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第一章

第二十四話 『普通の貴族』ではいられないかな

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それからしばらく、望海と未來が問題集でよくわからなかった部分に関する質問に答えていた。

ここは?

それはこうで……。

ここは?

そこは論理を逆に辿ってて……。

ってな感じのやり取りを五度ほど繰り返した後、使用人さんが俺の服を届けに来てくれた。

執事服をそのまま着ていくかと問われたが、いえいえお構いなくと返して、更衣室にお邪魔し、貴族風の服に着替え直した。

「……じゃあ、そろそろ帰るよ」

俺がそう言うと、二人は、

「今日は助けてくれて本当にありがとう」

「ありがとね。魔力酔いの対策も教えてもらったし」

と微笑んだ。
……いや、まあ、『最古ノ魔術師』を引き寄せたのは多分俺だし……と思ったが、事情を説明することもできないので、「どういたしまして」と、簡素に返した。

城に帰る途中で、こんなことを思った。

……さて、二人の中で俺はどんな人物だと思われているだろう。

『光ヲ求メシ虚無』は発動しなかったとはいえ、術式の複雑さは見られたと思うんだけど……。

二人の言葉通り、普通の貴族、では通らなそうだ。


「失礼します」

「……?」

「はい。ご報告があります」

「ああ」

「先刻、『最古ノ魔術師』に遭遇し、これと交戦しました……が、逃走を許してしまいました」

「場所は?」

「……春風家の付近です」

「……そうか」

「はい」

「……よく無事で帰ってきてくれた。

「……まあ、力を持っているだけの魔術師には、負けられないかな」

「そうだな……。力がある人間と、強い人間には決定的な差がある」

「……は、その違いは何だと思う?」

「……力は現象ではなく、物だ。それは所有者によって使われて初めて現象へと至る。

「力に罪はない。誉もない。力は力で、それ以上の何物でもない。

「力を持って――それを完全に制御するものが、強者となる」

「……そう、だよね」

「ああ」

「……」

「ところで、由理」

「ん?」

「報告内容から考えると、春風家の近くに行ったってことだよな?」

「も、黙秘権を行使します」

「黙秘権か。それは別に結構だが、疚しい何かがあると考えていいのか?」

「……そういうことではないんだけどさ」

「他に理由があるのか?」

「えーと……言ったら父さんが卒倒しちゃうかもしれないと思って……」

「その言葉だけで卒倒しそうだ。お前、なにをやらかしてきた?」

「……ちょっとお屋敷にお邪魔したというか」

「屋敷?…………春風家の?」

「春風家の」

「………………」

「……は、はは」

「……まあお前なら、大丈夫かもな」

無理矢理自分を納得させるように、苦笑を浮かべて、父さんは呟いた。
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