お題ショートショート【一話完結短編集】

だんぞう

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お題【時代遅れのミステリーサークル】

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 ミステリーサークルが見つかった。
 そんなニュースに今どき騒ぐ一般人なんて居ない。
 皆、PWの痕跡だって知っているから。
 Past Watcher ――それは、過去に向かって飛ばす無人探査機。ボイジャーが外宇宙へと飛ばされたようにPWは時間軸を過去へと跳ばされた。
 人類はタイムマシンをまだ発明できていないけれど、一方通行で過去へと遡り、当時の観測情報を現代へと送ることができる程度の機械は開発できているのだ。
 というかもう普通に運用されている。
 過去時空で観測を実施する際、周囲の生命体への悪影響が懸念されるため、運用できる場所には法による厳格な規制があるが、その観測範囲の広さのおかげでそこそこ田舎の何も無い場所からでもかなり重要な情報を測定できている。
 観測の際にPWが描く痕跡にはルールがあり、その痕跡――いわゆるミステリーサークルを見れば、どのくらいの期間遡っているかが一目瞭然なのだ。
 だから時折新たに出現するミステリーサークルは、現在よりも未来から来たPWによる観測なのだと、誰もが理解している。
 しかし今回のミステリーサークルは違った。
 界隈で大騒ぎになったのだ。
 まず痕跡に示される値が、269億3141万5926年未来から来たことを示していた点。
 そして痕跡にもう一つだけ刻まれている情報である観測したPWのバージョンが 1.0 だったこと。つまり世界で一番最初に飛ばされた一号機であるということだ。
 これは過去と未来とがループしていないと発生し得ない事態だったのだ。
 界隈の誰かがそれを公共メディアでうっかり解説してしまい、そこから世界中が大パニックになった。
 ビッグバンは将来にも発生する、と。
 例えそのループ仮説が正しかったにしても、過去でありそことつながる未来に発生するビッグバンは理論上、何億年も先の計算になるのだが、大衆は愚かだった。ノストラダムスの大予言に浮かれた1999年の人々よりも、ハレー彗星が終末をもたらすと大騒ぎした人々よりも。
 自暴自棄になって自殺したり、暴徒化して店や他人を襲ったり、それを煽る愚かな大統領まで現れる始末。
 結果的に、この「ミステリーサークル・ショック」が完全に沈静化するまでには半年もの期間を要し、一連の騒動での述べ死者数は1000人を超えた。

 しかしそんな騒動も、やがて「過去」になる。
 『あの頃は今』的な配信を観ていた妻がふともらした言葉。
「ねぇ、あのミステリーサークル、本当に遠い過去から一周した痕跡なのかな」
「え、それって捏造ねつぞうを疑ってる?」
「じゃなくって。人類は未来にも行けるタイムマシンを造っちゃったのかもって。過去から未来に突き抜けたんじゃなく、折り返してきて、なんなら未来の方にも行ってて折り返してたりしてって説」
「いや、痕跡を描く計算式に時間軸の遡行ベクトルを使用しているから、折り返したりしてたならあんな形にはならないんだよね」
「未来の人が新しいタイプの痕跡をスタンダードに定めた、とかは?」
「ちょっと厳しいかな。新しく何かをデザインするなら、過去の何かと混同してしまうようなのは避けるはず」
「ファッションだと時代遅れがまた最先端になったりすることあるけど、ミステリーサークルはならないんだね」
「フォーマットは合わせないとね」
「じゃあやっぱり、過去とつながった未来……なのかな」
「機械が故障していないと信じるならば、だけどね。既に通ってきた歴史というか過去を遡るのと、まだ来ていない未来の一つへ侵入するのとでは、根本的に理論が異なるんだよね」
「そっか。未来の一つ、なのね」
「無数の可能性がある未来のうちの、ね」
「数あってもあんまり役に立たなさげ。それにさ、タイムマシンで未来を見ることができたとしても、そうやって未来の情報が過去にもたらされることで、未来そのものが変わっちゃう可能性だって十分に……というか変わらない可能性の方が低そう」
「研究者の中には、神様があえてタイムマシンを作らせないようにしてるんじゃないかって言う奴も居るみたいでさ」
「あー、MCSミステリーサークル・ショックとか見てたら、確かに」
「人類なんて、まだ確定していると決まっていない可能性を見ただけで前倒しに滅びそうだよ」
「お馬鹿さんが滅ぶのは自業自得で仕方ないかもとは思うけど、巻き込まないで欲しいよね」
「だね」
 二人で笑って、その場は流した。
 妻の言っていることはそう間違ってもいない。
 本当にヤバい話はどんなことがあっても公共の場所になんか出てこないし、それに未来を知ってから行動を変えてしまうと世界はそこから分岐してしまうから。
 並行宇宙パラレルワールドはそうやって新設されるし、並行宇宙パラレルワールドが増え過ぎることで宇宙が圧迫されて時空の空き容量が足りなくなって、ビッグバンのきっかけが早まりかねない。
 特にこの人類って奴らにそんなテクノロジーを与えようものなら、らっきょうを剥く猿みたいに宇宙を延々と分岐させまくって、数億年先の未来を明日へと変えてしまいそうだからさ。
 俺はもう少し、この一個の人間を観測していたいから。
 妻は「なぁに?」って顔で振り向いて微笑んだ。



<終>
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