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第一章
第五十七話 ゆらゆら揺られて寝て醒めて
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ゆらゆらと、体が不規則に揺れる感覚に起こされた。
……起こされた?
俺は頭を持ち上げて、掠れた視界の中で現状を把握しようとした。
「おはよう」
したところで、至近距離から声が聞こえた。反射的に声が聞こえた方向――左側を向くと、弥生さんの微笑が存在していた。
「……………ああ、なるほど。寝ちゃったのか……」
そういえば眠りに落ちる感覚を覚えた記憶がある。この船のようにゆらゆらと――。
「え?」
「どうしたの?」
「船に……乗ってますよね」
「そうね」
「……馬車から船に移った記憶がないんですけど」
「起こしてないもの」
「…………」
俺はここに至って完全に現状とその背景を認識した。
「運んでもらった……ってことですよね」
「そういうことになるわね」
「……ご迷惑をおかけしました」
言い訳になるが、これにはちょっとした理由があるのだ。
昨夜の騒動の後で追撃を警戒し、外の庭で仁さんが、王宮の中心――魔法の射程の関係で、王宮内のどこに異変が起こっても干渉できるように――で俺が寝ずの番をしていたのだ。
だからちょっと眠気が限界値を振り切ったみたい。
……しかしそれを考えると、ちょっと気になることがある。
「あのもしかして、肩に頭を乗っけて寝てしまっていたり……」
「今起きた時はね」
なら今起きた時でない時はどうなっていたんだ。
「ちょっとした揺れの度に――そうね、五分おきくらいに、私と夢乃ちゃんに交互にもたれかかってた……かな」
「すいませんすいません」
……なんだかそれは不本意なメタファーのようだったけれど、夢乃にも謝っておかねば……と思い、右を向く。
……今まで反応がなかったことから予想はしていたが、夢乃は静かに眠っていた。
「夢乃ちゃんは……大体三十分前くらいから眠り始めたと思う」
「……気疲れとか、させてしまいましたかね」
「……なくはないと思うけど、気分が落ち込んでるようなことはなかったんじゃないかな。この船、盛大に揺れることがないし、眠くなるのも自然なことだと思う」
「ま、まあ、そうですね」
思い当たる節が……。
「そうそう」
「……船に乗ってからどれくらい経ちました?」
「二時間くらい」
……もう三十分もしない内に着いてしまうのか。
「別にまだ寝ててもいいよ」
弥生さんは悪戯っぽい笑みを浮かべて、自分の右肩をとんとんと軽く叩いた。右肩ということはつまり俺に近い方だということであり、それが表すことが何かは刹那の思考の必要もないほどに明白だった。
言葉を発そうとした瞬間、夢乃の頭が俺の肩――その少し下にこてりと当たった。
……起こされた?
俺は頭を持ち上げて、掠れた視界の中で現状を把握しようとした。
「おはよう」
したところで、至近距離から声が聞こえた。反射的に声が聞こえた方向――左側を向くと、弥生さんの微笑が存在していた。
「……………ああ、なるほど。寝ちゃったのか……」
そういえば眠りに落ちる感覚を覚えた記憶がある。この船のようにゆらゆらと――。
「え?」
「どうしたの?」
「船に……乗ってますよね」
「そうね」
「……馬車から船に移った記憶がないんですけど」
「起こしてないもの」
「…………」
俺はここに至って完全に現状とその背景を認識した。
「運んでもらった……ってことですよね」
「そういうことになるわね」
「……ご迷惑をおかけしました」
言い訳になるが、これにはちょっとした理由があるのだ。
昨夜の騒動の後で追撃を警戒し、外の庭で仁さんが、王宮の中心――魔法の射程の関係で、王宮内のどこに異変が起こっても干渉できるように――で俺が寝ずの番をしていたのだ。
だからちょっと眠気が限界値を振り切ったみたい。
……しかしそれを考えると、ちょっと気になることがある。
「あのもしかして、肩に頭を乗っけて寝てしまっていたり……」
「今起きた時はね」
なら今起きた時でない時はどうなっていたんだ。
「ちょっとした揺れの度に――そうね、五分おきくらいに、私と夢乃ちゃんに交互にもたれかかってた……かな」
「すいませんすいません」
……なんだかそれは不本意なメタファーのようだったけれど、夢乃にも謝っておかねば……と思い、右を向く。
……今まで反応がなかったことから予想はしていたが、夢乃は静かに眠っていた。
「夢乃ちゃんは……大体三十分前くらいから眠り始めたと思う」
「……気疲れとか、させてしまいましたかね」
「……なくはないと思うけど、気分が落ち込んでるようなことはなかったんじゃないかな。この船、盛大に揺れることがないし、眠くなるのも自然なことだと思う」
「ま、まあ、そうですね」
思い当たる節が……。
「そうそう」
「……船に乗ってからどれくらい経ちました?」
「二時間くらい」
……もう三十分もしない内に着いてしまうのか。
「別にまだ寝ててもいいよ」
弥生さんは悪戯っぽい笑みを浮かべて、自分の右肩をとんとんと軽く叩いた。右肩ということはつまり俺に近い方だということであり、それが表すことが何かは刹那の思考の必要もないほどに明白だった。
言葉を発そうとした瞬間、夢乃の頭が俺の肩――その少し下にこてりと当たった。
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