花のようなる天下のあるじ 鬼のようなるつわもの連れて

ふじのぼる

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卵焼(後)

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 笛の音が終わると同時に鶴亀段蔵が一礼をし、周りからやんややんやの喝采である。暑いので廊下に向けて開けていた障子の間からも他の逗留客とうりゅうきゃくからの称賛が凄い。

 段蔵がちらっと押し入れを見ると、少し隙間が空いていてこちらをうかがっているが、見られたと知ってさっと閉める。
 (しめしめ、興味を示しておるわ)と北叟笑ほくそえみながら「さあさ、わしの技に勝てるものはおるかな?」

 挑発する段蔵に果心が「そのような芸何程の事やある」と大きい独楽こまを出し、これまた太いひもを巻いて「えいっ!」と回す。

 その紐を器用に使って独楽をポンッと放り上げると綱渡りをさせたり、もう一度投げ上げて刀の刃先で受け止めたり自由自在だ。

「この独楽は鉄環をめておるがゆえ重さが一貫目(約3.75kg)程ある。当たりどころが良ければ極楽往生ごくらくおうじょう疑いなしよ」と果心はうそぶく。

 もう宿屋が倒壊するかと言うほどの歓声の嵐だが、日出ひでよりのぞいている気配はするが出てくる様子はない。

 だれ言うと無く「やはり宇受売うずめが要るな」「うむ、宇受売の踊りが欲しいな」

 やかまし娘の三人が「ウズメって何どす?」とたずねると甫庵が馬鹿にしたように「なんとあめ岩戸いわとの神話も知らんとは!芋ばかり食ってないで、ちっとは本の一冊でも読むが良い」

 甫庵と娘らが言い争うのを源二ゆきむらが止め、話し出す。
「まあ簡単に言うと、天照大御神あまてらすおおみかみの弟である素戔嗚尊すさのおのみこと高天原たかまがはら(神の住む天界)で大暴れした事に怒った天照が天岩戸に隠れてこの世が全て夜になったのじゃ」

「で、神々が集まってにぎやかに騒ぎ、天照に岩戸を出ていただこうとした時におどりを踊ったのが天宇受売命あめのうずめのみことなのじゃ」

 敦堂どうとんが後を受け「せやさかいに日出ひでよりはんに出てもらうには刺激的な踊りが要りまんな」
「ウズメはんは胸も腰もあらわな、情熱踊りをしたっちゅう話でっせ。グヘヘヘへ」

 敦堂どうとんが女性陣による口撃こうげき凹凹ぼこぼこにされているのを横目に見ながら阿国が「じゃぁ誰が踊るのさ」

 その瞬間、全員の視線が大助に集まった「な、な、何ですか!?」

「そうやなぁ、こないなことになったんも大助はんのせいやしなぁ」「ちょっと裸になってもろて女物おんなもん襦袢じゅばん(着物の下着)羽織はおって踊ってもろたら良ろしおすやろなぁ」「良う見たら大助はんもお顔ととのうてはるし、ええんちゃいます?」

 皆自分の肌襦袢はだじゅばんを持って目を輝かせ、ハアハア息を荒げて大助ににじり寄る女性陣。

 それを見てゲラゲラ笑う男性陣。

 やんややんやの歓声を上げる廊下ろうか観衆かんしゅう。正に混沌の嵐の中、押し入れの戸がスパーンと開く!

「大助を困らせるのをめぬか!」と日出ひでよりが出てきた。

 大成功!!!とはしゃぐ男衆。

 一生懸命大丈夫か、怖くなかったかと介抱する日出ひでよりにニヨニヨ笑いの女子衆。

 この当時衆道しゅどう(男色)は広く認められており、日出ひでよりが女と知らぬ女性陣は自分こそ日出に愛されたいと想いつつも、それはそれこれはこれで男前同士(?)のイチャイチャパラダイスに心ときめかせている。

 さあさ!騒ぎは終わり!寝るよ~と阿国が締めて皆眠りにつく。

 ……………………

 翌朝何やら言い争う声がする。
「魚は焼くのが良いのじゃ!!!」
「何をおっしゃる、魚は炊くのがよろしゅうござる!!!」

 また日出と大助が食べ方で喧嘩を始めたが、もう皆ウンザリの表情で「お参りお参り」と出立の支度を整えるのであった。 
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