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内宮
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昔の朝は早い。
今のような蛍光灯やLEDなどは全くなく、明かりとして使われていた蝋燭や油は大変な貴重品なので、一般民衆は夜明け前に起き出し日が暮れれば寝るのが当たり前なのである。
ご多分に漏れず、一行は夜が明けて程ない時刻に内宮到着だ。全員揃い鳥居の前で一礼していると、あちこちから掃き掃除をする者が現れ口々に「犬はいかんぞ」「犬は駄目じゃ」「犬入るべからず」と言いながら集まってくる。
ひええ~~~!と大声をあげて敦堂は内宮の反対方向へ逃げて行った。あちこちから箒を持った男たちが仲介者炭洲のようにわらわら湧いて出て敦堂を追って行った。
阿国が「大丈夫?あれ」と心配するが、他の全員が「心配ない」「すぐに撒いて戻って来る」と言うので取り敢えず参拝する事にした。
そうすると「うどん」ちゃんは誰が…と阿国が言った瞬間、その「うどん」が大助を抱きしめて離さない。
日出は今朝の口喧嘩の件もあって、ぐぬぬっという顔をしながらも割って入るということをしない。
「ほんなら大助はんよろしゅうに」と皆が言うので、仕方なく犬と一緒に鳥居の横に座ろうとしたら思いっきり顔中を舐め回してくる「うどん」。
皆が悲鳴を背に歩き出した。日出だけが後ずさりしそうになっていたが、女子衆が「さあお参りお参り!」と引きずって行ってしまった。
鳥居をくぐって宇治橋を渡るとそこは神域。清浄な空気の中玉砂利を踏みしめて歩くと、それだけで穢れが払われるような気がした。
……………………
実は幸村と秀頼は、宮川を渡る前に密かに話をしていた。
「この度神宮に参拝する訳でござりまするが、上様のお考えは如何で御座いましょうや?」
「狸を討ち滅ぼす、豊臣家を再興する、歌舞伎を続ける等、様々なこの後の一生をお選びいただけまするぞ」
「それを伺った上で、神に祈願致しましょうや」
しばらく黙っていた秀頼だが、やがて口を開いた。「家康殿の仕打ちであるが、あれは父上が三七殿になされた事の因果が巡ってきたものと思う。わしは恨みには思わぬ」
三七殿というのは織田信長の三男、織田信孝の事である。
秀吉にとってかつての主人の息子であるが、次男の織田信雄との争いで家康に味方し、秀吉と信雄に抗った為、切腹させられたのである。
「故に徳川殿を討とうとは思わぬ。そなたには悪いが」
幸村は苦笑して「拙者も大坂城の大戦で、やれる事は全てやり尽くしました。口で言うている程家康には執着が最早ござりませぬ」
「わしが大坂城から落ち延びてから幾らも経っておらぬ故わしに何ができるか、わし自身にもわからぬ」
「唐土(中国)の言葉にも『民の心を得る者は天下を得る』と言う。だがわしはその民の事を知らぬ。学ぶには些か時が要ろう」
「わが父上は下賤の身から天下を取った。さほどの苦労は無理としてもそれに少しでも近付きたいと思う」
「納得致しました。上様の思う通りになされませ。それがしは出来る限り力を尽くさせていただきます」
「頼むぞ」
「お任せ下され。ただ大助を玩具にされるのは少々お控え下され。あれは女子の扱いに慣れておりませぬ故に」
「わ、わしとて男に慣れておりはせぬわ」
秀頼は顔を赤らめた。
今のような蛍光灯やLEDなどは全くなく、明かりとして使われていた蝋燭や油は大変な貴重品なので、一般民衆は夜明け前に起き出し日が暮れれば寝るのが当たり前なのである。
ご多分に漏れず、一行は夜が明けて程ない時刻に内宮到着だ。全員揃い鳥居の前で一礼していると、あちこちから掃き掃除をする者が現れ口々に「犬はいかんぞ」「犬は駄目じゃ」「犬入るべからず」と言いながら集まってくる。
ひええ~~~!と大声をあげて敦堂は内宮の反対方向へ逃げて行った。あちこちから箒を持った男たちが仲介者炭洲のようにわらわら湧いて出て敦堂を追って行った。
阿国が「大丈夫?あれ」と心配するが、他の全員が「心配ない」「すぐに撒いて戻って来る」と言うので取り敢えず参拝する事にした。
そうすると「うどん」ちゃんは誰が…と阿国が言った瞬間、その「うどん」が大助を抱きしめて離さない。
日出は今朝の口喧嘩の件もあって、ぐぬぬっという顔をしながらも割って入るということをしない。
「ほんなら大助はんよろしゅうに」と皆が言うので、仕方なく犬と一緒に鳥居の横に座ろうとしたら思いっきり顔中を舐め回してくる「うどん」。
皆が悲鳴を背に歩き出した。日出だけが後ずさりしそうになっていたが、女子衆が「さあお参りお参り!」と引きずって行ってしまった。
鳥居をくぐって宇治橋を渡るとそこは神域。清浄な空気の中玉砂利を踏みしめて歩くと、それだけで穢れが払われるような気がした。
……………………
実は幸村と秀頼は、宮川を渡る前に密かに話をしていた。
「この度神宮に参拝する訳でござりまするが、上様のお考えは如何で御座いましょうや?」
「狸を討ち滅ぼす、豊臣家を再興する、歌舞伎を続ける等、様々なこの後の一生をお選びいただけまするぞ」
「それを伺った上で、神に祈願致しましょうや」
しばらく黙っていた秀頼だが、やがて口を開いた。「家康殿の仕打ちであるが、あれは父上が三七殿になされた事の因果が巡ってきたものと思う。わしは恨みには思わぬ」
三七殿というのは織田信長の三男、織田信孝の事である。
秀吉にとってかつての主人の息子であるが、次男の織田信雄との争いで家康に味方し、秀吉と信雄に抗った為、切腹させられたのである。
「故に徳川殿を討とうとは思わぬ。そなたには悪いが」
幸村は苦笑して「拙者も大坂城の大戦で、やれる事は全てやり尽くしました。口で言うている程家康には執着が最早ござりませぬ」
「わしが大坂城から落ち延びてから幾らも経っておらぬ故わしに何ができるか、わし自身にもわからぬ」
「唐土(中国)の言葉にも『民の心を得る者は天下を得る』と言う。だがわしはその民の事を知らぬ。学ぶには些か時が要ろう」
「わが父上は下賤の身から天下を取った。さほどの苦労は無理としてもそれに少しでも近付きたいと思う」
「納得致しました。上様の思う通りになされませ。それがしは出来る限り力を尽くさせていただきます」
「頼むぞ」
「お任せ下され。ただ大助を玩具にされるのは少々お控え下され。あれは女子の扱いに慣れておりませぬ故に」
「わ、わしとて男に慣れておりはせぬわ」
秀頼は顔を赤らめた。
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