花のようなる天下のあるじ 鬼のようなるつわもの連れて

ふじのぼる

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有馬

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「さあもう目を開けて良いぞ」全員が目を開けて驚愕する。
 先程まで大坂城近くの川のほとりにいたはずなのに、今の風景は完全に山の中である。
 秀頼がおびえたように「ここはどこじゃ?」とつぶやく。
「有馬の温泉地じゃ」果心は何でもないというように告げる。
 さすがの幸村もこれには呆然である。大坂城から有馬温泉だと十里(約40km)程あるはずだ。それを一瞬にとはどういう事だ?
「まあ昔、奈良の古寺で術式を書いた本を見つけ、それに少し手を加えて編み出した飛天縮地の術よ」
 どうじゃ!と言わんばかりに胸をそらす果心に(この男が合戦に加わっておればあるいは…)と一瞬恨みにも近い感情を抱いた幸村。
 それを見て取ってか「残念じゃがわしの術は戦には無用の長物じゃ、念を込めている間に斬りつけられればたまったものではないのでな」
 幸村はこの化け物の前で考え事は止めようと首をすくめた。
「で果心殿、これからどうするのじゃ?」
「何と!道頓めは何も言わずにおったのか!あの役立たずが」果心が気色ばむ。
「この温泉地の奥に『やまざくら』という名の宿坊がある。そこにある者が合流する手筈になっておるので、戦を逃れて湯治に来た商人あきんど一行というていにすれば良い」
「そのある者とは?」
「壁に耳ありと言うのでな、詳しくは湯に入った後にするとしよう」
 果心は三人を集め、九字を切りながら呪文を唱えた後『おん』と一喝する。
 首をかしげる三人に果心は「皆来ている物が上質すぎる。この術により他の者には少しくたびれた商人の出で立ちに見えるであろうよ」
 驚く三人をよそに「皆疲れておるであろうゆえ、風呂と飯をいただくとしようぞ」
 果心はすたすたと前を歩いて行く。
 三人はその後ろを周りに気を配りながら温泉街を歩いて行くのだった。

 ………

 秀頼・幸村・大助・果心はそれぞれ旦那・番頭・手代・ご隠居のていで宿に逗留する。この大戦おおいくさの後である、他の湯治客はなく貸切状態で何とも好都合だ。
 幸村は「旦那様、お先にお風呂をどうぞ。手代は旦那様のお世話をするように」「それではうえさ…旦那様こちらへ」大助も一瞬失敗しかけたが、なんとか持ち直して手代の役をこなしている。
 幸村と果心は食事の後に入浴するかと、隅にあった将棋盤を持ち出して一局対戦していた。状況を読むことにかけては一流の二人は互角の戦いを続けていたが、半刻はんとき(約一時間)過ぎた頃、廊下からパタパタと足音が近付いてくる。
 果心が「大助殿か、何やらよほど心を乱しておると見える」とつぶやいた時、障子がカラリと開いて血相を変えた大助が幸村に耳打ちをした。
「上様は…上様は女性にょしょうにござります!」
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