花のようなる天下のあるじ 鬼のようなるつわもの連れて

餡餅

　程なく阿国達は参拝を終えて戻ってきた。

　大助はうどんに押し倒され顔首胸とやりたい放題に舐め回されている。

「犬畜生の分際でわしの大助に何をするか！」と日出がとんでもない事を言いながら引き離そうとすると、うどんは飛び退って日出に向かってウ～と唸る。

　そこへ敦堂どうとんが帰ってきて「あ～～えらかったつかれた～～」と汗だくで叫ぶ。

　状況を見た敦堂どうとんは「あ！大助はんモテモテでんな！ほな大助はんとうどんの分も代参してきまっさ！」と言うが否やすっ飛んで行った。

　あとに残されたのは阿国達とヘンテコリンな三竦さんすくみだけである。

　……………………

　四半刻(約三十分)の後、無事(？)に全員参拝を終えた阿国達は餡あんころ餅もちを頬張ほおばっていた。
「美味おいしい～～～～～！これよこれ」

　一行は幸福さちふくと言う名の餅屋で休憩していた。

　餅屋の主人、赤次郎が如才じょさいなく接客をしている「いや～ここのところ戦いくさ続きで商売上がったりでしたけど、ようやく戦が終わって仕事に身が入りますわ」

　源二ゆきむらは(今まで聞き耳を立てていたが、民は戦いくさが無くなって心から喜んでおる。ここで家康たぬき退治の軍を起こしても恨みを買うのはわしらじゃな)と渋い顔をした。

　ちなみに前に説明した通り、砂糖は超絶貴重品なのでここの餡ころ餅は控え目の塩味である。

「ちょっと姐ねえさん！そんなに食うたら昼飯食えまへんで！」敦堂どうとんが叫ぶ。

「何言ってんだい！ここまでず～～～っと我慢してきたんだよ！十日食べなくても良いくらい食べてやるさ！！！」

　阿国はまるでギャル曽根が取り憑いたかと思わせるような食べっぷりで、次々皿を空けていく。

　店主の赤次郎はせっせと阿国に餅を運びながら「いや～私わっしも昔は武芸を嗜たしなんでおりましてな。陸奥国むつのくにでは大蛇おろちを、信濃国しなののくにでは狒々ひひを退治したもんですわ」

　源二ゆきむらは首を傾かしげる。京の河原で焼討を仕掛けてきた岩見重太郎こと薄田隼人正すすきだはやとのしょうの話とそっくり同じである。

　この日本ひのもとに大蛇や狒々がそうそう居るとは思えないが、まあ餅屋の主あるじの話に目くじらを立てることもあるまいと、身振り手振り激しく語る赤次郎を苦笑しながら源二ゆきむらは見ていた。