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第一章
第四十四話 こんな夜も悪くはないと思ってみたり
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夢乃と色々な話をした。
最近の――『最古ノ魔術師』絡みの話は、夢乃を巻き込むわけにはいかないからしなかったけど、その他の――何でもない日常の事を、話した。
その度に、彼女はころころと笑ってくれて――幸せそうな顔を見せてくれて。
こんな夜も悪くない……。
いや、素晴らしい夜だと思った。
彼女から話しかけてきてくれることもあって。
例えば―――こんな話をした。
○
「最初に会ったときは、ちょっと怖い人だなって、思ったんです」
「……そうか?今と何か違った?」
「……お兄ちゃんの歳では考えられないほどの功績を持っていた――というのも原因だったんですけど……」
「……うん」
「あの時のお兄ちゃんの目は、何となく、人間離れしているというか――違う世界を見ているんだなって感じがしました」
「……あの頃は尖ってたからね。荒んでたと言ってもいいな。……三年しかたってないけどさ」
「……でも、たった一度だけ、瞳に何かが過ったのを見たんです」
「……いつ?」
「私に――魔法をくれた時です」
「……そうかな」
「……はい」
「……何かを思い出していたのかもしれない。俺はあの時、過去ばっかり見てたからね」
「凄く優しい光だったなって、思います」
「…………」
「私に本当の魔法を見せてくれて、ありがとうございました。
「―――いつか、お兄ちゃんの手助けが出来るように、頑張ります」
「……ああ、待ってるよ」
「……はい」
○
おやすみなさい、と言って夢乃が部屋に戻ると、俺は広間で独りになった。
部屋に帰ってもいいんだが――もう少しだけ、じっとしていたい気分だった。
三年前。
そして、その前。
俺はずっと、何かを追いかけていたような気がする。決して手は届かないのに、手を伸ばせば――思い切り伸ばせば、届くように見える過去。
俺はそれを追っていた――のかもしれない。
分からない。
何も考えていなかったから。
考える必要はないと、思っていたから。
生きる意味なんて――結局は、自分の可能性に制限をかけたいがために見出す幻想にすぎないと。
知っている。そう思っていたから。
……一つ溜息を吐いた。
らしくもなくセンチメンタルな気分になってしまった。
寝ますかね。
……寝る場所が変わると寝付きにくいんだよなぁ……。
○
目覚めた瞬間に、俺は現状を把握し終えた。うむ。間違いない。
時計を見る。
9:37
……前回の記録よりも早いな。うん。
―――現実逃避終了のお知らせ―――。
……流石に朝食を取っておいてくれたり――は、しないよね。
困り者だよな、まったく。
最近の――『最古ノ魔術師』絡みの話は、夢乃を巻き込むわけにはいかないからしなかったけど、その他の――何でもない日常の事を、話した。
その度に、彼女はころころと笑ってくれて――幸せそうな顔を見せてくれて。
こんな夜も悪くない……。
いや、素晴らしい夜だと思った。
彼女から話しかけてきてくれることもあって。
例えば―――こんな話をした。
○
「最初に会ったときは、ちょっと怖い人だなって、思ったんです」
「……そうか?今と何か違った?」
「……お兄ちゃんの歳では考えられないほどの功績を持っていた――というのも原因だったんですけど……」
「……うん」
「あの時のお兄ちゃんの目は、何となく、人間離れしているというか――違う世界を見ているんだなって感じがしました」
「……あの頃は尖ってたからね。荒んでたと言ってもいいな。……三年しかたってないけどさ」
「……でも、たった一度だけ、瞳に何かが過ったのを見たんです」
「……いつ?」
「私に――魔法をくれた時です」
「……そうかな」
「……はい」
「……何かを思い出していたのかもしれない。俺はあの時、過去ばっかり見てたからね」
「凄く優しい光だったなって、思います」
「…………」
「私に本当の魔法を見せてくれて、ありがとうございました。
「―――いつか、お兄ちゃんの手助けが出来るように、頑張ります」
「……ああ、待ってるよ」
「……はい」
○
おやすみなさい、と言って夢乃が部屋に戻ると、俺は広間で独りになった。
部屋に帰ってもいいんだが――もう少しだけ、じっとしていたい気分だった。
三年前。
そして、その前。
俺はずっと、何かを追いかけていたような気がする。決して手は届かないのに、手を伸ばせば――思い切り伸ばせば、届くように見える過去。
俺はそれを追っていた――のかもしれない。
分からない。
何も考えていなかったから。
考える必要はないと、思っていたから。
生きる意味なんて――結局は、自分の可能性に制限をかけたいがために見出す幻想にすぎないと。
知っている。そう思っていたから。
……一つ溜息を吐いた。
らしくもなくセンチメンタルな気分になってしまった。
寝ますかね。
……寝る場所が変わると寝付きにくいんだよなぁ……。
○
目覚めた瞬間に、俺は現状を把握し終えた。うむ。間違いない。
時計を見る。
9:37
……前回の記録よりも早いな。うん。
―――現実逃避終了のお知らせ―――。
……流石に朝食を取っておいてくれたり――は、しないよね。
困り者だよな、まったく。
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