闇鍋【一話完結短編集】

だんぞう

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【日常】殿、一大事です!

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「殿! 申し上げます!」 
  
「どうした?」 
  
「冷蔵庫の中のびぃぃぃぃぃる!」 
  
「ま、まさか?」 
  
「左様です! ありません! まったくもって!」 
  
「ぬぁぁんと! どうしてくれる! 俺がこの手に持った唐揚げは!」 
  
「つーか、あたしもまだガーリックトースト残ってる」 
  
「なんで冷えてないんだよ」 
  
「え、それあたしのせい?」 
  
「最後に呑んだ人ー」 
  
「いま、あたしたち」 
  
「くっ……いまじゃない。昨日、最後に呑んだ人ー!」 
  
「多分、殿ではないかと……」 
  
「くっ……無念……これまでかっ」 
  
「殿、その胸中ご察し申し上げます。しからば介錯を……」 
  
「ま、待つのだ! 拙者、これしきのことで諦めたりはせぬ!」 
  
「ほほう。では、どうすると?」 
  
「フフフ。富士の麓の風穴より持ち運びしこの『氷』を使うのよ!」 
  
「……お言葉ですが殿、それではびぃるが薄まりはしませんかのぅ」 
  
「たわけ! 薄まる前に呑むのじゃ!」 
  
「ならば殿、お手本を!」 
  
「くわっ!」 
  
「どうなさいました!」 
  
「謀反じゃ! 製氷機が謀反じゃ! なぜ、誰も居らぬのじゃ!」 
  
「こうなっては殿、最後の手段でございます」 
  
「ふむ。なんなりと申すがよい」 
  
「城下町へと赴き、民から巻き上げてくるのですよ!」 
  
「ほっほう。越後屋、お主もワルよのぅ」 
  
「殿! 殿はいつからお代官様に?」 
  
「ぬぬぬぬ。言わせておけば! 後で吠え面かくなよ?」 
  
  
  
  
  
「ひかえおろーう!」 
  
「殿! よくぞご無事で!」 
  
「うむ。くるしゅうない」 
  
「して、ご首尾は?」 
  
「うわーはは! うわーはは! うわーはは!」 
  
「おおっ! これは見事なこお……り?」 
  
「どうした? なんぞ不満でもあるのか?」 
  
「殿は、コンビニに行かれたのですよね?」 
  
「うむ。左様であーる」 
  
「冷えたびぃるを買ってくるという選択肢は」 
  
「ああああああああああああああああ!!!!!」 
  
「殿! ご乱心! ご乱心!」 
  
「かくなる上はこの腹かっさばいてお詫びを」 
  
「モツ刺しか? ふぅむ。やはりびぃるが必要でござるな」 
  
「止めてはくれぬのか?」 
  
「辞世の句、はよ」 
  
「ぬぬぬぬぬ! ないのなら 自分で買えよ ホトトギス」 
  
「ホーホケキョ! ホーホホホ! オーホホホ!」 
  
「なぬ?」 
  
「びぃるがなければワインを呑めばいいのよ!」 
  
「くっ……か、乾杯だ」 
  
  
  
  
  
(おしまい)
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