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第一章

導かれる道理のない解答

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 自分を責めたところで。

 世界を憎悪したところで。

 どうにもならない事は目に見えていた。教え子たちは、状況を改善しようと奔走していたが、俺には既に、一つの結末が見えていた。その解答が、最も穏便で安全で賢明で容易であることは分かっていた。完全に理解していた。

 ぶち壊した。

 理想的な解答なんか求めていなかった。

 まして、世界にとって――多数にとっての理想なんて。

 俺はただ一つの明確な目的によって、状況を根底から覆してかき回した。時間稼ぎをするためだ。

 そうして生まれた時間の隙間で、俺は彼女と向かい合っていた。

 俺が何をしているか聞いていたようで、彼女は何度も俺を大馬鹿だと言った。

 確かにそうだ。

 否定なんて出来るはずもない。俺自身が――これが賢い選択でないことを理解していたのだから。

 そうだ。これは正しいことではない。

「ごめんな……」

 彼女を説得した後で、俺はそう言った。

 彼女は首を横に振った。

 そして何も言わなかった。

 何も言わずに、俺に抱き着いてきた。

 小さな嗚咽が聞こえてくる。

 どこから聞こえるものだか判然としない。

 俺のものか。彼女のものか。

 或いは運命が軋んでいる音なのかもしれなかった。

 視界が滲んでいくのが感じられた。

 頬を流れる液体の感触が妙に鮮明に感じられた。

 いつの間にか太陽は随分と低くなっていた。

 辺りが急に暗くなっていった。

 もう限界だと告げるように雨が降り出した。

 雨は何もかもを溶かしていくように思えた。徹底的に。優しく。残酷に。

 だったらどんなによかっただろう。

 俺は手の甲で自分の頬を拭った。

 目元を拭った。

 彼女の顔をもう一度見て、何もかもが終わりに近づいていることを知った。
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