最弱攻撃力スキルが実は最兇だったところで俺が戦いたくないのは変わらない

だんぞう

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#11 帰りたくない

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「ここらへんでいーい?」
「いいんじゃないですかね」
 しづさんは最後の種を柔らかそうな地面の上へと落とし、かかとでぐっと土の中へめり込ませた。
「それで最後ですよね。じゃあいったん手とか洗いに行きましょう」
詩真しまくん、地図が頭に入ってるんだねー。すごいすごい。私なんかー、こっちだと思った方向、たいてい真逆なんだよねー」
 再びしづさんを抱きかかえ、近くにある小川へと移動する。
「冷たっ」
 しづさんは川の水を両手ですくって、俺の方へとかけてくる。
 「壁」の中こっちの気温は、昼間で多分27℃くらい。肩と脇腹丸出しの貫頭衣でもそんなに気にならない。でも夜はもうちょっと冷え込んで、特に脇腹に川の水がかかるとヒャッてなる。
「ちょっ、冷たいですって」
「うふふー」
「しづさん、遊んでいる場合じゃないですって」
「……だってー」
「だって?」
「これが終わったらー、あとはもう帰るんでしょー?」
「そりゃそうですよ」
「名残惜しいっていうかー。一人の時は不安と空腹でぺしゃんこになりそうだったけど、今は詩真くんいるし、もうちょっと冒険してみたい気持ちが、ね」
「ね、じゃないですよ」
 しづさんはご立派なのに無防備過ぎて、連発される衝撃的なラッキースケベシーンの記憶を俺は自身への交信で片っ端から薄れさせ、なんとか冷静さを維持できている。
「ほら、早く行きますよ」
「ちぇー」
 そう言いながらもしづさんはちゃんと俺の首にしがみついてくれる。
 幾度となく押し付けられる感触に俺が耐えていられるのは、しづさんの事情を知っているから。
 しづさんは短大卒業後、最初に勤めた会社で今どきあり得ないパワハラ&セクハラを受けて半年もたずに会社を辞めた。しばらく引きこもって、お腹が空いて買い物に出かけた先で当時レジを打っていたのがうちの母だった。
 母さんはしづさんのお財布に付いていた小さなアクセサリーをほめると、しづさんが泣き出してしまって、ちょっとした騒ぎになった。
 しづさんと母はいったんお店のバックヤードへと移動することになり、そこで母さんは心が傷ついていたしづさんを肯定しまくり、慰めまくり、その晩の我が家の夕飯に呼んだ。
 それ以来、しづさんは最低でも週一でうちにご飯を食べにくる。しづさんがそのスーパーで働けるようになり、母さんがスーパーで働くのを辞めた今でも。
 きっと俺のことは弟みたいに思ってくれているんだと思う。
 よりによってセクハラで傷ついた人に対して、家族同然に想ってもらっている俺が、どんなことがあろうとも不埒な反応を見せるわけにはいかない。
 もしそんな事情を知らなかったとしても、見ず知らずの人だったとしても、同じだ。
 デキる姉を持った弟というだけで、今までの人生の中でどれほど理不尽にディスられてきたか。罪の意識も持たずに軽口で人を傷つけるあいつらみたいには、俺は絶対にならない。
「詩真くん?」
「もうすぐ、ですよ。ほら、到着しました」
 目的の「壁」の手前。
 姉貴たちの姿は見当たらないことにホッとする。
「まだ夜は明けないんだねー」
「ですね」
 しづさんを地面へと降ろし、ランプで地面を照らす。
「ここに三つ、石が置いてあるとこから進むと、うちのリビングに出ます」
「へぇー」
「でね、注意事項としては、この壁をどちらから抜けても身につけているモノが全部消えます」
「あー。だから私ー、裸になっちゃったんだねー」
 しづさんは朝からスーパーで開店準備をしているところにこの「塔」ができて、政府から緊急事態宣言が出されて帰宅することになって、念のためにとちょっと買い込んだものを自転車の前カゴへ移す際、カゴよりもエコバッグの方が大きかったせいで中身がちょっとこぼれてしまい、そのうちの一つ、ジャガイモを追っかけて「壁」にうっかり触れたら、出られなくなったとさっき聞いた。
