妖怪奇譚【一話完結短編集】

だんぞう

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窓から覗いてるヤツ

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「なぁ、ちょっと来てくれてよ」

「またですかぁ」

 一応は笑顔を作って部長の席へと向かう。
 今度は何でしょうね?
 いっつもいっつもアレがわからない、コレがわからない、とけっこう簡単なことをお聞きになられます。
 「俺はITオンチだから」と宣言しておけば、他人に聞きまくっても問題ないって開き直ってんだよな。
 自分の部下がそんなこと言ったら、きっと勤務時間外に勉強しろとかおっしゃるでしょう?
 なんで自分だけ特別なのかな。
 こないだなんて「必要」が変換しないとか言い出して、確認のために実際に入力していただいたら「しつよう」って入力してんの。
 江戸っ子か!
 まぁ実際、下町育ちらしい。
 「あれ? 俺がガキん頃はこれでマルもらってたんだけどなぁ」とかおっしゃってましたし。
 結局そのときは「しつよう」が「必要」に変換するようユーザー辞書登録してさしあげたし、そのエピソード自体は仲間うちの飲み会でいい肴にもなったけどさ。
 だけどいい加減、僕を呼ぶのはやめてほしい。
 毎回毎回はそりゃちょっとだけですよ。でもね、塵も積もればなんですよ。
 地味に仕事のペース乱されるし。
 そろそろ日頃の感謝の気持ちを込めて現金でもくださいよ――なんてこぼれそうになる鬱積した想いをぐっと飲み込み、部長のパソコンを横から覗き込んだ。

「これ何だと思う?」

 部長が指した画面には、表計算ソフトが200%倍率で拡大表示されている。
 そしてその各セルの一つ一つに目があって、その一つと目があった。
 うん。
 目。
 え?
 目?

「なんかこっち見てますね」

「だろ? 昼休み終わったら急に出てきてさ。お前、なんかした?」

「すっ、するわけないでしょう! だいたい僕、部長の画面ロック外すパスワード知りませんから」

 それにしても本当に何?
 なんかキョロキョロしているのもいるし、まばたきしているのもいる。
 GIF画像?
 新手のウィルス?

「もしかして部長、なんか変なメールとか開きました?」

「……いや……そんなことねぇと思うだけどなぁ……」

 この歯切れの悪さ、こりゃやってんなぁ?
 一応、会社パソコンに搭載されているブラウザからは、変なサイトとか見れないようフィルタかかっているはずだけど。

「こういうのは下手に触っちゃダメです。今、セキュリティ担当の人呼んできますから」

「いやでも目をクリックすると消えるんだよ」

 触んなっつーの!

「触ったらダメですってば!」

「いやでも……見てるんだよ、俺を……見てんなよ」

 ちょちょちょ……変なおクスリとかやってらっしゃいます?

「見んなよ! こいつっ! こいつっ! こんちくしょうめっ!」

 部長の声とマウスをデスクに叩きつける音だけが、シーンと静まり帰った部屋の中に響く。
 いつの間にか部長がヤバい目つきになっている。
 マウスを扱う手も肘も肩もやけに大きく振り回しながら。
 物理的にも精神的にも近寄りがたい雰囲気。

「見るなっ! 見るなっ! 見るなっ! 俺たちを見てんじゃねぇっ!」

 モニターを拳で殴りつけ始めたので、さすがにこれ以上はと周囲も慌てて止めに入り、誰かが呼んだ救急車でそのまま搬送されることになった。
 救急車を見送った後で、皆ぐったりして仕事場へ戻ると、ちょっと鼻にかかる喋り方が特徴的な後輩ちゃんも部長と同じ症状になっていた。
 女性は羽交い締めにするの大変。
 セクハラ呼ばわりされたくもないし。
 でもまあ状況が状況だし、本人は正気を失っているっぽいし。

「というか、一緒の救急車に乗ってけばよかったのに」

 なんて皆が敢えて黙っていた周知の事実を口に出しちゃった奴がいたけど、特に問題にもならなかった。



 後日、部長と後輩ちゃんはそれぞれ一身上の都合で退職した。
 部長、家のローン残ってただろうに、奥さんになんて言い訳したのかな。
 そんなことより皆の話題はあの目の方に移っていた。
 セルの一つ一つに目があったことから妖怪の目目連なんじゃないかとか盛り上がったが、結局正体は分からずじまい。
 二人のパソコンも処分されちゃったみたいだし。
 誰かが「今は障子なんて少なくなっているから、OSの窓にでも住処を移したんですかねぇ」とうまいことを言ってこの話題も終了した。

 ただこの事件をきっかけに、社内の不倫していた連中がこぞって関係を清算したらしいけど、それはまた別のお話。



<終>

目目連
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