仲間を集め、蓮は虐げられた者たちと共に逆襲を開始する。

処理中です...