 俺も実験で「壁」へ一度入った部分を抜くことはできない、というのは確認している。
「その服は脱いだら、壁を抜ける前にあそこの枝にでもかけて、その紐で縛り付けておいてください」
「あっ、そうか。消えちゃうんだっけ」
「そうなんですよ。で、向こう側は、食洗機の前に俺の着替えとか置いてあるんですけど、着ちゃっていいです。洗濯した後まだ着てないやつだから、安心してください」
「それは嬉しいけどー、そしたら詩真くんは何着るの?」
「俺は行きません」
 その言葉はすんなりと口から出た。
 ずっと考えていた。
 偶然とはいえこの世界を訪れたことについて。
 俺はもしかして生まれて初めて、姉貴に後追いされても追い越されないで済むものを見つけたんじゃないかって。
 姉貴は凄まじい攻撃能力を手に入れた。俺の交信能力の静電気とはまるで違う。でも、だからこそ、ピリリやヨツデグレイさんたちとコミュニケーションができた。
亜貴あきちゃんとケンカとかしたのー?」
「そうじゃないです」
 俺はいま、この世界のことをもっと知りたくて、調べたくて、たまらない。
 だから、帰りたくない。マイナスの感情ではなく、プラスの感情から。
「えっと、俺、こっちで色々と珍しい動植物見つけて、ちょっと調査が楽しくなっちゃって……キッチンとこの服の横に置いてあるノート、見てもらえればわけると思うんですが、さっきの桃っぽい樹のこととか、こっちで出遭った動物のこととか書き溜めているんですよ」
「へー。すごいねー。それ私が見てもいいのー?」
「もちろんです。で、もうちょっと調べてみたいんですよね。当然、危ないところには近づいてないし、衣食住もそれなりに確保できているしで、母さんたちには心配しないでほしいって伝言お願いしてもいいですか?」
「いいよー。陽乃ひのさん、長野に絵本の取材旅行だっけ? お姫様みたいに助けてもらったって言っておくー」
「じゃ、今の服も脱ぐでしょうから、席外しますね」
「裸、見たかったら……詩真くんなら、見てもいいのよー?」
 危ねっ。さっき記憶を薄れさせておいたおかげで頭に浮かんだのはハダカデバネズミ。一応、尊厳は保てた。
「か、からかわないでくださいよ。ここ、無害な生き物ばかりってわけでもないので、ちゃんと壁抜けて戻ってくださいね」
「詩真くんも気をつけてねー」
「はい」
 それだけ言うと俺はその場を後にした。
 交信でしづさんの感情をギリギリキャッチできる距離まで離れ、その感情が消えた、つまり「壁」の向こうへと帰ったのを確認してからランプだけ回収し、ヨツデグレイさんたちの村へと向かう。
 このときの俺は自分のこの行動を単純に、母さんの取材旅行や、研究者がアマゾンとかマダガスカルとかに調査に出かけるのと同じレベルで考えていた。
 まさか「壁」の外側があんなことになっているだなんて思いもせずに。



### 簡易人物紹介 ###

詩真しま
主人公。「壁」の中あちらの調査に夢中。交信能力を手に入れた。ヨツデグレイに「えーっと」と呼ばれる。

・姉貴
羞恥心<探究心な姉。ご立派。凄まじい雷の力を入手したっぽい。

小馬こうま しづ
母がスーパーで働いていた時代の同僚。アクセサリーを作っている。姉以上にご立派な童顔ゆるふわ女子。二十一歳。

陽乃ひの
母。近所のスーパーで働いていた。絵本を作っている。長野の方へ取材旅行中。しづさんを夕飯によく連れて来る。

・デンキトカゲ
交信能力を持つ六足トカゲ。ヌノススキの穂やハネイモムシを食べる。一番懐いている個体に「ピリリ」と名付けた。

・ヨツデグレイ
いわゆるグレイに似た人型種族。ただし腕は四本。交信能力を持ち、平和的で親切。若い個体は好奇心が旺盛。
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