お題ショートショート【一話完結短編集】

だんぞう

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お題【青い炎】

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「ええ、青いでしょう。炎色については普通の炎や宇宙の星の色同様に、赤、オレンジ、青と変わるにつれ、よりハイカロリーになってゆきます」
 うなずく見学者たちの一人から質問が飛んだ。
 私のイヤホンには翻訳された質問が届く。
『色が変わると実際にはどの程度、発電効率が変化しますか?』
「発電効率ですか? そうですね、例えばあちらの青ですと、一時間あたりの燃焼で七世帯日分の通常電力を賄えます。七世帯の一日分、一世帯なら一週間分にあたるわけです」
 驚きのどよめき。
「ええ、ですから、今の日本には電力が皆様へお売りするほどあるのです」
 『是非とも我が国にも欲しい』という見学者の小さなつぶやきも自動翻訳されている。
『発電者によって発電量が異なると聞いていますが』
 あちらの実務的なトップの女性からの質問。
「お試しになられますか? では、こちらの個室へどうぞ」
 見学者向けの発電個室へと案内する。
 あちらの一番の若手と思われる眼鏡の青年が椅子に座り、何度か座り直してからこちらを見つめた。
「座り心地が悪いのは仕様でございます。発電者がリラックスいたしますと発電効率が悪くなってしまいますので」
『眼鏡や、スマホは着用したままでも問題ないですか?』
「問題ありません。そちらのヘッドセットを着用していただき、なるべく一種類の感情を思い浮かべてください」
『感情と言っても様々な種類があります。あなたの勧める感情はなんですか?』
「オススメの感情ですか? それは発電者により異なるところですが、先ほど見学していただいた発電者との発電量の差を実感していただくためにも、『憤怒』を試してみませんか。最近身の回りで起きた腹立たしいことを思い出してください」
『感情の内容はモニタリングされますか?』
「いえ、感情の波長を発電につなげているだけなので、何をお考えになられたかは一切よそへ漏れることはありません」
 眼鏡の青年は一瞬ホッとした表情を見せてから、両の拳をぎゅっと握りしめた。
 ヘッドセットの赤いLEDが点灯する。
 彼の眉間にシワが寄り、それがだんだんと深くなってゆく。
「ああっ、感情の炎が出ました! そのままその感情を維持して! 消えかかっています! もっと! もっとです!」
 青年は目を閉じ、握り拳に力を入れながら、ずっと口元を歪ませ続ける。
 だが、一分ともたずにLEDは消えた。
 青年はがっくりと肩を落とし、眼鏡を直す。
『私にとってこれを持続するのは困難だ』
「お疲れ様でした。発電量は一世帯換算で二分三十七秒分となります。初めてにしてはなかなかの発電量でございます。炎色もオレンジに達しておりましたし、素質がお有りなのかもしれませんね」
 見学者たちがまたどよめく。
 『少ない』と口々につぶやかれたのも翻訳される。
「いえいえ、少なくなんてありませんよ。彼らとお比べになってはいけません。彼らは熟練発電工ですので」
『熟練となるまではどんな訓練を受け、あれだけの発電量を維持できるようになるのか』
「こればかりは個人の資質に寄る部分が大きいので……あえて特別な訓練を行っている者は一人もございません」
『おお神よ』
『信じられません』
『あなたの国民は才能に満ちあふれています』
「ええ。確かにそのような熟練発電工は、我が国の総人口の一割を超えます」
『ここのシステムを誘致するにあたり、熟練発電工の貸出は行っていますか?』
「環境が変わると感情は変化します。なので同量の発電量を維持できるかどうかの保証はできかねますが」
『私も、国に戻れば発電効率が上がるかもしれない』と、眼鏡の青年。
「発電効率を上げるには、発電感情を単一のものに絞る必要があります。異なる方向性の感情が含まれた場合、発電効率は格段に下がります。過去にですが、熟練発電工だった者がいわゆるハニートラップで引き抜かれかけた事件がありました。ところがその熟練発電工はそのモテに幸福感を覚えてしまいまして、それ以前の発電量を生成できなくなり、熟練資格を返納せざるを得なくなったわけです」
『デリケートなのですね』
「ええ、そうです。彼らはああ見えても努力して熟練発電工の技術を維持しているのです」
『努力の内容を聞かせてもらえますか? 一例でも構いません』
「はい。例えば先ほど御覧頂いた発電者の例になりますが、発電中は常にSNSを眺め、彼女の意見に賛同しない書き込みに対して反応し続けることで最上級の『憤怒』発電を行っております」
「またその向かいで三人並んでいた彼らについては、彼らの推す地下アイドルへの課金量を競いつつ『嫉妬』発電に勤しんでおります」
『さきほど憤怒の感情が適していると聞きましたが、嫉妬の発電効率も良いものですか?』
「そうですね。『憤怒』と『嫉妬』の効率がずば抜けておりますね」
『七つの大罪が重要ということですか?』
「いえ、別にいわゆる七つの大罪と言われるものとは何の関係もありません。よく尋ねられるのですけれどね。『怠惰』や『傲慢』、『強欲』などでは感情発電の炎色が青に達した記録はございませんし、『暴食』では炎色が青色に達したものの、それは餓死寸前となった場合のみでして、人道的に問題があるとして我が国では禁止されております」
『色欲なら、私も自信があります』
 禿げ上がった小太りの中年が下品な笑顔を浮かべた。
「『色欲』については、ごくごくわずかな数ですが、熟練発電工になった者がおります。ただそう単純な話でもございませんで、達してしまいますとそこで発電終了となってしまい、発電効率がよろしくありません」
『持続が必要ということですか?』
「その通りです。ここだけの話、私も応募したことがあるんですよ。恋人と二人で……ムリでしたね。絶頂の手前を何時間も維持し続けるだなんて、とてもとても」
 今度のどよめきには落胆のため息が幾つも混ざる。
「『色欲』熟練発電工になるには、蔑みや放置をご褒美としてとらえることができる性質が重要となるようです」
 乾いた笑い声がちらほら。
 私は手をぽんと打つ。
「はい。ここまでご覧になっていかがでしたか? 原子力などとは比べ物にならないほどクリーンな発電方法だと言うことがご理解いただけましたか?」
『とても興味深かいです。ただ、誘致コストに見合うだけの発電量が我が国で得られるかどうかはまだ検討が必要です。詳細については後日改めて連絡させてください』
「了解しました。お疲れ様でした」

 見学者たちを見送ったあと、一緒に案内していた同僚が吐き捨てるように言った。
「まあ、我が国の熟練発電工はお国柄みたいなもんですからね。湿度の高い風土のなか、古くより閉鎖的な社会を形成し、その中で一部の特権層だけを優遇し、国民が満足してしまわぬよう労働賃金を抑え続け、それでいて為政者とその身内は甘い汁を吸っていることをチラ見せしながらさらには酷い税金をかけつつ、その税金の使用先は不透明な身内にばかり流れ……そういうエリートコースでの熟練発電工教育を国民に施している国がどれだけあるかってことですよね」
 そんな同僚を私はたしなめる。
「もったいない。その感情をほら、今すぐ発電へ! きっと炎色は青になるよ!」



<終>
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