花のようなる天下のあるじ 鬼のようなるつわもの連れて

ふじのぼる

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 大阪城(に似せた背景)の前で尊氏が諸将の前で「良くぞここまで共に駆け抜けてくれた。新田義貞は未だ我らが上洛じょうらくを察しておらぬゆえ、先に京に上りの地に布陣する!先に天王山てんのうざんを取るのじゃ!!」

 観衆が「おおっ」とどよめく。秀吉が「中国大返し」で明智光秀を破ったのが、何を隠そうその山崎の地でありその勝利を決定付けたのが天王山奪取だっしゅだったのである。

 見ている者の殆どが思い出す。出世街道を驀進ばくしんして位人臣くらいじんしんきわめた太閤秀吉。

 その秀吉の天下を決定付けた山崎の合戦のことを。
 皆もうそれだけであのギラギラした時代の熱気を思い出し興奮する。尊氏の軍はときの声をあげ、足音高くとどろかせて下手に去っていく。観客はやんややんやの大声援だ。

 変わって反対側から重苦しい大太鼓の響きとともに、憎々しげにのっしのっし現れる新田義貞。

 大袈裟に両手を振り回しながら「足利の小僧めらが九州でチョロっと人数を増やしたとて、わしに勝てるとでも思っておるのか!ケチョンケチョンに叩きのめしてくれるわ!」と決めつけるが、周りの家臣達は不安げに顔を見合わせ合うばかり。

 そこへ血相を変えた使番つかいばん(伝令)が駆け込んでくる。
「申し上げます!足利尊氏、昨日大阪に到着!間もなく山崎に布陣するものと思われます!!!」

 それに新田が「何じゃと!足利の小僧のくせに早すぎるじゃろ!もうちぃとユルリと来ぬか!」と悪態あくたいをつきながら地団駄じだんだんだ。
「ええい!かくなる上はこちらも出陣じゃ!尊氏めが吠え面かくな!」とわめきながら退場する。


 舞台から誰もいなくなった一瞬の静寂の後、わーーーっ!と叫び声を上げながら双方から多数の武者が出てきて合戦が始まる。 

 ている者にも分かるように全員背中に旗を差す。新田側は一つ引両紋、足利側は五七の桐の紋である。

 最初は乱戦気味だったのが徐々に足利方が押し始め、持ちこたえていた新田側も、ついには潰走し舞台袖に駆け込み、それを追って足利方も舞台からはける。


 さて誰もいなくなった舞台に海野信濃守が足音高く登場して「新田殿!新田殿は何処いずこじゃ!!」と叫ぶ。
 槍を手挟たばさみキョロキョロと見回す彼の後ろを、新田義貞が抜き足差し足で逃げようとすると観客が大騒ぎで「海野~後ろ後ろ!!」

 気付いた海野信濃守が逃げ惑う義貞を槍で追い回し、取り押さえたところで足利尊氏が出てくる。

「新田殿!最早もはやこれまでと覚悟されよ!いざ尋常じんじょうに勝負いたせ!!」
「うぬ!足利の小童こわっぱが何を抜かす!返り討ちにしてくれるわ!!」と憎々しげに掃き捨てて観客の憎悪を掻き立てる。

 両方の家来が加勢しようとするが海野が「一騎打いっきうちの大勝負おおしょうぶなり!邪魔立じゃまだてする奴はこのわしが許さぬ!」の一声で動けなくなった。

 両者抜刀して数合打ち合う。義貞の姑息こそくな技を尊氏が大きい刀技で全てかわす。
 最後に打ち合い、鍔迫つばぜり合いに持ち込もうとする義貞の刀を巻き上げ跳ね飛ばす。

 武器を失って狼狽ろうばいする義貞に、刀をさやに戻した尊氏が「推参すいさんなり!いざ!!!」と拳を握りしめて鼻面はなっつらをぶっ飛ばす!
「ほげーーーーー!!!」と悲鳴を上げ倒れ伏す義貞。

 尊氏と海野は感極かんきわまって舞台中央で抱き合う。そして尊氏が見栄みえを切りながら「われ、人を切り抜きもう候事そうろうこときらもうそうろう。我らに逆らわぬなら去りてゆくが良い!」

「人を切り抜き申し候~」というのは、太閤秀吉が天下を取るまでに『まつろわぬ者は許さぬが傘下さんかに入る者は許し能力に応じて出世させる』という信条である。
昔を思い出して「うおおおおーーー!!!」と大歓声の観衆。

 尊氏が「大願!成就じょうじゅじゃ!」と宣言すると、太鼓や笛、かねに鼓が一斉に鳴り出す。
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