131 / 135
お題【時代遅れのミステリーサークル】
しおりを挟む
ミステリーサークルが見つかった。
そんなニュースに今どき騒ぐ一般人なんて居ない。
皆、PWの痕跡だって知っているから。
Past Watcher ――それは、過去に向かって飛ばす無人探査機。ボイジャーが外宇宙へと飛ばされたようにPWは時間軸を過去へと跳ばされた。
人類はタイムマシンをまだ発明できていないけれど、一方通行で過去へと遡り、当時の観測情報を現代へと送ることができる程度の機械は開発できているのだ。
というかもう普通に運用されている。
過去時空で観測を実施する際、周囲の生命体への悪影響が懸念されるため、運用できる場所には法による厳格な規制があるが、その観測範囲の広さのおかげでそこそこ田舎の何も無い場所からでもかなり重要な情報を測定できている。
観測の際にPWが描く痕跡にはルールがあり、その痕跡――いわゆるミステリーサークルを見れば、どのくらいの期間遡っているかが一目瞭然なのだ。
だから時折新たに出現するミステリーサークルは、現在よりも未来から来たPWによる観測なのだと、誰もが理解している。
しかし今回のミステリーサークルは違った。
界隈で大騒ぎになったのだ。
まず痕跡に示される値が、269億3141万5926年未来から来たことを示していた点。
そして痕跡にもう一つだけ刻まれている情報である観測したPWのバージョンが 1.0 だったこと。つまり世界で一番最初に飛ばされた一号機であるということだ。
これは過去と未来とがループしていないと発生し得ない事態だったのだ。
界隈の誰かがそれを公共メディアでうっかり解説してしまい、そこから世界中が大パニックになった。
ビッグバンは将来にも発生する、と。
例えそのループ仮説が正しかったにしても、過去でありそことつながる未来に発生するビッグバンは理論上、何億年も先の計算になるのだが、大衆は愚かだった。ノストラダムスの大予言に浮かれた1999年の人々よりも、ハレー彗星が終末をもたらすと大騒ぎした人々よりも。
自暴自棄になって自殺したり、暴徒化して店や他人を襲ったり、それを煽る愚かな大統領まで現れる始末。
結果的に、この「ミステリーサークル・ショック」が完全に沈静化するまでには半年もの期間を要し、一連の騒動での述べ死者数は1000人を超えた。
しかしそんな騒動も、やがて「過去」になる。
『あの頃は今』的な配信を観ていた妻がふともらした言葉。
「ねぇ、あのミステリーサークル、本当に遠い過去から一周した痕跡なのかな」
「え、それって捏造を疑ってる?」
「じゃなくって。人類は未来にも行けるタイムマシンを造っちゃったのかもって。過去から未来に突き抜けたんじゃなく、折り返してきて、なんなら未来の方にも行ってて折り返してたりしてって説」
「いや、痕跡を描く計算式に時間軸の遡行ベクトルを使用しているから、折り返したりしてたならあんな形にはならないんだよね」
「未来の人が新しいタイプの痕跡をスタンダードに定めた、とかは?」
「ちょっと厳しいかな。新しく何かをデザインするなら、過去の何かと混同してしまうようなのは避けるはず」
「ファッションだと時代遅れがまた最先端になったりすることあるけど、ミステリーサークルはならないんだね」
「フォーマットは合わせないとね」
「じゃあやっぱり、過去とつながった未来……なのかな」
「機械が故障していないと信じるならば、だけどね。既に通ってきた歴史というか過去を遡るのと、まだ来ていない未来の一つへ侵入するのとでは、根本的に理論が異なるんだよね」
「そっか。未来の一つ、なのね」
「無数の可能性がある未来のうちの、ね」
「数あってもあんまり役に立たなさげ。それにさ、タイムマシンで未来を見ることができたとしても、そうやって未来の情報が過去にもたらされることで、未来そのものが変わっちゃう可能性だって十分に……というか変わらない可能性の方が低そう」
「研究者の中には、神様があえてタイムマシンを作らせないようにしてるんじゃないかって言う奴も居るみたいでさ」
「あー、MCSとか見てたら、確かに」
「人類なんて、まだ確定していると決まっていない可能性を見ただけで前倒しに滅びそうだよ」
「お馬鹿さんが滅ぶのは自業自得で仕方ないかもとは思うけど、巻き込まないで欲しいよね」
「だね」
二人で笑って、その場は流した。
妻の言っていることはそう間違ってもいない。
本当にヤバい話はどんなことがあっても公共の場所になんか出てこないし、それに未来を知ってから行動を変えてしまうと世界はそこから分岐してしまうから。
並行宇宙はそうやって新設されるし、並行宇宙が増え過ぎることで宇宙が圧迫されて時空の空き容量が足りなくなって、ビッグバンのきっかけが早まりかねない。
特にこの人類って奴らにそんなテクノロジーを与えようものなら、らっきょうを剥く猿みたいに宇宙を延々と分岐させまくって、数億年先の未来を明日へと変えてしまいそうだからさ。
俺はもう少し、この一個の人間を観測していたいから。
妻は「なぁに?」って顔で振り向いて微笑んだ。
<終>
