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陶酔
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「大願成就」「目出度たや目出度!」鳴り物とともに全ての演者が舞台から客席に降りてきて踊り出す。
観客も今までの興奮を爆発させて踊り狂う。
この当時は現代と違い娯楽がほとんどなく、このようなストレスが発散できる場があればそれに全て身を任せていたのである。一晩中盆踊りを踊り明かすというのがそれ。
なんと杖をついて跛を引いていた年寄りまでが手放しで踊りまくるのである。
新田義貞役のお鉄も扮装を落とし、普通の裏方の格好にして踊りに加わっている。
初回の公演で、余りの憎々しげな演技に腹を立てた観客から最後の踊りの場面で蹴飛ばされてしまって以来このようにしているのだが、踊りを辞めるという選択肢はないようだ。
お鉄曰く、「こんな極楽浄土とはこれかと思わせるような場面に加わらないほうがおかしい!」ということだそうな。
老若男女が熱狂的に二刻(約四時間)余り踊り続けた挙句に大太鼓のみが急調子で乱打して最後全鳴り物を鳴らして終わりを告げる。
阿国が終了を告げる「本日は来てくださいまして誠にありがとうございます!ほんに名残惜しゅうはございますがこれにて終わりとさせていただきます。お気をつけてお帰り下さいませ」
それを聞いた観衆が雪崩を打って役者たちに押し寄せる。「いやじゃ!まだまだ続けてくだされ」「お金なら払うよってにもう一度やってくんなはれ」「帰りとうない帰りとうない」
客が暴徒と化す寸前、海野信濃守役のお日出が高らかに叫ぶ。
「お待ちあれ!」
雪崩を打たんとする群衆がピタリと止まってお日出の言葉に耳を傾ける。
「我らとて名残惜しいとは思うが、皆との縁はこれにて終わるわけではない、我らが芝居を続けている限り連綿と続いていくのじゃ。これを噛み締めて明日を生きて行こうではないか!」
これをとうとうと述べた途端になんと役者衆も含め皆平伏した。
観ていた源二が驚愕する。
(何と言う威だ、今の熱狂を一言で治めるなど故太閤や家康狸でも無理かもしれぬ。惜しい!つくづく惜しい!!)
幸村は大阪の陣を振り返り(わしや後藤又兵衛、木村長門守が個々に闘ってもあれだけの戦果が上げれたのじゃ。もし上様があのような威を持って戦に臨まれていればあるいは…)と思ったが瞬時にそれを打ち消す。
「過ぎたことをいくら考えていても詮無き(しょうがない)事、それよりもこれからをどうするかが問題じゃわ」
現在隠れ蓑にしている阿国歌舞伎を抜けた後どうするのかを考える幸村だった。
※新田義貞は南北朝の南朝、後醍醐天皇側の英雄である。お鉄が演じたような振舞いは一切無かったことをここに書き記します。
観客も今までの興奮を爆発させて踊り狂う。
この当時は現代と違い娯楽がほとんどなく、このようなストレスが発散できる場があればそれに全て身を任せていたのである。一晩中盆踊りを踊り明かすというのがそれ。
なんと杖をついて跛を引いていた年寄りまでが手放しで踊りまくるのである。
新田義貞役のお鉄も扮装を落とし、普通の裏方の格好にして踊りに加わっている。
初回の公演で、余りの憎々しげな演技に腹を立てた観客から最後の踊りの場面で蹴飛ばされてしまって以来このようにしているのだが、踊りを辞めるという選択肢はないようだ。
お鉄曰く、「こんな極楽浄土とはこれかと思わせるような場面に加わらないほうがおかしい!」ということだそうな。
老若男女が熱狂的に二刻(約四時間)余り踊り続けた挙句に大太鼓のみが急調子で乱打して最後全鳴り物を鳴らして終わりを告げる。
阿国が終了を告げる「本日は来てくださいまして誠にありがとうございます!ほんに名残惜しゅうはございますがこれにて終わりとさせていただきます。お気をつけてお帰り下さいませ」
それを聞いた観衆が雪崩を打って役者たちに押し寄せる。「いやじゃ!まだまだ続けてくだされ」「お金なら払うよってにもう一度やってくんなはれ」「帰りとうない帰りとうない」
客が暴徒と化す寸前、海野信濃守役のお日出が高らかに叫ぶ。
「お待ちあれ!」
雪崩を打たんとする群衆がピタリと止まってお日出の言葉に耳を傾ける。
「我らとて名残惜しいとは思うが、皆との縁はこれにて終わるわけではない、我らが芝居を続けている限り連綿と続いていくのじゃ。これを噛み締めて明日を生きて行こうではないか!」
これをとうとうと述べた途端になんと役者衆も含め皆平伏した。
観ていた源二が驚愕する。
(何と言う威だ、今の熱狂を一言で治めるなど故太閤や家康狸でも無理かもしれぬ。惜しい!つくづく惜しい!!)
幸村は大阪の陣を振り返り(わしや後藤又兵衛、木村長門守が個々に闘ってもあれだけの戦果が上げれたのじゃ。もし上様があのような威を持って戦に臨まれていればあるいは…)と思ったが瞬時にそれを打ち消す。
「過ぎたことをいくら考えていても詮無き(しょうがない)事、それよりもこれからをどうするかが問題じゃわ」
現在隠れ蓑にしている阿国歌舞伎を抜けた後どうするのかを考える幸村だった。
※新田義貞は南北朝の南朝、後醍醐天皇側の英雄である。お鉄が演じたような振舞いは一切無かったことをここに書き記します。
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