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余りの絶叫に驚いた男は翻筋斗打って倒れ伏した。
阿国は倒れた男を見て「あら甫庵さんじゃない、何でこんな所に?」と不思議そうに言った。
芝居の台本を書いた小瀬甫庵は京で別れたはず。なぜ伊勢国くんだりでまた出会うことになったのか。肝心の御本人が目を回しているので分からないところである。
そこへ奥から果心が出てきた。
気絶している甫庵を見て「ほうほう」とフクロウのように呟くと、袂から長さ三寸(約九センチ)程の細い竹筒を取り出して栓を開け、甫庵の鼻の下で振る。
「ぎゃ~~臭い~~~!!!」
甫庵が叫びながら飛び起きる。
果心がニヤニヤ笑いながら「わし特製の気付け薬じゃ、良う効くじゃろう」
「この嗅ぎ薬は血の巡りを良くするのでな、もう一嗅ぎすれば頭が冴えて本がたんまり書けるぞ?嗅ぐか?」
にじり寄る果心に、全身全霊を込めて甫庵が拒絶する。
無念そうに果心が奥に引っ込んだ。「せっかく出来立ての薬を試してやろうと言うのに意気地なし奴が」
(人の身体で何企んどるんじゃ、油断も隙もない)
甫庵は冷や汗をかきながら阿国に向かって「台本の御用はおありかな?」
……………………
甫庵はこうなることを見越して、阿国一座を追ってきていたのである。
何故なら伊勢湾岸沿いはほぼ関東側の大名の領地であり、山田周辺(現在の伊勢市周辺)は伊勢神宮領・幕府直轄領・津藩領・紀州藩領が複雑に入り混じり、非常にややこしいことになっていたからである。
こんな場所で豊臣贔屓に見える芝居など演ったらとんでも無い事になるのは請け合いである。
「これならまたわしの出番があるじゃろう、前の芝居より本代を高~~~くせんといかんの」と北叟笑みながら来たのだが…
なるほど、恋の話とはなぁ…
わしゃ軍記物なら書くが、愛とか恋とか背中がむず痒くなってたまらんわい…
「ちょっと外へ出て考えるとしよう」と独り言を言って、さあ京へ帰るとするかと表に出ると目の前に敦堂が!
「ワテも付き合いまっさ」
「いやいや、こういう事は一人で考えたほうが捗が行くのじゃ。お前は宿で待っておれば宜しかろう」
「とか何とか言うて、遁ズラしょうと思てまへんか?」
「ば!バカなことを申すな!散歩をするだけじゃ、すぐに戻る!!」
「まあまあ、そない言わんと。中入りまひょ、お菓子がよろしい?お酒がよろしい?」
「酒が良いな」
しまった!!!と思ったがもう遅い。
敦堂の誇らしげな「甫庵はん、奥へお越しでっせ~!お酒お持ちしてえな!」という声がけを聞きながら、甫庵は臍を噛むのであった。
阿国は倒れた男を見て「あら甫庵さんじゃない、何でこんな所に?」と不思議そうに言った。
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そこへ奥から果心が出てきた。
気絶している甫庵を見て「ほうほう」とフクロウのように呟くと、袂から長さ三寸(約九センチ)程の細い竹筒を取り出して栓を開け、甫庵の鼻の下で振る。
「ぎゃ~~臭い~~~!!!」
甫庵が叫びながら飛び起きる。
果心がニヤニヤ笑いながら「わし特製の気付け薬じゃ、良う効くじゃろう」
「この嗅ぎ薬は血の巡りを良くするのでな、もう一嗅ぎすれば頭が冴えて本がたんまり書けるぞ?嗅ぐか?」
にじり寄る果心に、全身全霊を込めて甫庵が拒絶する。
無念そうに果心が奥に引っ込んだ。「せっかく出来立ての薬を試してやろうと言うのに意気地なし奴が」
(人の身体で何企んどるんじゃ、油断も隙もない)
甫庵は冷や汗をかきながら阿国に向かって「台本の御用はおありかな?」
……………………
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何故なら伊勢湾岸沿いはほぼ関東側の大名の領地であり、山田周辺(現在の伊勢市周辺)は伊勢神宮領・幕府直轄領・津藩領・紀州藩領が複雑に入り混じり、非常にややこしいことになっていたからである。
こんな場所で豊臣贔屓に見える芝居など演ったらとんでも無い事になるのは請け合いである。
「これならまたわしの出番があるじゃろう、前の芝居より本代を高~~~くせんといかんの」と北叟笑みながら来たのだが…
なるほど、恋の話とはなぁ…
わしゃ軍記物なら書くが、愛とか恋とか背中がむず痒くなってたまらんわい…
「ちょっと外へ出て考えるとしよう」と独り言を言って、さあ京へ帰るとするかと表に出ると目の前に敦堂が!
「ワテも付き合いまっさ」
「いやいや、こういう事は一人で考えたほうが捗が行くのじゃ。お前は宿で待っておれば宜しかろう」
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「ば!バカなことを申すな!散歩をするだけじゃ、すぐに戻る!!」
「まあまあ、そない言わんと。中入りまひょ、お菓子がよろしい?お酒がよろしい?」
「酒が良いな」
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