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二幕
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幕間の休憩のあいだに、興奮冷めやらない観客が知らぬ同士でもお構い無しに今の芝居について語り合っていた。
芝居の話とは言っても内容はほぼ海野信濃守についてばかりである。
若い娘らは頬を染め潤んだ瞳で「格好よろしいなぁ」「あないな男はんがこの世にいてはるなんてなぁ」とささやき合う。
男連中は格闘場面の体捌きに蘊蓄を垂れたり、あれは近頃流行りの一刀流ではないかと的外れの講釈をしている者もいる一方で、ヒソヒソと「あの大男の前立て見たか?」「おう、見間違うはずも無い。六連銭やった」「ちゅう事はやな」「あほ、壁に耳ありや。それ以上言うたら捕まるでぇ」「くわばらくわばら」
場内全体が大いにざわめいている中、拍子木がちょーんと打ち鳴らされると、第二幕が始まると知った観衆が水を打ったようにし~んとなる。
場面は幔幕の内に武将と家来十数名が座っているところである。
幔幕に染められた紋所は◯に十の字。観客の一部が「島津はんや」と騒ぎ出す。
ー島津義弘ー
九州は薩摩・大隅を領する鎌倉以来の名門。関ヶ原の戦いでは家康との繋がりがなかったため西軍に属したが、敗色濃厚になった時に戦場を迂回するのでは無く、真っ直ぐ敵中突破して薩摩に帰ったことで満天下のド肝を抜いたことで名高い。
※この芝居では室町時代初期なので当主は島津貞久。
その島津貞久の前に襤褸の羽織を引っ掛けて足利主従(尊氏・海野信濃守)が罷り出る。そして足利尊氏(阿国)が朗々と語り出す。
「そもそも新田義貞の政治が誤っているため世の中が乱れんとしております。御政道を正すには奸臣(悪い家来)を倒すしかありませぬ。どうか力をお貸しいただきたい」
島津が鼻をフンッと鳴らして「新田を倒せと簡単に言うが彼奴も戦上手、家来もたくさんおる。そうそう倒れるものでもあるまい。世迷言など並べておらずに早々に立ち去られるがよろしかろう」
「さあお客人のお帰りじゃ!」の声でわらわらと立ち上がる家来達。
その刹那、足利主従が「お待ちくだされぃ」と着ていた羽織をばっと脱ぎ、頭上でくるくる回して投げ捨てる。下から現れる桐の紋と六連銭。
「なんと!足利尊氏殿と海野信濃守であったか!」島津貞久が叫ぶ。
「うむ、足利尊氏どのと日本一の兵と称された海野信濃守がおれば百戦勝利疑い無し!者共!戦の支度をせい!!!」
「日の本一の兵」の言葉が島津の当主から出たことに「やはり」と納得の観衆たち。
実際にはありえない展開だがヤキモキしていた者には共感の嵐である。
一旦暗転して地謡が足利尊氏が大阪城に入城し、新田義貞が京から出撃する状況を説明する。
この時代に大阪城は無いのだが大道具で大阪城が出現したところで場内全体歓喜の渦に巻き込まれる。
芝居の話とは言っても内容はほぼ海野信濃守についてばかりである。
若い娘らは頬を染め潤んだ瞳で「格好よろしいなぁ」「あないな男はんがこの世にいてはるなんてなぁ」とささやき合う。
男連中は格闘場面の体捌きに蘊蓄を垂れたり、あれは近頃流行りの一刀流ではないかと的外れの講釈をしている者もいる一方で、ヒソヒソと「あの大男の前立て見たか?」「おう、見間違うはずも無い。六連銭やった」「ちゅう事はやな」「あほ、壁に耳ありや。それ以上言うたら捕まるでぇ」「くわばらくわばら」
場内全体が大いにざわめいている中、拍子木がちょーんと打ち鳴らされると、第二幕が始まると知った観衆が水を打ったようにし~んとなる。
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幔幕に染められた紋所は◯に十の字。観客の一部が「島津はんや」と騒ぎ出す。
ー島津義弘ー
九州は薩摩・大隅を領する鎌倉以来の名門。関ヶ原の戦いでは家康との繋がりがなかったため西軍に属したが、敗色濃厚になった時に戦場を迂回するのでは無く、真っ直ぐ敵中突破して薩摩に帰ったことで満天下のド肝を抜いたことで名高い。
※この芝居では室町時代初期なので当主は島津貞久。
その島津貞久の前に襤褸の羽織を引っ掛けて足利主従(尊氏・海野信濃守)が罷り出る。そして足利尊氏(阿国)が朗々と語り出す。
「そもそも新田義貞の政治が誤っているため世の中が乱れんとしております。御政道を正すには奸臣(悪い家来)を倒すしかありませぬ。どうか力をお貸しいただきたい」
島津が鼻をフンッと鳴らして「新田を倒せと簡単に言うが彼奴も戦上手、家来もたくさんおる。そうそう倒れるものでもあるまい。世迷言など並べておらずに早々に立ち去られるがよろしかろう」
「さあお客人のお帰りじゃ!」の声でわらわらと立ち上がる家来達。
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「うむ、足利尊氏どのと日本一の兵と称された海野信濃守がおれば百戦勝利疑い無し!者共!戦の支度をせい!!!」
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