そんなニュースに今どき騒ぐ一般人なんて居ない。
皆、PWの痕跡だって知っているから。
Past Watcher ――それは、過去に向かって飛ばす無人探査機。ボイジャーが外宇宙へと飛ばされたようにPWは時間軸を過去へと跳ばされた。
人類はタイムマシンをまだ発明できていないけれど、一方通行で過去へと遡り、当時の観測情報を現代へと送ることができる程度の機械は開発できているのだ。
というかもう普通に運用されている。
過去時空で観測を実施する際、周囲の生命体への悪影響が懸念されるため、運用できる場所には法による厳格な規制があるが、その観測範囲の広さのおかげでそこそこ田舎の何も無い場所からでもかなり重要な情報を測定できている。
観測の際にPWが描く痕跡にはルールがあり、その痕跡――いわゆるミステリーサークルを見れば、どのくらいの期間遡っているかが一目瞭然なのだ。
だから時折新たに出現するミステリーサークルは、現在よりも未来から来たPWによる観測なのだと、誰もが理解している。
しかし今回のミステリーサークルは違った。
界隈で大騒ぎになったのだ。
まず痕跡に示される値が、269億3141万5926年未来から来たことを示していた点。
そして痕跡にもう一つだけ刻まれている情報である観測したPWのバージョンが 1.0 だったこと。つまり世界で一番最初に飛ばされた一号機であるということだ。
これは過去と未来とがループしていないと発生し得ない事態だったのだ。
界隈の誰かがそれを公共メディアでうっかり解説してしまい、そこから世界中が大パニックになった。
ビッグバンは将来にも発生する、と。
例えそのループ仮説が正しかったにしても、過去でありそことつながる未来に発生するビッグバンは理論上、何億年も先の計算になるのだが、大衆は愚かだった。ノストラダムスの大予言に浮かれた1999年の人々よりも、ハレー彗星が終末をもたらすと大騒ぎした人々よりも。
自暴自棄になって自殺したり、暴徒化して店や他人を襲ったり、それを煽る愚かな大統領まで現れる始末。
結果的に、この「ミステリーサークル・ショック」が完全に沈静化するまでには半年もの期間を要し、一連の騒動での述べ死者数は1000人を超えた。
しかしそんな騒動も、やがて「過去」になる。
『あの頃は今』的な配信を観ていた妻がふともらした言葉。
「ねぇ、あのミステリーサークル、本当に遠い過去から一周した痕跡なのかな」
「え、それって捏造を疑ってる?」
「じゃなくって。人類は未来にも行けるタイムマシンを造っちゃったのかもって。過去から未来に突き抜けたんじゃなく、折り返してきて、なんなら未来の方にも行ってて折り返してたりしてって説」
「いや、痕跡を描く計算式に時間軸の遡行ベクトルを使用しているから、折り返したりしてたならあんな形にはならないんだよね」
「未来の人が新しいタイプの痕跡をスタンダードに定めた、とかは?」
「ちょっと厳しいかな。新しく何かをデザインするなら、過去の何かと混同してしまうようなのは避けるはず」
「ファッションだと時代遅れがまた最先端になったりすることあるけど、ミステリーサークルはならないんだね」
「フォーマットは合わせないとね」
「じゃあやっぱり、過去とつながった未来……なのかな」
「機械が故障していないと信じるならば、だけどね。既に通ってきた歴史というか過去を遡るのと、まだ来ていない未来の一つへ侵入するのとでは、根本的に理論が異なるんだよね」
「そっか。未来の一つ、なのね」
「無数の可能性がある未来のうちの、ね」
「数あってもあんまり役に立たなさげ。それにさ、タイムマシンで未来を見ることができたとしても、そうやって未来の情報が過去にもたらされることで、未来そのものが変わっちゃう可能性だって十分に……というか変わらない可能性の方が低そう」
「研究者の中には、神様があえてタイムマシンを作らせないようにしてるんじゃないかって言う奴も居るみたいでさ」
「あー、MCSとか見てたら、確かに」
「人類なんて、まだ確定していると決まっていない可能性を見ただけで前倒しに滅びそうだよ」
「お馬鹿さんが滅ぶのは自業自得で仕方ないかもとは思うけど、巻き込まないで欲しいよね」
「だね」
二人で笑って、その場は流した。
妻の言っていることはそう間違ってもいない。
本当にヤバい話はどんなことがあっても公共の場所になんか出てこないし、それに未来を知ってから行動を変えてしまうと世界はそこから分岐してしまうから。
並行宇宙はそうやって新設されるし、並行宇宙が増え過ぎることで宇宙が圧迫されて時空の空き容量が足りなくなって、ビッグバンのきっかけが早まりかねない。
特にこの人類って奴らにそんなテクノロジーを与えようものなら、らっきょうを剥く猿みたいに宇宙を延々と分岐させまくって、数億年先の未来を明日へと変えてしまいそうだからさ。
俺はもう少し、この一個の人間を観測していたいから。
妻は「なぁに?」って顔で振り向いて微笑んだ。
<終>
0
あなたにおすすめの小説
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる