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第一章

口にする資格のない願望

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 ―――――これがひどく醜い矛盾した願望であることは分かっていた。

 これまで何人の人間を、見捨ててきたのだろう。

 救えるはずの人を、見逃してきたのだろう。

 そんな罪悪を抱えた人間が――教え子を争いに巻き込みたくないと願うことなんて、間違っている。

 傷ついてほしくないと願うことなんて間違っている。

 俺には人を教え導くようなことはできない。

 気づくのが絶望的に遅かった。そんなことに今気づいても、何の得にもならない。何の価値もない。手の尽くしようがない、愚か者。

 俺はどうしようもない愚か者だ。

 面倒を見始めたのはお前だろうに。

 自分と出会うという――災禍に引き合わせたのは、お前だろうに。

 お前が関わろうとしなければ、こんな世界に足を踏み入れることもなかっただろうに。

 ―――――これがひどく歪んだ救いようのない希望だとは分かっていた。

 傷ついて欲しくなかった。

 そんな表情をさせたくなかった。

 俺を恨んでくれた方が――余程良かった。

 彼女たちに、世界が間違っていると思わせたのは誰なのか。

 彼女たちを、逃れようのない破滅に導いたのは誰なのか。

 ―――教え子を守れないような人間が、先生なんて名乗るな。

 お前にそんな資格は――ない。
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