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恋話
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日が暮れる前に、一座は松阪宿にたどり着いた。
正気に帰った敦堂を見た阿国は「あんた膝血だらけでどうしたのさ?」
敦堂は「知りまへんがな、何やえらい情けない思いしたような気がしますわ」と泣いている。
果心と段蔵はゲラゲラ笑っているが、源二は血を洗い流し晒を巻いてやる。
「えらいすんまへん、すんまへん」と敦堂はコメツキバッタみたいに頭を下げていたが、源二は内心(いや良い物を観れたわ)と笑っていたのは絶対に表に出さない。
……………………
現在の松阪は「松阪牛」が美味しいグルメの街だが、この当時は「松阪商人」が頭角を現しだした頃で、この当時はと言うと伊勢街道のただの宿場町である。
阿国は同じ轍は踏まぬとばかりに、この街をとことん調べた。
するとこの街一番の豪商「角屋七郎兵衛」が、本能寺の変の際に家康を助け、本国三河に戻る際の船を用立てた為、領域港湾の自由往来と諸役免除(金銀労働等全ての税を免除)の朱印状を下されたということが分かったのである。
これでこの街も家康贔屓というのがわかったので、阿国は頭を抱えた。
今までやって来た阿国歌舞伎は芝居ではなく、どちらかと言うと踊りだったので、それに戻すには今の「室町殿九州大返顛末」の喝采を逃すのが物凄く勿体ない気がする。
かと言って家康贔屓の芝居をと言うと京八人娘が「そんなんやったら、うちらやんぴどすわ」と拒否反応を示す。
にっちもさっちも行かなくて悩んでいると、三人娘のお花が「上方とお江戸の話が困るんやったら、恋愛話がええんちゃますのん?どうですやろ」
「そうどすなぁ、男と女の恋物語!よろしおすなぁ」
「それはええ考えやわ、こう、胸にググっと来るようなお話を演りとうおすなぁ」
なるほどと阿国は考える。
恋愛の話なら誰も目くじら立てることも無いであろう。
ただ問題はそんな誰もが感動するような恋愛話を誰が書くのかということである。
一座に元々いるものや、京八人娘は芝居や踊りを演る事には長けているが、物語の筋書きをとなると阿国を含め皆お手上げである。
かと言って源二を筆頭とする、合戦後加わった男衆に至っては、相手を滅ぶ滅ぼす事ばかり考えているところがあるので、適任ではない。
果心居士などは「客の真ん中で惚れ薬を焚いたらイチコロだな。だが高いぞ」とか嘯いているが、当然のことながら却下である。
とつおいつ考えに耽っていると、いきなり顔の横から「何か御用かな?」と男の声がしたので阿国は吃驚した。
「ぎゃ~~~わ~~~~~あ~~!!!」
正気に帰った敦堂を見た阿国は「あんた膝血だらけでどうしたのさ?」
敦堂は「知りまへんがな、何やえらい情けない思いしたような気がしますわ」と泣いている。
果心と段蔵はゲラゲラ笑っているが、源二は血を洗い流し晒を巻いてやる。
「えらいすんまへん、すんまへん」と敦堂はコメツキバッタみたいに頭を下げていたが、源二は内心(いや良い物を観れたわ)と笑っていたのは絶対に表に出さない。
……………………
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かと言って家康贔屓の芝居をと言うと京八人娘が「そんなんやったら、うちらやんぴどすわ」と拒否反応を示す。
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「ぎゃ~~~わ~~~~~あ~~!!!」
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